平常運転
俺とセフィリアがアイラスタニアに召喚されてから一カ月が経ち、今では完全に平常運転に戻っている。
セフィリアは三人を超えるために毎日頑張って鍛えている。もちろん、陽那と結月とアサカもさらなる高みを目指して頑張っている。
俺もルイさんに勝ったことで、少しは強くなったと思っていた。でも、あの大猿のモンスターとの戦いでは、まだ自分の力不足を感じた。
どんなことがあっても四人の恋人達を守れるように、これからも努力を続けようと思う。
平常に戻っていると言っても、変わったことがいくつかある。
光希と穂乃香も箱庭に遊びに来るようになった。光希はどうしても俺に勝ちたいらしく、頻繁に勝負を挑んでくる。今の所俺の連勝だが、光希も成長しているので俺も油断は出来ない。
端末を渡したガロードとリセリアも、たまに箱庭に遊びに来る。二人とも強くなりたいと言うので、固有スキルを使った戦い方を教えている。
レハタナさんも、俺と手合わせするために度々箱庭に来る。
何故か鎧を纏った騎士の姿ではなく、おしゃれな服を着てくるので可愛い。しかし、少しでも見惚れようものなら、四人の恋人たちに冷ややかな視線を向けられるので非常に困る。
「イツキさんは、複数の女性を愛しているのですね。これからも恋人を増やすのですか?」
「増やしません!!」
レハタナさんの何気ない質問に、四人は声をそろえて答える。その質問に深い意味なんて無いよね?
なんだかんだ言っても、結局セフィリアとも深い仲になってしまったけど、これ以上は本当に増やさない。フラグじゃないよ?
「それにしても皆さんの固有武器である、ツキカゲ、アマテラス、イシュタル、ガブリエルは凄いですよね。私も鍛錬を続ければ作れるようになるのでしょうか?」
「それはちょっと難しいかな……。それにレハタナさんには聖剣レーヴィンがあるでしょ?」
「神器に頼っている者が一人前と言えるでしょうか? 私は国を守る騎士団長です。その使命のためなら、どんな苦難をも厭いません! どうか私にも固有武器の作り方を教えてください!」
レハタナさんは、片膝をついて頭を下げて俺に懇願する。騎士の格好でするなら様になるポーズだが、今のレハタナさんは可愛いミニスカート姿だ。あっ、見え……。
ズンッ!! 突如空気が重くなる。原因はなんとなく分かっている。強大な魂力を持っている者が放つプレッシャーだ。それも四人も……。
俺は振り返り、弁明を試みる。
「ゴメンナサイ」
凄まじい圧力に押されて、弁明するつもりが思わず謝ってしまった。
微笑む陽那からは怒気が放たれている。
「レハタナさんとも固有武器を作るつもり?」
「そんな訳ないでしょ?」
首を振って否定する俺に結月がため息交じりで言う。
「セフィリアという前例があるからなぁ。結局は樹とセフィリアで固有武器を作ってるし」
そのやり取りを聞いて、レハタナさんが割り込んできた。
「イツキさんと作るとはどういうことですか? イツキさんの協力がないと固有武器は作れないのですか?」
「固有武器は、樹と恋人になってえっちしないとできないんだから!」
アサカ、言い方……。レハタナさんは恥ずかしそうに赤くなっている。
アサカの言うことは全く間違っているわけじゃ無いが、誤解を含んでいるので、俺はレハタナさんに丁寧に説明した。
固有スキルを支配者クラスまで成長させないといけないこと、同じ系統の固有スキルじゃないといけないこと、二人で魔力を混ぜる必要があることを説明した。
また、俺の恋人になると、恋人にした人の固有スキルを俺も使えるようになることも説明した。
一通り説明を終えると、レハタナさんは思いつめた顔で俺に問う。
「イツキさんは、私を女として見ることは出来ますか?」
「無理!」「できません!」「ダメ!」「ありえないわ!」
周りから次々に声が聞こえるが、レハタナさんは一歩も引かない。
「私はイツキさんに聞いているのです!」
「ルイさんから助言を頂いたのですが、イツキさんはこのような、ひらひらした服装を好むのですよね? 鎧姿の時には感じなかった、イツキさんからの熱い視線を感じていました」
「私に力を授けてくれるのなら、一夜の戯れでも構いません!」
またルイさんが余計なことを吹き込んだのか……。
「婚前交渉は重罪じゃなかったっけ?」
「それはあくまでもアイラスタニア王国の法律です。この世界においては、この世界の法律に従うのが当然ではありませんか!?」
「それは、そう……、なのか?」
レハタナさんの剣幕に俺が一歩下がると、いつか感じたドス黒いオーラが辺りを満たしていく……。
さて、この場をどうやって切り抜けるかな? と考えだしたところで、転移ゲートが開いてルイさんが現れた。
「今日もみんなで仲良くやっているようだな? 結構なことだ」
「結構なことじゃないですよ! レハタナさんにおかしなことを吹き込んだんですよね!?」
「おかしなこと? 樹たちの持っている固有武器は、聖剣レーヴィンよりも強力であろうことや、樹が美人を見れば、誰彼構わず好きになることはどちらも本当のことだろう?」
ルイさんの言葉にレハタナさんが強く反応する。
「そうなのですか? なら私のにもチャンスが?」
「レハタナさんは俺のこと、別に好きなわけじゃ無いでしょ?」
「実は初めて見たときから……イツキさんに惹かれていました。しかし、私は騎士です。色恋などに現を抜かし、使命をおろそかにするわけにはいきません。そのため、心を押し殺して任務にあたっていたのです!」
「正直に申しますと、イツキさんとセフィリアさんが、いつでもどこでも仲睦まじくしているのを見て羨ましく、そして妬ましく思っていました」
「イツキさんが、セフィリアさんに会いに行こうとしたのを、止めた時のことを覚えていますか?」
「あ、あったね、そんなこと」
「あれは私の独断です。あなた達が仲良くするのを想像すると、いてもたってもいられなくなり、気が付いたらあのような行動に出ていました」
俺が言葉を失っていると、周囲からは突き刺すような視線が俺に集中しているのが分かる。
「レハタナさん、その、ゴメンナサイ」
「なぜ謝るのですか? 私は意を決して好きだと想いを伝えたのです! イツキさんは私をどう思っているのかはっきり答えて下さい!」
レハタナさんが俺に詰め寄るさまを見て、結月がため息をつく。
「このパターンはいつものヤツだね……」
しかし、今度こそ俺は流されたりしない!
「レハタナさんは美人だと思うし、いい人だと思う。でも五人も恋人を作るなんてできない」
「四人は良くても、五人がダメだという根拠が分かりません。何より私のことが好きなのか、そうではないのかをきちんと答えていません!」
「今日はやけにグイグイ来るね……?」
「女王様にも後悔の無いようにしなさいと、背中を押していただきました。だから、いま一度言います。イツキさん、あなたが好きです!!」
陽那は「あーあ、こりゃ堕ちたな」とため息交じりにぼやいた。確かにレハタナさんはとても魅力的だ。でも、俺だって後に引けないよっ!
「そりゃ好きだよ! でも、恋愛感情というよりも尊敬とかに近いと思う」
「そんな……、そうですか……、分かりました」
レハタナさんは沈んだ表情で、転移ゲートを出現させて帰っていった。
なんか物凄く悪いことをしたような気がする。
「女の子にあんな顔をさせるなんて、樹は酷い男だな。だが心配するな、私がしっかりとフォローしておくからな」
ルイさんは何故かとても楽しそうだ……。あと、余計なことはもう吹き込まないで欲しいかなぁ。
「それよりも、ルイさんは何しに来たんですか?」
「そうだった、アサカに頼まれていたことの準備が整ったから、呼びに来たんだ」
何の準備だろうと思いながらも、ルイさんが出現させた転移ゲートにみんなで入る。
転移先は結婚式場だった。嫌な予感しかしない。
陽那と結月とアサカとセフィリアは、準備してくると言ってどこかへ行ってしまった。
そして、どこからともなく何人かのスタッフが現れて、気が付いたら俺はモーニングを着せられていた。
しばらくその状態で待っていると、四人はウエディングドレスを着て戻ってきた。
まさか今から結婚式するのか?
「あのー、アサカ?」
「セフィリアとだけ結婚式をするんなんて、ずるいでしょ? だからせめて写真だけでもと思って」
写真だけね……。ホッとしていると、アサカが満面の笑みで俺に問う。
「それよりも、どう?」
「綺麗だ……」
陽那と結月とセフィリアとも同様のやり取りをした後、四人とかわるがわるペアで写真を撮ることになった。
プロのカメラマンまで頼んでいたようだ。式場も貸し切りみたいだし、お金の使い方が派手だな。
いろんなポーズをさせられて何枚も写真を取っている。正直興味ないので疲れるが、恋人達は嬉しそうにしているので頑張った。
四人と一通り写真を撮り終え、解放されたので座り込んで天を仰ぐ。
写真はすぐに各自の端末に送られたようで、四人は嬉しそうに眺めている。
その姿を見て、四人は俺のことを想ってくれているんだなと実感した。
成り行きで次々と恋人になってしまった陽那、結月、アサカ、セフィリア。
怒るとちょっとだけ怖いが、とっても可愛い恋人達と、これからも楽しくやっていきたいと思うのだった。




