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箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~  作者: ゆさま
ファンタジーな異世界に召喚されたら銀髪美少女が迫ってくるんだが?

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勝てるよ

 大猿のモンスターが迫ってくる。


俺は脂汗を垂らしながら、どうにかしようと考えを巡らせている。


 高平だって俺と戦っている間に、どんどん強くなっていた。


 それならば、想いや意志の強さでこの状況を打破できるはず。俺がもう一度魔力をガブリエルに込めようとすると、アシストさんがそれを制止する。


「警告!! 魂魄が限界以上に消耗しています。この状態では想いや意志の強さに関係なく、次に大きくMPを消耗する行動をとれば魂魄が崩壊し、死亡します」


 そんな。ならどうすれば……。俺が情けなくも絶望しかけたとき、試合会場内に強力な魂力が四つ出現したのを感じた。




 * * *




 転移ゲートから飛び出てきたルイ、陽那、結月、アサカ。


 樹のいる場所から少し離れた空中に転移してきた四人は、すぐに魂力の大きな大猿モンスターに気が付いた。 


 ルイは強大なモンスターを見て感心する。


「ほう、魂力30万のモンスターか興味深いな」


 一方で陽那、結月、アサカは樹の魂力が弱くなっているのを感じ取った。


「落ち着いてる場合じゃないよ! 樹の気配が物凄く弱々しくなってる!!」


 アサカが声をあげるのと同時に、陽那は閃光の魔法を放ち大猿のモンスターを狙撃した。


 結月は魔刃のオーラで具現化した刀を握り、居合切りの構えを取って魔力を溜める。


 陽那の魔法が大猿のモンスターを貫き、動きを止めたところで結月は抜刀して斬撃を飛ばした。

 

「アサカ、樹の治療は任せた」


 結月は言い残して、モンスターの元に全速力で移動した。


「あの猿は私と結月で消してくるから、アサカが樹とセフィリアを避難させといてね」


 陽那もモンスターの元へ飛んで行った。


 残されたアサカは「うん、任された」と呟いて樹の元へ急いだ。 




 * * *




 アシストさんが俺に告げる。


「マスターがこの世界に転移ゲートを開通して、転移してきました。エルピスのサーバーとの接続を確認しました。アイテムストレージ及び転移ゲートの使用が可能になりした」


 ルイさん、来てくれたのか。それに陽那と結月とアサカの魂力を感じる。


 その直後、いくつもの閃光が大猿モンスターを貫く。あれは陽那の魔法か。


 魔法を食らった大猿モンスターは、悲鳴のような咆哮をあげ足を止めた。


 さらに大猿モンスターは、青いオーラの衝撃波を受け吹き飛んで行った。あれは結月の魔刃の斬撃だな。


 大猿モンスターが吹き飛んで行った方向を見ると、宙に浮いた二人の黒髪ポニーテールの後ろ姿が大猿モンスターと対峙している。


 ふわりとそよ風が吹いたかと思うと、俺の近くにアサカがいた。ボロボロの俺を優しく抱いて治癒魔法を掛けてくれた。体の傷は完治したものの限界を超えてMPを消費していたため、意識が飛びそうだ。


「アサカ、来てくれたんだね。ありがとう。悪い、後は任せるよ」」


 アサカは「うん」と、力強くうなずいてくれた。でも、セフィリアは納得がいかないのか眉をひそめる。


「固有武器を使っても勝てなかったのよ! あの二人でも勝てるか分からないでしょ?」


「勝てるよ、絶対に」


 朦朧とする意識の中、俺はその一言だけセフィリアに伝えた。




 * * *




 アサカは愛おしそうに樹の頭を撫でると、セフィリアに言う。


「陽那と結月が全力で戦うから、私達も速く避難しないと巻き込まれちゃうよ。樹を連れて速く逃げよう」


 アサカの言葉にセフィリアは語気を強める。


「私だってこの世界で、固有スキルを支配者クラスに成長させることができたし、魂力だってあなた達よりもずっと大きくなった。それでもあのモンスターには敵わなかったのよ! あの二人が勝てるわけない!」


「いいから早く離れるよ」


 アサカは樹を風魔法で優しく包み込んで持ち上げ、セフィリアの手を掴んで、大気の支配者の能力を使い三人同時に音速を超える速さでその場を離れた。


 セフィリアは今起こった出来事に唖然とした。


 固有スキルも支配者クラスに成長した、更には魂力も大幅に上がっているのだから、アサカの強さに追いたはずだと思っていた。


 それなのに、手を掴まれた途端に離れた場所に移動させられていた。アサカの行動に全く反応できなかった。移動速度も自分の全力よりも速いと感じてしまった。


 その事実を素直に認めるわけにはいかず、自分はあのモンスターとの戦闘で疲弊していたから反応できなかったんだと、自分に言い聞かせていた。




 陽那と結月は、大猿のモンスターの前に立ちはだかっている。


 陽那は眼前のモンスターを睨みつけて、魔力を開放した。


「樹を痛めつけたのはコイツだね。天照来て」


 続いて結月は目を細めて静かに「月影」と呟く。


 陽那と結月はそれぞれが呼び出した、絶大な魔力が宿る刀を握った。それを離れた場所で見ているセフィリアは驚きの声をあげる。


「固有武器!? でもあれは魔導器で魂力をブーストしないと使いこなせないんじゃ……?」


 アサカは苦笑いをしながらセフィリアに応える。


「陽那と結月は樹と同じように、自分の能力として魂力ブーストが出来るんだよ。二人とも必死で練習してた。もちろん、私も練習してるけどまだ完全じゃない。私はまだあんなに強いモンスター相手に実戦では使えないよ」 


「そんなことまで……」


 セフィリアの目には、驚きと焦燥が入り交じっていた。


 大猿モンスターは、目の前に現れた二人を敵と認識し、叫びながら拳を結月に振り下ろす。


 結月は刀を鞘に納めたまま微動だにしないが、拳は止まり結月に届かなかった。


 結月の障壁に圧縮され込められている魔力量が、大猿モンスターの拳に込められているそれをはるかに上回っていたのだ。


「魂力30万なんでしょ? なら、私に手傷の一つでも付けてみなさい」


 冷たく言い放ち、覇気を放つ結月。その間も魔刃のオーラを刀に込め続けている。


 怯んだ大猿モンスターは、陽那の方に向いて殴りかかる。陽那は自分の体よりも大きなその拳を、左手で軽々と受け止めた。


 そのまま陽那は右手にも魔力を凝縮し、大猿モンスターに拳を打ち付けた。その拳からは眩い光がほとばしり、大猿モンスターを吹き飛ばす。


 そこに結月は、超速の居合切りを繰り出した。


「跡形もなく消し去ってあげる。刃桜烈開花(じんおうれつかいか)


 青く輝く刀身から放たれたのは、高濃度の魔刃のオーラで形成された巨大な刃だ。圧倒的な魂力を有しているはずの、大猿のモンスターの身体をいとも簡単に分断したあと、激しく炸裂した。


 大猿モンスターはすぐさま再生を始め、分断された体を繋げる。だが、それでも結月は動じることなく鋭い目つきのまま「開花」と呟いた。


 すると、弾けて周囲の空間に漂っている大量の青い粒子は淡い薄紅色に変わり、一つ一つが五枚の花びらを開いた。


 それまでの禍々しい魔力に覆われていた空が、満開の桜並木を見上げたかのような光景に変わった。


 結月は月影の切っ先をモンスターに向けて「散花」と呟くと、桜の花を模した魔刃のオーラが一斉に散り、大猿モンスターを包み込む。


 舞い散る花びら状の刃は、大猿モンスターの再生能力を超える速さで身体を刻み続ける。大猿モンスターは雄たけびを上げ必死に抗うも、猛烈な勢いで削られていった。


 陽那は自身の魔力を朱色に輝く刀に集中しながら、それを苦笑いで眺めている。


「これは私の出番は無いかな……? でも、樹を傷つけたこと、私だってすごく怒っているんだから!」


 陽那が朱色の刀、天照を頭上に振り上げると、光の束が次々と刀身に集まって圧縮されていき、太陽のごとき輝きを放つ。


「私の全力、ありがたく食らえ」


 そう言って陽那は刀を振り下ろした。彼女の怒りを具現化したかのような、膨大な熱量を秘めた一撃が、大猿モンスターを飲み込む。

 

 まばゆい灼熱の閃光が走り爆音が轟く。攻撃の余波で発生した爆風は、試合会場に設置されている結界を、いとも容易く消し飛ばした。


 アサカとセフィリアがいるところまで爆風は到達し、二人は全力で障壁を展開してそれをこらえる。


 爆風が収まると、そこには陽那と結月が宙に浮いているのみだった。大猿のモンスターは魂力の残滓すらなく消滅していた。試合会場だったその場所は大きな穴に変わっていた。


 セフィリアは眼前の光景に愕然として思わず溢す。


「同じ支配者クラスのはずなのに……、これほど圧倒的とは……」 


 アサカはセフィリアの言葉に、少し前の自分を重ねたのか微笑んで応える。


「あー、それ私も支配者クラスに成長したときに、同じことを言った覚えがあるよ。でも、あの二人は支配者クラスになってから一年も切磋琢磨してるんだもん、すぐに追いつけるわけ無いよ」


「アサカ、あなたはそれでもいいの?」


「このままにするつもりは無いよ。いつかはあの二人よりも強くなって、私が樹の一番になるんだからね!」


 あの二人の圧倒的な強さを知っていながら、自信たっぷりに答えるアサカを見て、セフィリアは実力の差を認めざるを得なかった。


「せっかくあなた達三人と、肩を並べることが出来たと思ったのに、実力差を思い知らされるなんてね……」


 セフィリアはそう呟いて、力なく笑った。

 

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