恋に悩む者
センターに戻り、家を売っているところに急ぐ。三人で50万Crずつ支払い、ログハウス風の家を購入した。
早速、三人でログハウスに入っていく。
中は広々としていて、高級感がある。キッチンはアイランド型で、調理器具が完備されており、整然と収納されていた。ダイニングには木材の素材感のあるテーブルと、椅子が配置してある。
広くて天井の高い開放感のあるリビングには、木目の模様のあるローテーブルと、フカフカなソファーが配置してあり、どこぞのセレブのような贅沢な雰囲気だ。ゲームの中だしこういうのもいいよね。
陽那と結月は目を輝かせ、大はしゃぎで家の中を探検している。
一通り探検して落ち着いたところで、それぞれの部屋を決める。各部屋には机やベットなどの家具も設置してあり、すぐにでも生活できそうだ。
……生活? もしかして俺、美少女二人と同棲するってこと? 突然とんでもないことに気が付き、心拍数が跳ね上がってしまった。そんな俺の動揺など気にも留めずに女性陣は賑やかだ。
「今日からここが私達の家なんだー」
結月は興奮した様子で、喜びの声を上げている。
「今夜は自宅パーティーだね! ご馳走を買ってこよう!!」
陽那の号令で、俺達はショッピングモールへ買い出しに向かった。
* * *
買い物をして戻ってきた。
大量に買い物をしたが、アイテムストレージのおかげで全くかさばらない。買い物袋すらいらない便利さだった
さっそく買ってきた物をリビングのテーブルに広げる。ソフトドリンクで乾杯をして、ピザを食べながら考える。
そういえば昼間、資質に応じた能力がなんとかって、音声アシストが言ってたな。陽那と結月にそのことを話して、お互いのステータスを確認することにした。まずは結月から見ていこう。
桜花結月
魂力 1025
最大HP 1252
HP 1252
最大MP 527
MP 527
固有スキル 魔刃
ボスを倒したことで、またステータスがあがっているな。
固有スキル、魔刃ってなんだ? 俺の疑問に音声アシストが答える。
「武器に魔力を乗せることが出来るようになります」
「MPを消費しますが、威力、貫通力が増加し、工夫次第で遠くのものを切るなどいろいろ応用可能です。消費MPは武器に込めた魔力に比例し増加します」
結月の攻撃力が、さらにが上がりそうだ。彼女にぴったりなスキルだ。
次は陽那だ。魔法系の固有スキルかな?
鳴海陽那
魂力 1001
最大HP 1066
HP 1066
最大MP 1326
MP 1326
固有スキル 魔法の境地
陽那のステータス、MPの増え方が半端ないな。固有スキルは……って、魔法の適性どころか境地に至ってるじゃないか?
音声アシストが、すかさず解説してくれた。
「スキル名なので、境地という言葉自体の意味とはやや異なる可能性があります。魔法の威力、精度、発動速度などが大幅に上がります」
細かく突っ込んでもしょうがないか。要するに陽那が使う魔法はものすごく強力ってことだよね。頼もしい。
最後に俺だな、ぶっ壊れのチートスキル、クルー?
柳津樹
魂力 1109
最大HP 1316
HP 1316
最大MP 567
MP 567
固有スキル 恋に悩む者
魂力は俺が一番高いな! えーっと、俺の固有スキルは……、は? いや、これスキルじゃないだろ。ただの俺の精神状態じゃないか!?
「固有スキル、恋に悩む者です」
音声アシストさん、言い切りやがった……。
「フレンドの中から恋人に指定できます。指定された恋人は常時20%のステータスアップのバフがかかります。また恋人を対象として使用する回復、補助魔法は効果が二倍になります」
「恋人の指定数には上限はありません」
「恋人である対象にキスすることでMPを全回復させることが出来ます。ただし一日一回のみです。複数の対象にすることは可能です」
ナニコレ……? 左右をみて陽那と結月の顔を確認すると、ニッコリ笑って俺の肩にコテンと頭をのせて声を揃えた。
「ねー、樹ー、恋人だってー」
結月は俺の固有スキルの解説を口に出して読みながら、腕を絡めてきた。
「恋人に設定すると、能力が上がるみたいだね」
陽那もそれに続いて、俺の腕に絡まってくる。
「MP回復できるみたいだよ! 恋人っていいなぁ」
二人から、何とも言えない圧を感じる。
くっ、まさかこんなところでピンチが訪れるとは。俺はすかさず視界に映るアイコンを操作し、陽那と結月を恋人に設定する。
「鳴海陽那が恋人に設定されました」
「桜花結月が恋人に設定されました」
すると、陽那はからかうように「樹は二股男だねー」と言いながら肘で俺の脇腹をつつき、結月もわざとらしく「ヒドイ男ねー」と眉をハの字にした。
俺は二人に軽く罵られたが、ゲームのシステム上とはいえ、陽那と結月を恋人にしてしまったことに、この上ない喜びを感じてしまった。
二人は微笑みを湛えながら、無言で俺を見つめている。いたたまれない気持ちになり、
「こ、これはあくまでもゲームのシステム上のことだからね。バフとか、MP回復とかあるみたいだし。いつかはきちんと恋人に……」
その後も美少女二人にいじられながら、そして必死に言い訳しながら、自宅パーティーの楽しい時間は過ぎていくのだった。




