間接…
鳴海陽那の視点。
昨夜、あんなことがあったので、なんとなく気まずい。今日は一人で朝食に行くことにした。ドアを開け部屋を出たところで、ばったり桜花さんと会う。
「おはよ。桜花さん」
「おはよ。結月でいいよ、陽那」
素敵な笑顔に、思わず見とれる。こんな綺麗な子と樹をめぐって争奪戦か……。全く勝てる気がしない。
「どうかした?」
「結月って綺麗だなと思って見とれていただけだよ」
「ありがと。でも私は陽那の方が綺麗だと思うよ」
「わっ、私なんて全然……」
社交辞令なんだろうけど、結月のような美人からそう言われると照れてしまう。私が苦笑いで応えると、結月は微笑む。
「ご飯一緒に行こ?」
「う、うん」
いつもの朝食バイキング。適当に食べるものをとってきて、四人掛けのテーブル席に結月と並んで座ると、結月が話し掛けてきた。
「樹は、基本的には誠実だけど、優柔不断で押しに弱いように見えるね」
「そうだね」
「強引に迫れば、キスくらいすぐ応じてしまいそう。私が樹のファーストキスを貰っていいかな?」
「そんなの、ダメだよ!」
「私は幼いころから修行ばかりで、恋なんかしたこともなかった。でも樹と一緒にいると、胸の奥が熱くなって、とても楽しい」
結月があまりにも楽しそうに、嬉しそうに話すのを見て、私の胸の奥が苦しくなる。
「……私だってそうだよ」
「樹は、私と陽那の間で揺れているように見えるから、先にキスさえできれば……」
「結月って意外と肉食系だね?」
「そうかも。でも陽那だって、樹とキスしたいでしょ?」
「なっ……」
それは私も心のどこかでは意識していたこと。だけど言葉にされると妙に恥ずかしい。
「それは、そうだけど」
「と、言うわけだからお互い頑張ろうね」
「結月みたいな美人に戦線布告されたら、自信無くなって、なんか焦っちゃうよ」
私の言葉を聞いた結月は、ハッと目を見開いたあと、苦笑いをしながら呟いた。
「そうか……自信が無くなって、焦っているのは私の方だ」
「えっ、どういうこと?」
その時、樹がこちらに歩いて来るのを見つけた。私たちは樹に手を振る。
結月は何を言いたかったんだろう。結月みたいな美人でも、自信が無くなって焦ったりするのかな……?
* * *
柳津樹の視点。
目が覚めて、いつもの朝食バイキングに行くと、陽那と結月は二人並んで座って朝食を食べていた。なんか仲良く話をしているように見える。
二人は俺に気付き、ほぼ同時に声をかけてくる。
「「おはよ、樹!」」
俺は照れながら二人に挨拶をする。
「おはよう。陽那? 結月?」
「なんで疑問形なの? やり直し!」
陽那がジト目で言う。女子の下の名前を呼び捨てるという、高度な技術を要求するとは……。俺は頑張って言い直す。
「おはよう! 陽那。おはよう! 結月」
「うん、よろしい」
陽那は満足そうに頷いた。無事合格できたようだ。
名前を呼んだあと、俺はこの二人と『友達以上』なんだろうなと実感し、何とも言えない満足感に身震いしてしまった。
朝食をとりながら、今日はどうするか三人で相談する。訓練場で新しいスキルと魔法を覚えてから、山岳地帯フィールドを探索することになった。
宿泊施設を後にして、訓練場に来た。結月は「私は覚えなくていいよ。待ってるね」と言って、訓練所内に設置してあるベンチに腰掛けた。
確かにスキルより、結月の剣技の方が強そうだ。
俺は端末を操作して、居合切りをスキル2にセットした。俺も結月みたいなカッコいい居合切りをしたいのだ。
スキル獲得後、陽那の方を見ると端末を操作していた。魔法を習得しているのかな?
訓練所での用事を済ませた俺達は、北の転移ゲートに向かった。その道中、大きな扉のところまで行って中ボスを倒したことを陽那に説明した。
北の転移ゲートに向かう通路にある、コンビニのような小型の店舗で昼食用のおにぎりとお茶を買っておく。女子二人も昼食をそれぞれ買っていた。
山岳地帯フィールドに入り、結月をパーティーメンバーに加えた。
結月が刀を装備する。俺もアイテムストレージからミスリル刀を取り出し腰に下げると、陽那が俺にニッコリと笑顔を向ける。
「へー、今日は樹は刀なんだねー。結月とお揃いなんだねー。前は剣だったのにー」
なぜか威圧感が含まれたその笑顔に、俺はつい後ずさりしてしまった。俺が慌てていると、結月がフォローしてくれた。
「昨日、会った時から刀を使ってたよね?」
「えっと、昨日フィールドに行く前に刀もカッコいいな、と思って買ったんだけど……」
すると陽那は棒読み気味で言う。
「ふーん、ソウナンダー」
これはもしや嫉妬しているのか? 女子に嫉妬されるなんてリア充か俺は!? いや、待てよ。二人のとびきりの美少女と一緒に行動しているこの状態はまさにリア充! おっと感激している場合じゃない。
「じゃ……じゃあ、先に進もうか?」
俺が話をそらすためにそう言うと、二人は頷いた。
道中出現するモンスターの強さがすべて『弱い』だな。昨日俺がボスにとどめを刺して、魂力が上昇したからだろうか。
昨日は結月とパーティーメンバーになっていなかったから、俺が魂力を独り占めしてしまったのか。
適当に刀をぶつけるだけでも、モンスターは一撃だろうけど、結月に教わったように意識して刀を振るう。
特に苦戦することもなく、昨日の大扉のある広場まで来た。今日は岩の人形はいないようだ。大扉に軽く触ると、音声アシストが聞こえる。
「この扉を開けることで次のエリアが開放されます。扉を開けますか? Yse/No」
……Yes。
「扉を開けました。次のエリアに進入できるようになりました」
「この地点から、センターにつながる転移ゲートが開放されました」
「回復スポットが利用可能になりました」
「扉開放ボーナスとしてパーティーメンバー全員が10000Cr獲得しました」
広場の中央付近にに黒い真円状の転移ゲートが現れた。その横には白い真円状の物が出現した。あの白いのなんだ? と考えると、音声アシストが答える。
「回復スポットです。触れるとHP/MPが全回復します」
俺は試しに回復スポットに触れてみた。
「現在HP/MPは満タンなので効果はありません」
……そういえば陽那は魔法を使っていたな。
「陽那、魔法を何回か使ってたよね。これに触れてみて」
「OK、おお、MPが全回復したよー」
次に、新しくできた転移ゲートに入ってみる。抜けた先はいつもの北の転移ゲート広場だ。元あった転移ゲートの隣に、新しく転移ゲートが出来ていた。
なるほど次回からこっちの転移ゲートを使えば近道だな。
再び転移ゲートに入り、大扉のある広場の転移ゲートに戻った。
さて、新しいエリアを探索するか。
一つ目めのエリアと比べると、大きな岩のモンスターや、壁のようなモンスター、石柱のようなモンスターとバリエーションは増えたが基本的には岩や石のモンスターだ。
どんなモンスターも、結月は華麗な動作で一太刀のもと両断している。その姿に、俺はもちろんだが陽那も見とれているようだ。
俺も新しく習得した刀スキルの居合切りを試す。
刀を鞘に納め、ゆっくりモンスターに近づく。モンスターが攻撃の予備動作をしたところでスキル2発動と念じる。すると自動的に体が動き鋭い居合切りを放った。
キン! という甲高い音とともに、高速で振られた刀は岩でできているモンスターの体を真っ二つに切り裂いた。結月は苦笑いをしながらこちらを見ている。
「すごい居合切りね。本当なら何年も修行しないとできないよ」
「へー、そうなんだ」
「樹がスキルで放つ居合切りは70点くらいかな?」
そういいながら、結月は近くのモンスターにおもむろに居合切りを放つ。モンスターはなす術もなく真っ二つだ。
「私の居合切りは……大体90点くらいだと自負してるよ」
「100点じゃないの?」
「技術の向上に終わりはないんだよ。自分の技が100点と思ったら、あとは腕が鈍っていくだけだから」
「なるほどね」
結月は剣術のことになると真剣そのものだ。俺と同い年とは思えない。率直にカッコいいなと思ってしまう。
そんなやり取りをしながら狩りを続ける。獲得できるCrと魂力は、最初のエリアよりかなり多いのでつい夢中でモンスター狩りに精を出していた。
ふと、視界の時刻表示を見ると12時を少し過ぎてる。
俺は大扉のある広場に戻って休憩しようと提案すると、二人とも頷いたので俺達は広場に向かって歩き出した。
大扉のある広場に戻ってきた。
断崖が円形の広場を囲っていて、直径100mはあるだろうか。かなり広いと感じる。中央には黒い円の転移ゲートと、白い円の回復スポットが並んで設置されている。
広場を見渡すといくつも岩が転がっている。陽那が座るのに丁度良さそうな形の岩を見つけ座り、俺に「ここに座ろうよ」と手招きをする。
俺は陽那の隣に少し離れて座った。すると陽那は俺に近づいて座りなおした。
結月も体が触れる程の距離で俺の隣に座った。お二人さん、肩が触れてますよ……。美少女二人に挟まれて、俺の心音は高鳴るばかりだ。
俺が緊張で固まっていると、陽那が俺の顔を覗き込んで声を掛ける。
「樹、お昼食べないの? 顔赤いよ、熱でもあるんじゃない?」
陽那が俺の額に手のひらを当てる。その様子を見ていた結月も俺の頬に手を当てる。
「昨日も赤くなってたけど、体調悪いの?」
二人の顔が近い、少し動いたら唇に触れてしまいそうだ……。このままでは俺の心臓が破裂しかねないので「大丈夫、体調はいいよ」と答えた。
俺はアイテムストレージから、ペットボトルのお茶とおにぎりを取り出し、お茶を一口飲んだ。
結月は、なぜかその様子をじっと見ていた。俺がお茶を一口飲んだのを確認すると、アイテムストレージからペットボトルの紅茶とサンドイッチを取り出し、紅茶を一口飲んだ。
「あ、しまった。この紅茶、加糖だ。食事の時は無糖がいいのに……」
結月は、少し大きめの独り言を口にして、俺の方を向いて「樹、お茶を一口頂戴」と体を寄せた。
俺は突然のことに動揺してしまう。自分の手に持っているペットボトルを指差し、結月に確認した。
「えっ、これ?」
「そう、それ。いいでしょ?」
結月は俺の手に持っているお茶を取ると、そのまま口を付けてお茶を一口飲んだ。そして「ありがと」と言って何ごとも無かったかのように、笑顔で俺の手にペットボトルを戻した。
俺は結月の唇が触れたペットボトルを見つめ、恐る恐る自分の口へ持っていき一口飲んだ。ああっ、旨いお茶だ……。
視線を感じ陽那の方を向くと、陽那がジト目で俺を見ており、何かを小声で呟いた。
何を言ったのかはっきりは聞こえなかったが、怒っているように見える、もしかして変態っぽかったか!? 俺は誤魔化すようにおにぎりを開けて一口かじる。
「樹、なんのおにぎりを食べてるの?」
陽那が俺にもたれ掛かって、聞いてきた。
「えっと、昆布だよ」
「あ、私もそれ好き! 一口頂戴」
俺の手に持っているおにぎりを陽那が一口かじった。「ありがと、美味しいね」と咀嚼しながら可愛く微笑む。
陽那がかじったおにぎりを見つめ、自分の口へと持って行く。ああっ、旨いおにぎりだ……。
俺は美少女二人と間接キスをしてしまい、喜びを味わうのであった。




