エピローグ
むかしむかしのお話さ。
君はどこまで信じるかい?
「面白かったわ。ありがとう」
街の広場で、子供相手に語って聞かせる老人へ、輪に加わっていた金髪の女性が品の良い礼を残して立ち去った。
「なにか得るものはありましたか、ファティア」
「そうね、次の目的地くらい。ところで、その敬語はどうにかならないの」
「無理言わないでくださいよ、ひ いえ。努力するけどね」
「期待しているわ。それと『壊体屋』は?」
「さぁて。アレは首に縄をつけてもすり抜けるタイプだからなぁ。派手な事件が起きる場所にいるでしょ」
「鈴が服を着て歩いているようなものね」
ブルネットの青年は「それは確かに」と声を潜めて笑い、女性と共に歩き始めた。
ここからずぅっと東にある森の中に、ポツンとお城が建っている。
いつの時代、誰が、なんのために建てたのかはわからない。
お城の周りの森は悪い魔物がいっぱいで、だぁれも近づくことができないからだ。
ある時、勇敢な冒険家がお城を目指した。
きっと、そこには素晴らしい財宝が眠っているに違いない。隠した者が、奪われないよう深い森に置いたのだ。そう考えて。
果たして冒険家は、城へ到着した。
そこには、白銀の髪に金の瞳をした、美しい姫君がいた。
赤い果実のなる樹の下で、幸せそうに微笑んでいるのだという。
『ここは満ち足りております、お引き取りを』
一度目の言葉で踵を返すなら、平穏な帰還が約束される。
二度目の言葉で踵を返せば、土産に財宝を持たされる。
三度目の警告で退かぬのならば――姫が抜き放つ剣でもって、赤色に染められるだろう。
この世界がいつから始まったかなんて人々はまるで知らないが、物語はいつもむかしむかしから語られる。
―了―