隣国の勇者
かれこれ、一時間はダンジョン内をウロウロいしているだろうか。ゴールが分からない所を進むのって疲れるよね。
モンスターはセフィリアが全部倒すので見ているだけだし、若干ダレてきた俺は探索能力を全開にして周囲を探ってみた。
この先に魂力の高いやつがいる。これの感じは……、モンスターじゃなくて人だな。警戒しながら進むと男が二人いた。
一人は日本人に見える。もう一人は鎧姿に帯剣している。この世界の騎士だろうか?
日本人風の男はこちらを見ているが何も言葉を発さない。
もう一人の騎士風の男がこちらに歩み寄りながら声を掛けてきた。
「これはこれは……。アイラスタニア聖竜騎士団長のレハタナ殿ではありませんか。異世界の勇者殿とレベル上げですか?」
レハタナさんは騎士っぽくその男に礼をする。
「あの人、レハタナさんの知り合い?」
「グレンガルド国王親衛隊No1のゴードン殿です」
「あー、隣国の……」
「グレンガルドでは騎士の強さの序列が明確に決まっており、序列を示す番号が各騎士に与えられています。その中でも上位の7名は特別に強く『テトラステラ』と呼ばれています。彼は1の数字を与えられたグレンガルド王国最強の騎士です」
「ふふ、少し訂正させていただくと、グレンガルド王国最強ではなく、この大陸最強の騎士ですよ」
自分の方がレハタナさんより強いって言いたいのか。まぁ、確かにレハタナさんと同等の強さはありそうだな。そんな事を考えているとアシストが俺に伝える。
「グレンガルドの騎士と共にいる男性は箱庭計画の元参加者です。彼は箱庭計画で配布された魔導器のスマホを所持しています。名前は高平光希。箱庭のボスを倒してゲームクリアしたプレイヤーのうちの一人です」
あいつも、魔導器のスマホを持っていたのか、奇遇だね。日本人がこんなところにいるってことは、あいつがグレンガルドに召喚された勇者で俺と試合をする相手だよな?
アシストさん今の高平の魂力は?
「高平光希の端末の情報を取得します……。魂力は118382です。固有スキルの強度は支配者クラスです」
11万超えてる? しかも支配者クラスなのか、強そうだな。
「端末のログによると、約三カ月前にこの世界に召喚された直後は魔法陣による強化の効果を含めて4万程でした。その後、多くのモンスターを倒し、ダンジョンコアを破壊して魂力を上げ、固有スキルもこの世界で支配者クラスに成長しています」
この世界に来て急激に強くなったのか……。向こうも俺に気が付いてるはず。向こうもこちらの情報を取得してるよね?
「柳津樹はエルピス幹部と同等の上位権限を与えられています。高平光希側の端末の全ての情報を取得することが可能ですが、高平光希側はこちらの情報を一切取得できません」
セフィリアとアサカはエルピスの副社長だから、俺もそれと同じ権限があるのかな? なんか優越感に浸ってしまうよな。でも、相手は魂力11万超えで、支配者クラスだからそう呑気に構えているわけにもいかないが。
俺が色々考えていると、ゴードンが笑顔でレハタナさんに話し掛ける。
「こんなところで会うとは奇遇ですね。我々もレベルを上げを兼ねてダンジョンコアの破壊に来ているんですよ。そうだ、お互いの勇者を少し戦わせてみませんか?」
レハタナさんは「そんなこと、出来るわけないでしょう」と断ったがゴードンは高平に命じた。
「コウキさん、あのアイラスタニアの勇者をここで痛めつけてあげてください」
高平は、その言葉に返事も頷きもしないまま前に出る。そして、地面を蹴って勢い良く俺に接近し、魔力を朱色のオーラに変え拳に纏わせて打ち込んだ。
う、速っ! 俺は咄嗟に魔刃の刀を具現化して拳を受けるも、勢いを殺しきれずに吹っ飛ばされてしまった。ダンジョンの岩の壁に激しく打ち付けられめり込み土煙に覆われる。
俺の刀に競り勝つなんて、アイツの拳が纏っている魔力はかなりの密度だな。
「イツキさん!」
レハタナさんは大声で叫ぶがセフィリアは冷静だ。
「問題ない。イツキの障壁は破られていないわ」
これくらいの攻撃一発程度ならダメージは無い。でも何回も食らうとまずいな。魔法で弾幕を張ってごり押ししても勝てそうだが、ここはあえて近接で戦ってみようかな。
跳び掛かって攻撃を仕掛けてくる高平の拳を刀でいなしながら声を掛けてみた。
「こんなところで戦わないで、正々堂々と試合で勝負しない?」
「うるさい黙れ」
「もしかして、アイツの命令に服従しないといけない理由があるとか?」
高平は無言で睨みつけてくる。俺は説得を試みた。
「そうなんだな? なら、俺も何か協力するよ」
「お前には関係ない。ここで死んでくれるのが一番ありがたいな」
まったく取り付く島もないな。
何度も拳と刀で打ち合っていると、高平は強力な一撃を放つ際、拳を繰り出す前に魔力を込めるために一瞬動きを止める。それが攻撃を非常に読みやすいものにしている。
あ、また溜めた。大振りの強い攻撃が来る。俺はその攻撃を刀で逸らして、反撃する準備をした。
……が、魔力を溜めた拳ではなく、素早い回し蹴りが飛んできた。
高平は、二ィっと笑みを浮かべ、俺の脇腹に回し蹴りが綺麗にヒットする。
「俺の攻撃パターンを読んだつもりかよ」
得意げなところ悪いが、俺の予定通りだ。こいつはわざとらしいんだよ。攻撃パターンを読んだと錯覚させて、やってやる感が見え見えだ。
俺はあらかじめ胴体部分の障壁に魔力を集中して強化しておいた。こいつはなんとなく俺の胴を狙っているような気がしたから。
経験則って奴かな。陽那と結月、それにルイさんにさんざんしごかれたからなぁ。支配者クラス相手に鍛錬していた差だ。
俺は地面に仕込んでおいた魔力で茨を具現化させて、高平を捕まえ動きを封じた上で、刀に青いオーラをたっぷり込めた居合切りをおみまいしてやった。並みの相手なら真っ二つになるだろうけど、高平は魂力が高いから大丈夫だろ。
高平は咄嗟に朱色のオーラを集中させてガードするも、ダンジョンの壁をいくつもぶち抜きながら吹っ飛んで行った。ゴードンはそれを慌てて追いかける。俺達も追いかけた。
ダンジョンの壁にあいた穴をいくつかくぐると、開けた空間に高平が倒れている。そこには赤紫の怪しい光を放つ直径1m程の大きさの球体が浮かんでいた。息苦しくなるほどのプレッシャーを感じる。
レハタナさんは俺に「あれがダンジョンコアです。こんなに大きく、禍々しい物は初めて見ます」と教えてくれた。これを破壊すれば任務完了だな、と思っていたら、ゴードンはダンジョンコアに攻撃を仕掛けた。剣を振り下ろして斬りつけるも鈍い音がして弾かれる。
「コウキさん、これを破壊してください! そうすれはレベルが大きく上がるはずです!」
ゴードンの指示を受け、高平は起き上がる。俺の居合切りをまともに食らったはずなのに、さほどダメージを負っていないのか。次からはもう少し本気でやっても大丈夫そうだな。
高平は右拳に魔力を込めるとダンジョンコアに打ち付けた。
強力な一撃だったが破壊できない。高平はさらに魔力を開放すると右手に何がが現れた。魔力で具現化したのか……ワニの口みたいだな。高平はそれで喰らいつくようにダンジョンコアを挟み込んで魔力を込める。ミシミシと軋む音が聞こえてくる。
ダンジョンコアにひびが入り出し、遂には砕けた。ダンジョンコアが消滅したの同時に周囲の景色が変わり、俺達は元の森の中に立っていた。
「目的は果たせたので今日はここで失礼します。次は試合会場で会いましょう」
ゴードンがそう言い残して二人は去って行った。




