MP回復
――新居での一夜が明けた。
高級感のあるダイニングで、朝食を食べている。
テーブルを挟んだ向かいには、陽那と結月が食事をしている。
二人とも今日も可愛いなぁ……あぁ、幸せだ。
「なにニヤニヤしてるの?」
陽那に声を掛けられて、はっと我に返る。
「い、いや、何でもないよ。今日は何する? もう無理にお金を稼ぐ必要もないよね?」
陽那は「うーん」と少し考えてから答える。
「私はフィールドに行って、どれだけ魔法が強くなったか試したいな」
結月はどうだろうと思い、結月に視線を向ける。
「私も固有スキルの魔刃を試してみたい」
二人とも固有スキルを得て、どれだけ強くなったのか試したいようだ。
なら今日も、北の山岳地帯フィールドに行くとしますか。
* * *
北の転移ゲートの広場には、昨日俺達が開放した転移ゲートを含め、三個の転移ゲートが中央付近に浮かんでいる。俺達は第二のエリアのボスがいた広間に続く転移ゲートをくぐった。
北の山岳地帯フィールドに出ると、結月はアイテムストレージから刀を取り出した。
「早速魔刃を試してみるね」
結月が刀を握りしめると、刀身に青いオーラが立ちこめる。そのまま軽く刀を振ると、ブワッと風が巻き起こった。結月は青いオーラに包まれた刀を見ながら呟いた。
「使い方が分かる気がする」
青いエフェクトといい、剣を振っただけで起こる風圧といい、とても強そうだ。結月のことが、いつにも増して頼もしく見えた。
山岳地帯フィールドの、第三のエリアを進んでいくことにする。
出現するモンスターは1~2mくらいの大きさの狼、トカゲ、猿のような動物の形をした岩だ。
アシストの判定では『強い』モンスターばかりだ。多分大丈夫だとは思うけど、思わぬダメージを受けた時のために、回復スポットからあまり離れすぎないように戦うことにした。
陽那は昨日の中ボス戦でやって見せたように、炎の矢をガトリングガンのように連射をしたり、3mくらいの大きな火球を作り、それをピンポン玉大まで圧縮してモンスターに飛ばしたあと炸裂させたり、氷塊、水球、岩石などを発生させて高速でモンスターに撃ち込だりと多彩な魔法を次々使用していた。
「思い通りに魔法が使えて気持ちいいー!」
陽那はご満悦の様子だ。無邪気にはしゃぐ姿も可愛い。
陽那は魔法を発動させるための、言葉を発しているようには見えなかったので、イメージだけで魔法が使えるみたいだ。
結月は魔刃を使い、青いオーラを纏った刀で薙ぎ払うと、前方10mの広範囲が扇状に一気に切り裂かれ、複数のモンスターが粉々になった。
その威力を目の当たりにして、彼女は肩をすくめる。
「こんなの剣術としては邪道だよ。でもゲームクリアに近づくなら、どんどん使わせてもらう。MPも減らせるし」
強力な固有スキルだが、剣士としては複雑な胸中のようだった。
俺は刀を持って、彼女たちが新しい能力の確認をしているのを、ただ眺めているだけだった。だって、下手に前に出ると、巻き込まれてしまいそうだし……。
それにしても、あまりにも簡単に「強い」モンスターを次々と倒しているよな? 二人の戦いぶりを、見ていてふと疑問に思う。アシストのモンスターの強さの判定って何なんだ?
「魂力の大きさのみを比較して判定しているため、必ずしも実態に合っているわけではありません。素の強さ、技量、固有スキルなどの要素は加味されていません」
技量が高かったり、強力な固有スキルが使えれば、魂力差を覆して有利に戦えるってことか。
チート級の強さの恋人二人、しかも美少女。そうだ、きっとこの世界は楽園なんだなー、と感慨に耽るのであった。
* * *
しばらくモンスターを乱獲し続けていると、陽那が駆け寄ってきて、甘えた声を出す。
「樹、MPが無くなっちゃった。回復して♡」
結月も駆け寄ってきて、頬を染め照れながらおねだりをする。
「わっ、私もMPが無くなったから、回復してくれないかな?」
MP回復して欲しいって、キスして欲しいってことだよね? 俺も当然したいと思ったが、DTな俺はつい心とは反対のことを口走ってしまった。
「えっ、回復スポット近くにあるから戻ろうか?」
すると二人は同時に「はっ?」と真顔になった。すさまじいプレッシャーで押しつぶされてしまいそうだ。
「いぇ、回復させてください……」
二人の表情は、ぱあっと笑顔に切り替わった。
その後、陽那と結月は向き合って真剣な顔になる。何をするつもりだ? と思っていたら、じゃんけんを始めた。
「じゃん、けん、ぽん!!」
「やった!」「うぅ……」
陽那がガッツポーズをして、結月は膝をがくっと地面につける。陽那が勝ったのかな?
「じゃあ、よろしくね」
陽那が正面から抱き着いてきたので、俺も華奢な体をそっと抱き寄せた。俺が陽那の唇に自分の唇をそっと触れさせると、陽那は右手で俺の頭の後ろを押さえて自分の方に寄せる。
……長い、息ができない、窒息する……。意識が遠のきかけたところで唇が離れた。
頭がふわふわする。気持ち良かった……。
「むぐぐ、次は私の番!」
陽那が離れると、結月が抱き着いてきた。俺は軽く結月の背中に手を回す。
「ねえ、もっと強く抱きしめて」
結月は俺の首に息がかかるほど顔を寄せて囁くので、思わずギュっと抱きしめてしまう。
二人の体が密着したところで、結月は半開きの唇を俺の唇に押し付けてきた。両手でしっかり俺の頭と首を押さえ、ロックされた状態でキスをする。
またまた長い。俺が窒息する前に結月の唇は離れた。
「結月の方が長かったー! しかもちょっとえっちな感じがしたー! ズルいー!」
「え? 陽那と同じくらいだったよ?」
陽那が眉を吊り上げ抗議すると、結月は笑みを浮かべてとぼけた。そのまま二人で言い争っているので、俺は二人の間に入り仲裁する。
「MP回復は一日一回ずつだから、また明日しよ?」
二人はしぶしぶ頷いて、言い争いをやめた。
冷静っぽく振る舞ってみたけど、本当は頭の芯まで蕩けるような快楽の二連続に、立っているのもやっとだった。