帰ろう
腹も膨れたところで、ベッドから降りて立ちあがる。特に異常は感じない。魂魄の崩壊一歩前まで消耗していたのは回復しているのだろうか?
俺の疑問にアシストさんが答える。
「20時間の睡眠により、柳津樹の魂は万全の状態まで回復しています」
「俺20時間も寝ていたの? ここってどこなの?」
セフィリアが「アイラスタニアの城内よ」と答えた。俺が気を失っている間に帰って来ていたのか。
「高平と陵木さんは?」
「とっくに地球に帰っているわ」
「そうかー、なら俺達も帰ろうか」
帰る前に、女王とレハタナさんとルミーナさんにお礼を言っておきたいよな。
そんなわけで、まずは黒竜騎士団のいる建物に行った。「失礼します」と騎士団長室に入ると、中にはハーゲンとルミーナさんがいた。
「俺達は元の世界に帰ります。お世話になりました」
「いえ、イツキさんとセフィリアさんの力になれて光栄です」
やっぱりルミーナさんはピシッとした礼をした。ハーゲンは椅子に座ったままで、俺達の方を見ていないが俺は声を掛けた。
「ハーゲンさんもありがとね。秘宝の杖の使用を許可してくれたんでしょ?」
「ふん、何のことか分からんな! だが……、なんだ、その、俺も色々と悪かったな」
「うん、ホントに悪かった。でも助かったよ」
「……用が済んだのなら、さっさと自分の国へ帰れ」
俺達は笑いながら、彼らに軽く頭を下げて部屋を後にした。
さて次はレハタナさんか。どこにいるんだろ? レハタナさんの魂力を探ると、どうやら城の中庭で女王と一緒のようなので、そこへ向かった。
俺に気が付いた女王は、いつも通りの優しい口調だった。
「イツキさん、お体は大丈夫ですか?」
「はい」
「イツキさんの功績は多大です。最初に言った通りどんな褒美でも……」
「いえいえ、何もいりませんよ!」
「そうですか。何か困ったことがあれば遠慮なく連絡してください。可能な限り協力することを約束します」
「連絡ですか?」
女王は魔導器のスマホを取り出して俺に見せた。
「イツキさんの上官のルイさんに、この装置を頂きました。これでいつでも連絡が付くのですよね?」
「え? ええ、まぁそうです」
ルイさんって俺の上官だったのか? それよりもルイさんは女王にあのスマホ渡したんだ……。アシストさんの声が聞こえる。
「マスターは女王以外にも、レハタナ、ルミーナ、ガロード、リセリアにもスマホを渡しました。なお、この世界と地球とでは時間の流れが異なるため、この世界に来ているときのみ通話が可能であることは説明済です」
ルイさんのことだから、盗聴機能でこの世界を調べるつもりか……。
「盗聴ではありません。録音機能です」
どっちでも同じだろ? 頭の中でツッコんでいると、レハタナさんが言う。
「これを使えば、イツキさんの世界にも行けるのですよね?」
再びアシストさんの声が聞こえる。
「この世界の人に渡した端末の転移ゲートは箱庭限定で転移できます」
そうだよなぁ、レハタナさんみたいな強い魂力を持った人が、いきなり地球に来たら大騒ぎだろうからな……。
「厳密には俺達の世界じゃないけど、俺達に会いに来れるよ」
「ふふっ、そうですか」
あれ、なんか可愛く笑った? と、俺が感じたと同時にゾクリと悪寒が走る。振り向くと四人の美少女が射殺すような視線を俺に向けている。何かがヤバい。
「色々とお世話になりました! では、これで失礼します」
頭を下げてその場を後にした。
「さて、次はガロードとリセリアだな」
俺と四人の恋人は港町ニルムダールに転移した。
ガロードとリセリアの家に着くと、二人が出てきた。
「私の夫がお世話になりました!」
陽那と結月とアサカが深々と頭を下げる。そのネタはもういいんだけど……。
「この可愛い女の子達全員が、イツキの奥さんなの?」
リセリアがからかうような口調で言うが、こんなことしていたらいつまでたっても話が終わらないので笑って流すことにした。
「この世界に来てどうしようかと思ったけど、ガロードとリセリアのおかげで助かったよ。ありがとう」
「助かったのも礼を言うのもこっちの方だ。イツキ、セフィリアありがとな!」
俺とセフィリアは、ガロードとリセリアと握手をして家を後にした。
「挨拶回りは終わったか?」
ちょうどいいタイミングで、ルイさんが俺達の前に転移してきた。
「はい、帰りましょう、俺達の世界に!」
たったの10日ほどだったがこの世界で色々あったな……。
召喚された直後は早く帰りたいと思っていたけど、いざ帰るとなるとなんか名残惜しい。
この世界と俺達の世界は時間の流れが違うから、次にこっちに来た時は何カ月も経っているんだろうな……。
少しだけ感傷的になった俺は、そんなことをぼんやりと考えていた。




