表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?
14/122

代用品?

 宿泊施設の一室に戻り、昼間の出来事を思い出している。


「陽那とキスしちゃった。あぁっ、唇柔らかかった!」


 ベッドに倒れ込むと、枕に顔をぎゅっと押し付けた。陽那の温もりが、まだ唇に残っている気がする。目を閉じるたびにその瞬間が鮮やかに蘇る。


 あの甘い吐息、頬を染めた彼女の照れた笑顔、心臓がバクバクして苦しいようなあの感覚。


 ひとりでベッドの上を転がりながら、枕に何度もキスを繰り返して、幸せに浸っていた。


「新着メッセージが届きました」


 突然音声アシストが聞こえて、ビクッとして我に返る。


 陽那かな? 「今から部屋に来て」とかだったらどうしよう!? 有頂天で視界に映るアイコンを操作すると、メッセージは結月からだった。


「少し話がしたい、フロントまで来て」


 話って何だろう? 俺は「了解」と返事してフロントまで下りて行った。


 メインの照明が落とされて薄暗くなっているフロントを見回すと、壁にもたれて立っている結月を見つけた。


 ポニーテールではなく、黒く艶やかな美しい髪を下ろしている。上は白の袖の短いカットソー、下は薄い水色の膝丈のフレアスカート。いつもとは違う雰囲気だがとても綺麗だ。俺は思わず息を呑んで見とれてしまう。


「来てくれたってことは、まだ負けと決まったわけじゃなさそうね」


 結月は薄っすら笑ったように見えた。負け? 何のことだろう。


「ちょっと、散歩しながら話そ?」


 結月に促されて宿泊施設の外に出る。人通りはまばらで静かだ。


 特にどこに行くというあてもないので、なんとなくいつもの北の転移ゲートに続く道を二人で並んで歩く。


 まるで整備された公園の遊歩道のような道だ。夜中なので暗いが、街灯もあり真っ暗というわけでもない。周りに人の姿はなく静まり返っている。


 結月が足を止めたので俺も立ち止まって振り向く。結月は俺の目を真っ直ぐに見て、わずかに笑みを浮かべて話し出した。


「学校で樹が私を見てたのは、陽那と髪型が似てたからって言ってたよね?」


「最初は……そうだよ」


 俺の答えに結月の表情が悲しげに変わる。


「私は、陽那の代用品なのかな?」


 結月から投げかけられた言葉に、俺は思わず向きになって返した。


「ちがっ……! 確かに初めてポニーテールの後ろ姿を見たときは、陽那と似てる子がいるなって思ったけど、結月は陽那とは全然似てない!」


「ほとんど話もしたことなかったけど、どうやったら結月と近づけのるか、いつも考えてた」


「陽那に告白して……断られてからずっと辛かったけど、結月のことを考えるようになってからは辛くなくなったんだ!」


「高校に入ってからは、ずっと結月のことが好きだった!」


「フフッ、嬉しい。私も樹のことが大好きだよ」


 結月は目に涙を浮かべて俺にそっと近づき、両手を広げたかと思うと、俺の首に腕を回して抱きしめた。


 俺が気が付いた時には、結月の唇が俺の唇に触れていた。しばらくして結月の唇が離れると、涙をこぼしながら笑顔で俺を見つめている。


「キス、しちゃったね」


 俺はその表情と言葉に、罪悪感を感じて胸がチクリと痛んだ。


「結月……俺……」


 俺の言葉を遮るように結月が言葉を発した。


「陽那ともキスしたんでしょ?」


「なんでそれを……?」


 俺は動揺して鼓動が一気に跳ね上がるが、結月は笑顔のまま俺の目を見つめて続ける。


「樹と陽那が戻ってきてからの様子を見れば、誰だってわかるよ」


 俺が言葉を出せないでいると、結月は穏やかな眼差しで微笑んだ。


「と言うか、陽那を追いかけるように言った時点で、何か起こるだろうなと思っていたから。ホントは樹のファーストキス、私がもらうつもりだったんだけど、樹の二回目キスでも勘弁しておいてあげるね」


 そこでまた俺はポロッと言葉を漏らす。


「二回目も陽那と……」


「え!? 二回もキスしたの?」


 結月は驚いて声を上げた後、再び俺に顔を寄せて唇を押し付けた。不意打ちだったさっきのキスとは違い、結月の唇の感触、抱き合い密着することで伝わってくる体温を、じっくりと感じてしまった。


 さっきよりも長く二人の唇が合わさっている。多幸感で頭の中が真っ白になった頃、唇が離れた。


「これで陽那とはあいこだね」


 結月はいたずらのこもった笑みを向ける。


「あのね、樹。自分の中で私か陽那のどっちを選ぶか決まったら教えてね? 焦らなくてもいいよ、きちんと考えてほしい」


 結月は俺をギュッと抱きしめて、耳元に口を寄せて囁いた。


「もし私を選んでくれたら、キスよりもっと凄いこと、してもいいよ?」


 キスよりもっと凄いことだって!? 俺はごくりと唾を飲みこんだが、気管に入りゲホゲホと派手にせき込んでしまった。


「フフッ、想像しちゃった?」


 結月は、せき込む俺の背中を優しくさすってくれた。


 その後、宿泊施設まで戻るまでの間、結月と俺は腕を絡めながら歩いたが、何を話していいか分からず黙って歩いた。


 チラリと結月の方を見ると目が合い、素敵な笑顔を向けてくれた。俺の鼓動はずっと高鳴ったままだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ