お化け怖い
俺達がルイさんの頼みを受け入れたことで、ルイさんは満足げに笑みを浮かべている。
「快諾してくれてありがとう。君達の端末から私に連絡できるようにしておいた。何か困ったことがあれば遠慮なく連絡してくれ。それと、ここでの話の内容は、他のプレイヤーには口外しないで欲しい。いらぬ混乱を招きそうだからな」
ルイさんが立ち上がって手をかざすと、部屋に転移ゲートが出現した。
「そこの転移ゲートから君達のログハウスに帰れる。使ってくれ」
出現した転移ゲートに入ると、ログハウスの庭に出た。三人が転移ゲートを抜けると、それは消えた。
陽那と結月は、満面の笑みで俺の腕に絡みついている。
「現実世界に戻っても一緒に過ごせるんだー♪」
「伴侶かー、フフフ♡」
……二人ともご機嫌なようでなにより。
さて、今からどうしようか。フィールドボスを倒すつもりが、結局お茶しただけだったもんなぁ……。
ふと庭を見渡すと、視界に転移ゲートが映った。あれが特別な転移ゲート……? あの中に入ってモンスターを狩れってことだよな。俺は転移ゲートを指差し、陽那と結月に聞いてみる。
「早速行ってみる?」
二人は頷いたので、俺達は転移ゲートに入ることにした。
転移先には、宵闇の中にいかにも怪しい雰囲気の洋館が建っていた。洋館を照らすのは赤い満月で、鳥の声と風に揺れる葉の音が不気味さを演出している。
……変なところにこだわっているなぁ。
俺達が洋館の玄関に近づくと、ギィィィと音をたてて扉が開く。
「私、こういうの苦手」
結月が眉をひそめて呟く。腰に下げた刀の柄を握る彼女の手には、普段よりも力が入っているような気がする。
開かれた玄関の扉の前に立って、洋館の中を見ると広くて天井の高いホールになっていた。正面には大きな階段がある。それに、玄関ホールの両脇には、槍や剣を持った甲冑が複数立っている。
これ絶対動いて襲ってくる奴だよね。
俺達は警戒しながら、玄関ホールに足を踏み入れる。三人が屋敷に入ったところで、玄関の扉が勢いよく閉まった。
それと同時に、甲冑たちがガチャガチャと音を立て動きだし、襲い掛かってきた。やっぱりか。
今までは、岩のモンスターばかりと戦っていたので新鮮だ。システムアシストによって、視界にリビングアーマーと名前が表示される。
リビングアーマーたちは、山岳地帯のモンスターよりもいくらか強いような気もするけど、陽那と結月は軽く一蹴してしまった。
モンスターを全滅させて、静かになった洋館の中を見渡すとかなり広いようだ。
部屋も沢山あり探索するには時間が掛かりそうだな、と考えていると、スーッと白いものが目の前を横切る。ゴーストタイプのモンスターか。
きっと物理攻撃は無効なんだろうなぁ。魔法をぶつけてみるか、と手のひらをモンスターに向けて狙いを定めていると……。
「キャァァァ! お化け出たー!」
大声をあげて結月が俺に飛びついた。彼女の肩はガタガタ震えている。
「落ち着いて、お化けじゃなくてモンスターだよ」
「嫌だよ! お化け怖い!」
俺は結月を抱いて声を掛けるが、まるで幼い子供のように怖がっている。
結月が取り乱しているのを見て、陽那が「私に任せて」と火炎の矢を撃ちゴーストタイプのモンスターを倒した。
「あいつ、たいして強くないよ。結月なら魔刃で斬れると思うけど……」
陽那が気遣うように結月の肩に手を置くが、結月はフルフルと首を横に振る。
結月はお化けが苦手だったのか。早くクリアしてここから出よう。
「この洋館のどこかにボスモンスターがいるはず。部屋がたくさんあるから、一つずつ見ていこうか」
「イヤッ! 無理! 怖いよ……」
「結月、怖かったら俺につかまっていて」
普段は凛としていて頼りになる結月も、今は震えながら俺にしがみついている。怖がっている結月には悪いけど、可愛いなぁと思ってしまった。
それから部屋を一つ一つ見て回るが、ゴーストタイプのモンスターが出るたびに結月は絶叫していた。陽那がすべて倒すので、戦力的には問題はないけど怯える結月がかわいそうだ。
順番に部屋を回り、次がようやく最後の部屋だ。
最後の部屋には、ボスと思われる大型のゴーストと、取り巻きの小型のゴーストが複数いた。もはや結月は失神寸前だ。
陽那が火炎の矢を連射して手早く倒すと、自動でログハウスの庭に戻ってきた。
結月が青い顔をして震えているので、抱き寄せて「もう大丈夫だよ」と背中をポンポンしていると、俺のスマホが振動した。
「メッセージの着信だ。ルイさんからだな」
俺はメッセージを確認して、声に出して読んだ。
「どうだったかな? クリアするたびに転移先が変わるから楽しんで欲しい」
「全然楽しくないよ。怖かったよ……」
結月が涙目で呟くので、彼女の頭を小さい子供にするように撫でるのだった。
* * *
その夜、自室でそろそろ寝ようとベッドに横になると、コンコンとドアをノックし結月が部屋に入ってきた。
「樹……、怖くて寝れないから一緒に寝ていい?」
結月が目を潤ませて、上目遣いで迫ってくる。そんな結月の頼みを、俺が断れるわけもなく「いいよ」と答えると、陽那も部屋に入ってきた。
「結月だけずるい。私も一緒に寝る」
陽那と結月はベッドの中に潜り込んできた。
結月は抱き着きついて、俺の胸に頬ずりをする。
「樹の体温が気持ちいいな。安心して眠れそう」
パジャマ越しの結月の柔らかさが、理性をぶっ壊しに来ている。
陽那も俺に密着し、いろんな部分を押し付けてくる。俺は横になったまま、気をつけの体勢で硬まっていた。
「……なに硬くなってるの? リラックスしなよ」
「あ、あぁ……」
陽那と結月は「おやすみ」と俺の頬にキスして目をつむった。
彼女達のせいで、体のとある一点に血が集中して、パンパンに張っている。なんかもう、痛いくらいだ。
ベッドから抜け出して疼きを処理したいところだが、二人はしっかりと俺の手を握っていて離してくれそうにない。
俺って我慢強いよな? むしろ、この状況って我慢しなくていいんじゃないのか?
悶々と葛藤している俺をよそに、二人はスースーと寝息を立てているのだった。




