三人、それぞれの想い
部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。
唇には結月の唇の柔らかな感触が、鼻腔には結月の匂いが、腕には結月の温もりがまだ残っている。
昼間は陽那とキスをしたというのに、結月ともキスをしてしまった。
夢見心地でボーっとしている頭で、自分の今の状況を考えてみた。すると、音声アシストが聞こえる。
「二股、二人の恋人と同時交際すること」
「やかましい、しってるよ!」
これでは、俺はリア充どころかクズ野郎じゃないか。
昼間にキスした直後の陽那の表情と言葉を思い出す。「樹、大好き」と、陽那は頬を赤らめながらも、真っ直ぐ俺を見つめて言っていた。
そして、先程の結月とのことを思い出す。
彼女も涙を溢しながら、俺のことが大好きだと言ってくれた。陽那と俺がキスしたことは、気が付いていたとも言っていた。その上で俺を誘い、キスをしたのか。
二人とも俺なんかでは、決して手の届かない高嶺の花だと思っていた。そんな美少女二人が俺のことを好きになってくれるなんて。
結月が「私か陽那のどっちを選ぶか決まったら教えてね」って言ってたな。あの二人のうちのどちらかを選ぶ? 俺が……?
そんな贅沢極まりない悩みを抱えて、微睡んでいくのだった。
* * *
鳴海陽那の視点。
部屋で一人、フレンドの現在位置を確認している。こんな時間に樹と結月、二人だけで北の転移ゲートに向かってる……。
こんな時間にフィールドの探索? まさかね……。
昼間、三人で遊んでいる間、時々結月が悲しそうな顔をしていた。多分気付いたんだ……、私達がキスをしたこと。きっと今から樹にキスを迫るに違いない。
樹のことだから、結月に迫られたら断り切れずにキスしちゃうんだろうな……考えると涙が出てくる。今から二人のところに行けばきっと邪魔できる。でも……。
私は、樹と結月が仲良さげにしているのを見て、嫉妬を抑えきれずに醜態をさらしている。
樹はその場の雰囲気に流されただけで、私を選んだわけじゃない。あの状態なら、結月が同じように迫っても、樹はきっとキスをしていただろう。
結月は、樹に私を追わないように言って、キスを迫ることもできたはずだ。でも結月はそれをしなかった。それどころか、樹に私を追うように言ったんだろう。
だというのに、私は連れ戻しに来てくれた樹に甘えてキスをした。
そんな私が二人のところに行って何を言えばいい?
きっと結月のことだから、うまく樹を口説き落としてキスするはず。でも、これで貸し借りなしだ。必ず樹の心は私が根こそぎ貰ってやる!
結月は私より美人だしスタイルもいい。そのうえ強いし大人っぽい。あれ? 私の勝てる要素無くない……?
さらに現実に戻ったら、樹と結月はクラスメイトで、私は学校が違う。え、これって詰んでる? でも、だからと言って諦めたりしない! なんか方法はあるはずだ。明日から頑張ろう!
* * *
桜花結月の視点。
上手くいってよかった……。
樹と陽那が戻ってきてからの様子は見ていられなかった。二人の間に割り込めないような雰囲気ができていた。
胸が締め付けられる、とはこういうことなんだと、嫌というほど味わう羽目になった。こんなことならあのとき、「陽那のことを追わないで」と言っておけば良かったとすら思った。
でも、樹に「ずっと結月のことが好きだった」と言われた。少し強引ではあったけどキスをした。今、私の胸は充実感、満足感そんな言葉では足りないほど温かい何かが満ちている。
もし私が樹に「好き」とか「付き合って」と言っていれば「陽那とキスしたから」と断られていたはず。「陽那のことしか考えられないから」と断られたのなら、まだ諦めはつくかもしれない……。
でも現状では私のことも好きなことを知っている以上、諦められるわけない。どうにか樹に私のことを好きと言わせるように誘導できて良かった。
自惚れている訳じゃないけど、私も容姿に少しは自信がある。でも相手があの陽那だから、容姿だけで樹の心を奪えるとは全く思わない。陽那の可愛さには到底かなわないと思うから。
でも現実に戻れば、陽那は学校が違うし、私は樹と同じ学校で同じクラス。これだけの優位性があれば必ず私だけに目を向けさせることができるはず。
陽那には悪いけど、なるべく早くゲームクリアを目指さないとね。