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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

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初めての… 

 昼食を終えたところで、結月が俺に話し掛ける。


「そういえば樹、刀の振り方がだいぶ様になってきたね」


「そうかな? 先生がいいからだと思うよ」


「でも、樹はまだ腕だけで刀を振ろうとしている。少しやってみて」


 俺は刀を正眼でかまえ、袈裟切りをして見せた。


 すると、結月が近づいてきて右手を俺の持つ刀の柄にそえ、左手を俺の腰に当てる。


「脚、腰と動きを連動させ、体全体で刀を振るようにして」


 結月は柄を握る俺の手を握り、ゆっくりと刀を動かす。かなり密着した状態だ。時折、結月の頬や髪、胸が俺に触れるので、どうしてもそちらに意識が向いてしまう。とはいえ彼女の表情は真剣そのもの。


 柔らかな感触と間近に感じる結月の息遣いに、俺の表情は情けなく緩んでいたのかもしれない。


 座って様子を見ていた陽那が、立ち上がりズンズンとこちらに歩いてきた。


「なにこんな所でイチャイチャしてるの!? バッカじゃない?」


 結月はその言葉にハッとして、困ったような表情に変わる。


「ゴメン、そんなつもりじゃなかった」


 目に涙をため、顔を真っ赤にして陽那が叫ぶ。


「今日はずっと二人で刀のことで盛り上がってるし! どうせ樹は私なんかより、結月の方が好きなんでしょ!?」


「陽那、落ち着いて」


 俺はどうにかなだめようと言葉を掛けるが、陽那には届かない。


「二人でボスでも何でも倒してくればいいでしょ!!」


 陽那は走って転移ゲートに飛び込んで行ってしまった。


「樹、陽那を追いかけて。私もセンターに戻るから」


 結月が沈んだ表情で俺に言うので「分かった」と返事して転移ゲートに飛び込んだ。




 * * *




 一人残された結月は、視線を落として寂しそうに呟く。


「これは、悪手だったかな……」




 * * *




 北の転移ゲートの広場に戻ってきた。辺りを見渡すが陽那の姿はどこにもない。魂力が上がっているから走る速さもかなり上がっているのか。


 フレンドの検索機能で陽那の位置を探ると、西の転移ゲートに向かって移動しているのが分かる。


 俺も急いで西の転移ゲートに向かった。


 西の転移ゲートをこえた先は、森林のフィードだった。背の高い木々が光を閉ざしている、薄暗い森だ。


 陽那は……あっちだな。


 落ちている枝葉や張り出した木の根のせいで歩きにくい道を進んでいくと、木にもたれ掛かって泣いている陽那を見つけた。


「陽那……」


 俺は声を掛け近付こうとすると、陽那は俺を睨みつけ大きな声を出した。


「もう、私のことはほっといて!」


 俺は逃げようとする陽那の手をつかむと、陽那はバランスを崩し転びそうになる。どうにか倒れないよう受け止めた。


 陽那は俺の体に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。


「樹は私のこと、好きだって言ったくせに! 嘘つき!」


「ゴメン」


「謝らないでよ! 私がかわいそうみたいじゃない!」


 俺はこんな時、どんな言葉を掛ければいいか考えもつかない。ただ、陽那が落ち着くまで黙って抱きしめていようと思った。


 陽那はしばらく俺の胸で、嗚咽をもらしていた。そうしていると少しづつ落ち着いてきたのか、俺に抱きつく陽那の腕の力が少し緩む。


「ありがと、もう大丈夫」


 陽那は俺の胸に額を押し当てたまま話し出した。


「樹と結月が仲良くしてるのを見てたら、なんかすごく腹が立ってきて……胸の奥が苦しくなって、いてもたってもいられなくなっちゃった」


「私、嫉妬してたね。かっこ悪いよね」


「そんなことは……」


「私ね……樹を結月に渡したくない」


 陽那が目を閉じて俺の方へ顔を寄せてくる。


 えっ!? これってアレだよな!? いいのか? 


 慌てている間にも、陽那の顔はもう目の前に迫っている。そのまま陽那の唇に自分の唇を重ねた。


 ああ、陽那の唇ってこんなにも柔らかいんだ……。俺の頭が真っ白になり、顔が熱くなる。


 陽那は唇を離すと、恥ずかしそうに頬を赤く染め俺を見上げた。


「ファーストキス、しちゃったね。エへへ、なんかさっきまでのモヤモヤした気持ちがどっか行っちゃった」


 涙の跡が頬に残る陽那は、幸せそうに微笑んでいる。


「ねえ樹、もう一回しよ」


 陽那は目を閉じて唇を少し突き出した。俺はゆっくり顔を近づけて唇を重ねる。


 唇が離れると、陽那は顔を俺に近づけたままで「樹、大好き」と囁いた。


 どうやら陽那の機嫌は直ったようだが、俺は幸福度の許容値を大幅に上回る出来事に、ただ放心していた。


 森林フィールドの転移ゲートに戻る道中、俺達はずっと手をつないでいた。しかも恋人同士がするような指を絡めたつなぎ方で……。


 西の転移ゲートの広場からセンターに向かって歩いていると、結月がベンチに座っていた。


 陽那は慌てて繋いだ手を離す。こちらに気付いた結月は立ち上がって近づいてきた。陽那は気まずそうにしながらも結月に頭を下げた。


「結月ゴメンね」


「気にしないで。私の方こそ配慮が足らなかった」


 結月が長いまつ毛を伏せながらそう言うと、陽那と俺の顔をチラリと見たような気がした。一瞬、結月の表情が曇ったようにも見えた。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「今日は、フィールド探索はやめて遊ぼうか? この世界って、ボーリング場とかもあるんだよ」


 陽那はすぐに「いいね! 行こ」と明るい声で賛成する。俺も頷き三人でボーリングやカラオケ、カフェで楽しい時間を夜まで過ごしたのだった。


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