魔魚討伐
ガロードの車で港まで来た。
大小さまざまな船が沢山停まっていて、海の男といった見た目の体格のいい人達が大勢いた。魂力も3~4万はありそうだ。
「イツキ、漁業ギルドの者に船を出してもらうから、ちょっと待っていてくれ」
ガロ―ドは言うが、俺は先程から探査能力を全開にして探っており、港から2~3kmほど離れた海中に特別魂力の高い奴がいるのは分かっている。
「あっちの方角に高い魂力の気配がある。俺達飛べるから、サッと行って倒して来るよ」
「えっ、飛べるって?」
ガロードとリセリアは驚いているようだったが、俺とセフィリアは飛び上がり高い魂力がある方へ向かった。
しばらく海上を飛んで行くと、高い魂力の気配の真上まで来た。さて、どうやって倒すか。炎や光の魔法を海中に放っても減衰してしまうだろうし、電撃も散ってしまうだろうからな……。試しに魔刃で斬撃を飛ばしてみるか。
俺が右手に魔力を込めて刀を具現化すると、大きな影が海面に浮かんできて、巨大な体躯と長い角を持った魚が俺に向かって飛びかかってきた。
なかなかの速さの突撃だ。俺の心臓を一突きにするつもりなのか。
でも、魂力差も大きいし直線的で単純な攻撃だ。俺が落ち着いて軽く躱すと、的を外した魚はそのまま惰性で上空まで飛び上がっていく。
俺は魔刃の刀を消してセフィリアの植物操作をイメージしつつ、魔力で蔦を具現化してその魚を空中で捕らえた。
俺は捕らえた魚に近づいて観察してみた。
魚は10mはあろうかという巨体で、背は黒っぽくて腹の部分は鈍い銀色だ。頭部……というか上顎についている角は、黒曜石みたいに黒光りしており太くて丈夫そうだ。先端は鋭く尖っており殺傷能力も高そうだな。
俺の魔力で具現化した蔦に捕らえられ絡まりながらも、ビチビチと元気よくもがいている。
「コレ、モンスターじゃないよな?」
俺の呟きに、アシストさんが答える。
「モンスターではありません。モンスターを倒して魂力が上がった魚です」
生き物なのか。かわいそうだけど多くの人に迷惑になるから駆除するか。俺は魔法で瞬間冷凍してから、海面に浮かせて蔦で引っ張りながら港に持って帰ることにした。 早く戻って、みんなを安心させてあげよう。
セフィリアは訝しげに俺を見ている。なんか変なことでもしてしまっただろうか?
「イツキ、植物操作が出来るの?」
「セフィリアの魔法をまねしてみたんだよ」
「私は常に薔薇の種を持っていて、魔力を込めて操作しているの。イツキは種なんか持っていないでしょ?」
「持ってないけど俺の固有スキルは支配者クラスだから、イメージすれば魔力で具現化できるんだよ」
「私に対する当てつけね」
しまった、セフィリアはルイさんから早く支配者クラスになるように言われてるから気にしているんだろうな。
「そんなつもりじゃないよ」
「……分かってる」
セフィリアは表情を曇らせて黙り込む。なんとなく気まずい。
そういえばこの魚、魂力は5~6万くらいだろうか。倒したのに俺の魂力が全く上がらなかったような気がするけど? 俺の疑問にアシストが答える。
「生物を殺しても魂力は上昇しません。生物を構成している魂のエネルギーは+極なので、生物である人間の魂とは+極同士反発して吸収されません」
なら、魂のエネルギーはどうなるの?
「基本的には拡散して大気の魔力になります。ただし、モンスターの魂は-極なので、近くにモンスターがいればモンスターに吸収されます」
へーそうなんだ。待てよ、近くにモンスターがいたら魂力の強大なモンスターになるってことじゃ……。
「その通りです。ですが、この魚の魂のエネルギーは、この一帯にいる数多くの海中のモンスターに分散して吸収されたため、影響は小さいと予測します」
なら、ひとまず安心かな? 港にいた体格のいい男達も魂力は3~4万程度はありそうな感じだったし、ある程度の強さのモンスターなら自力で倒せるよな……?
俺が頭の中でアシストの説明を聞きながら港に向かって飛んでいると、セフィリアが声を掛けてきた。
「どうやったら、支配者クラスまで固有スキルを成長させることが出来るの?」
「そうだな……。俺は良く分からないうちに支配者クラスになってたけど、陽那と結月とアサカの話を聞く限り、死にそうな程追い込まれて、それでも絶対に負けられないって思ったら成長したらしいよ」
「死にそうな程、追い込まれる……か」
セフィリアは真剣な表情で俺の言葉を反復する。
「でも、セフィリアを死にそうになるほど、危険な目に合わせるわけには行かないからな」
「なら、イツキが私を半殺しにして!」
「そんなこと、出来るわけないでしょ!」
「セフィリアは魂力も高いし、境地クラスの固有スキルも使いこなしている。後は強い願いがあれば、支配者クラスになれると思う」
「強い願いって例えばどんな?」
「俺の固有スキルが成長したときは、大切な人を絶対に守るために強くなりたいって願ったんだけど……。セフィリアは何のために強くなりたいの?」
俺の質問にセフィリアは少し考えた後、小声で呟く。
「……なって、イツキを……」
俺はその声をしっかり聞き取ることはできなかったが、思い詰めたセフィリアの顔を見て、聞き返すことはできなかった。
そうこうしているうちに港に着いた。港にはガロードとリセリアの姿があった。
「レベル124のランサーフィッシュも容易く倒したのね。しかも、空飛んでるし……。やっぱりイツキって騎士団長より強いんじゃないの?」
「ランサーフィッシュは、強くて魔魚化しやすいが肉はうまいぞ。氷漬けになっているな、倒してすぐに魔法で冷凍したのか。鮮度を保っていそうだ。角も無傷みたいだから高く売れるぞ」
俺が持って帰ってきた、氷漬けになっている魔魚を見て、リセリアとガロードは嬉しそうにしている。
「その辺はよく分からないから、二人に任せるよ」
その後、魔魚を海面から引き揚げると、解体するからと海の男達に運ばれていった。
ついて行くと、彼らは刃渡り2mはありそうな大きな包丁で、手際よく魔魚の巨体をさばいている。俺達は肉の塊の一部を貰った。
「今夜はランサーフィッシュが食べられる」
ガロードとリセリアはとても嬉しそうにしているので、俺も嬉しくなった。
その後、冒険者ギルドに寄って魔魚を討伐したことを報告し、ガロードの家に帰ることにした。




