隷属
ダンジョンが消滅して、俺達は森の中に立っている。俺の頭の中でアシストが告げる。
「高平光希の端末のログを取得し解析しました。高平光希が召喚された日時と、この世界で経過した時間から、この世界の時間の流れの速さが判明しました」
「この世界の時間の流れの速さは地球の120倍です。仮に転移ゲートの開通に2時間かかった場合十日でこの世界に迎えに来ることが出来ます」
「この世界に来て七日経ってるからあと三日以内に迎えに来てくれるのかな?」
俺の疑問にセフィリアが答える。
「実際には転移ゲートを開通するのに二時間はかからないと思うから、もう少し早く来てくれると思うわ」
「そうすると、グレンガルドと試合が終わる前に迎えに来るかもしれないね」
「イツキさん……」
俺とセフィリアの会話を聞いて、心配そうに俺に視線を送るレハタナさん。
「分かってるって。もし早く迎えに来ても、試合だけはしてから帰るよ」
「どうか、よろしくお願いします」
俺がやったわけでは無いけど、ダンジョンが破壊されたので任務は完了だ。ここに、用は無いので城に帰ろうか。
俺達は王都に向かって飛びたった。
俺は、飛びながら先程のダンジョンでの出来事を思い出している。
どう見ても高平の方がゴードンより強かった。なのにゴードンの命令に従わされているように感じた。まぁ、単に高平が俺と戦いたかった可能性もゼロじゃないけど……。
もし何らかの理由で仕方なく戦わされているようなら、何とかしてやりたいところだ。俺が考え込んでいるとアシストさんが言う。
「高平光希の端末のログから、先程の高平光希の行動の理由だと思われる音声を発見しました。音声を聞きますか?」
「音声なんて録音していたの?」
「この端末は常時全ての音声を録音しています」
「……もしかして、俺とセフィリアが仲良くしている音声も?」
「全て録音しています」
うわ……、プライバシーなんてあったもんじゃないな……。どうせルイさんしか聞かないだろうからどうでもいいか。
そんなことよりも高平の行動の理由が気になる。俺がアシストさんに頼むと、高平の声と、悪人そうな声色の男の声が言い争っているようなやり取りが頭の中で再生される。
「異世界の勇者よ。隣国アイラスタニアに召喚されるであろう勇者と戦って勝て」
「何を言っている? 俺達を元の世界に帰せ!」
「大人しく従えぬのなら仕方ないな」
呪文を詠唱する声。詠唱が終わると同時に鎖が床とこすれる音がする。ハーゲンの使っていた拘束魔法と同じ音だな。直後に「きゃっ」と女性の驚いた声がした。
「穂乃香を離せ!」
「女を無事に返して欲しければ、必死で強くなって、アイラスタニアに召喚される勇者との試合に勝て」
穂乃香って高平の恋人だろうか? 恋人を助けるために、どうしても俺に勝たないといけないのか……。
高平は恋人と一緒にこの世界に召喚されて、恋人を人質に取られたということか。
そして取り戻すために、必死で鍛えて固有スキルも支配者クラスにまで成長させたのか。きっと相当な苦労を乗り越えたんだろう。
俺達も、もし魂力が低ければこの世界に召喚された直後に、ハーゲンの魔法で隷属させられていたかもしれない。
女王の性格からすると戦いを強制されることは無いかもしれないけど、もしセフィリアを人質にされていたら、と考えるとどうしても感情移入してしまう。
高平を他人事とは思えない、どうにかできないものか……。
* * *
城に戻ると、レハタナさんがすぐに女王に報告しに行くと言うので俺達も付いて行った。
女王は俺達にねぎらいの言葉をかけた。レハタナさんはスッと頭を下げた後、ダンジョンであった出来事の報告を始めた。
グレンガルド側もダンジョンを破壊するために来ていて、そこでグレンガルドに召喚された勇者と遭遇したこと。
ゴードンの指示で高平が攻撃を仕掛けてきたので交戦し、戦っている最中にダンジョンコアを発見して高平がダンジョンコアを破壊したこと。
そして、高平が俺と同じ世界から来た人間だということ。
それらをレハタナさんが報告して、一部俺が捕捉した。一通り報告が終わると女王が口を開いた。
「グレンガルドに出発するまでに、問題が解決して良かったです。イツキさん、セフィリアさん本当にありがとうございました」
「グレンガルドに出発?」
「はい、明日グレンガルドに出発します。試合当日までグレンガルドで過ごすことになります」
そうか、なら高平の恋人を探し出して、助けられるかもしれない。俺は女王にお願いをした。
「高平は恋人を人質に取られて、戦うことを強要されています。どうにかしてやりたいんですが、グレンガルドに着いたら、俺とセフィリアで高平の恋人を探してもいいですか?」
「試合当日まで、イツキさん達は特にやらなければならないことも無いので、その間に探してください。グレンガルド側に気づかれないように充分注意してください。私も出来る限りの協力はしましょう」
あっさりと許可してくれた。
後はどうやったらばれないように、グレンガルド国内を探れるのかを考えることにした。