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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

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オムライス

 それにしてもさっきの奴、弱かったなぁ。動きなんて遅すぎてスローモーションかと思った。


 あんなに遅くて、やっていけるのだろうか? そんなことを考えると、音声アシストが聞こえる。


「現在の柳津樹の魂力は1373です。魂力の大きさを比較すると、先ほどのプレイヤーの強さ判定は『とても弱い』になります」


「へー、さっきの奴って魂力はいくつなの?」


「フレンドになっていないプレイヤーの魂力は開示できません」


 ……そうですか。このゲームって、変なところで固いよな。


 それはともかく、さっきの奴が弱かったのは、魂力差のおかげだったのか。


 第三のエリアで、効率よくモンスターを狩れるプレイヤーはまだ多くないんだろう。俺だって 陽那と結月がいなければ、とてもじゃないが戦えないからな。


 陽那と結月に感謝しないと。……彼女達には感謝ばかりしてる気がする。俺も何か返せるように頑張らねば!




 通路を歩きセンターに戻ってきた。ログハウスに戻る途中で結月が呟く。


「……PvPか、それを使えば樹を効率よく鍛えられるかも。家に帰ったら試してみよ?」


「結月と戦うの?」


「そう、手合わせすることで得られることは多いんだよ」


「結月の剣技を受けるのか……。ちょっと怖いな」


 俺が及び腰でいると、結月は俺の左腕に抱き付き身を寄せた。


「大丈夫、この世界ならケガしないでしょ?」


 俺の腕に押し付けられる柔らかい感触に、すべての意識が集中してしまい、生返事してしまった。


「そ、そうだね。やってみるか!」


 その様子を見ていた陽那が、俺の右手を握り腕に絡みついてきた。


「じゃあ、二人がPvPしている間に、私は夕食作るね」


 俺の両腕に、柔らかいものがギュッと密着している。幸せのあまり、意識が飛びそうになったがどうにか堪えた。


「陽那って料理できるの?」


「できるよ。現実世界では、毎日私が準備してたよ。うちの親、共働きでお母さんも帰ってくるのが遅かったし」


「何か作って欲しいのある?」


 陽那の手料理なら、どんな料理でも食べたい。でも女子の質問に『何でもいい』は最大の禁句らしいのでなんとなく「オムライス」と答えてみた。


「いいよー、買い物してから帰ろ」


 ショッピングモールに寄って、買い物をしてから家に帰ると、陽那は夕食の支度をしにキッチンへ行った。


 俺と結月はpvpをするべく庭に出た。


 結月と5m程度離れて向き合う。俺は視界に映るアイコンを操作して、結月に決闘を申し込んだ。


 音声アシストの「はじめ!」の号令で俺は剣を正眼で構えた。結月は剣を抜いてはいるが、リラックスした様子で微笑んでいる。


「樹には私の本気を知って欲しいから、最初の一回だけ本気で行くね」


 俺が「分かった」と返事をすると、結月は下段で構え、鋭い目つきに変わった。


 結月が発する気迫に飲まれ、俺の全身から汗が噴き出る。結月は魔刃を使っている様子はないが、向き合っているだけで押しつぶされそうだ。ガタガタと脚が震えてきた。


 俺は結月に、恐怖心を抱いているのか。


 ゆらりと結月が動いたと俺が認識した刹那、体に衝撃が走り吹き飛ばされていた。たった一撃で俺のHPは0になり勝負がついた。


「WINNER 桜花結月!」


 結月が駆け寄ってきて「大丈夫?」と俺に手を差し出してくれたので、俺は「ああ」と返事して、結月の手を取り立ち上がった。


「なにが起こったか、分からなかったよ」


「そっか、今は私と樹の実力の差は、それだけあるってことだよ。でも私が手取り足取り教えてあげるから、すぐ強くなれるよ」


 結月の先程までの威圧感は消え去り、今は天使のような笑顔だ。俺は苦笑いをしながらも、気を取り直してもう一回決闘を申し込む。


「今度は樹が好きなように打ち込んできて」


「OK、じゃあ行くよ」

 

 俺は必死になって刀を振るうが、全てを軽く受け止められ、いなされてしまう。しばらく必死になっていると、陽那が「夕食の準備ができたよー」と呼びに来た。


 結月は息も乱さずに「今日はここまでにしようか」と、刀をアイテムストレージにしまった。俺は肩で息をしながら頷く。


 俺と結月の魂力はほとんど同じはずなのに、刀をかすめることさえできなかった。


 結月の強さは分かっているつもりだったけど、積み重ねてきたものの違いを改めて痛感させられた。


 そこらのチンピラを倒したくらいで、いい気になっていられない。俺は少しでも彼女に近づけるように、頑張ろうと思うのだった。




 * * *




 ダイニングに向かうと、美味しそうな香りが室内を満たしている。オムライス、サラダ、ポタージュスープが綺麗に並べられていた。オムライスの皿にはポテトとミニハンバーグも乗っている。


「おー、凄い。美味しそう」


 三人で手のひらを合わせて「いただきます!」と声をそろえる。


 俺はオムライスをスプーンですくって、口の中に入れた。


「うまい!」


 バターの香りが食欲をそそる。卵はふんわりとしていて、口の中でとろける感触が貯まらない。


 オムライスって、卵の部分をふわふわにするのは難しいって聞くけど、陽那の作ったのは完璧だ。それに美味しい。結月も「陽那って料理が上手なんだね」と感心しているようだ。


「えへへ、昔からお母さんの手伝いしてたし」


 陽那は照れ笑いをしている。


 得意気な顔もとても可愛いな。そんなことを思いながら、俺は次々と料理を口に運んでいく。あぁ、陽那の料理って本当に美味しい。


「陽那の家族は、陽那の手料理を毎日食べれられるなんて羨ましいなぁ」


「樹も私の家族になればいいんじゃないかなー? 旦那さんとか」


「ソ、ソウダネー」


 ……結月の方をチラリと見ると、特に反応は無いようなのでホッとする。余計なことは言わなければ良かったと思いながら、陽那の手料理を堪能したのだった。


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