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能登平定

「やあ、権六。お客様は来ているかな?」

「はあっ!? 喜六様!?」

 尾張にて後方支援の総指揮を執っているはずの喜六様がなぜここにいる?


「おう、喜六殿、お初にお目にかかる」

「ええ、書状は何度も行き来しておりますので、初めましてと言う感じはしませぬが」

 なにやら意気投合した風情でしゃべりだす二人に周囲の者が唖然としている。


「一豊! 何事じゃ!」

 よく見ると、喜六様の周囲には護衛の兵が付いており、それを率いる馬廻りの山内一豊がいた。

「はっ、拙者の立場からは何も……、ただ、飽きた、と」

 確かに尾張周辺の敵対勢力はすでに無い。前線を必死に押し上げたのは喜六様のいる尾張を安全地帯にするためであった。

 実際には殿にくっついて近江にいることが多く、儂の出陣と同時期に終わりに戻られていたはずであった。


「して、佐渡に金山があるとの話であるが」

「ええ、古い書物で見つけた記述で、金が出るという地の特徴がみられるのです」

「ふむ、銀が取れるという報告は聞いておりましたがのう」

「それにしても、現地の本間一族がだいぶため込んでいるんじゃないですかね?」

「うむ、替地を用意すると言ってもがんとして首を振らぬ」


 先祖伝来の土地を手放したがらぬのは、わからぬでもない。故地を追われることは死ぬほどにつらいことである。

 しかし、より豊かな地を加増してもらえるのであれば、それはまた別の話である。


「攻めましょうかの?」

「それもやむなしかと。もともと面従腹背の輩でしょうし」

「されば、向かいましょうか。我らが乗り付けた船はこれより北東の小さな港町に置いてありますゆえ」

「七尾より北は警戒が薄かったみたいですねえ」

「城に目が向いておりましたからな。さすがにこの手勢では厳しいが、千もおれば宅田の湊くらいは切り取れましたかの」

「どうやって維持するんですか」

「おう、確かに。うまく戦功が得られれば能登半国でも貰えぬかと思いましたがの」

「そこは、佐渡を直轄にすることと、鉱山の情報で相殺です。あとは僕個人から酒を贈りましょう」

「承知!」

 能登半国となれば、地域によるが十万石ほどであろうか。宅田の湊は能登半島の最北に位置し、北回り船の拠点となる。

 港の運上だけでも相応の利となろう。無論、佐渡で金銀が産出となればその利は計り知れない。

 ここで引けば喜六様に恩を売ることもできよう。

 合戦莫迦のように自称しておるが、いくさに強いだけでは越後の土豪たちを従えることは難しい。幾度となく背く土豪を許さざるを得ないことも、下手に滅ぼすと一斉に反乱を起こされる危険があってのことか。

 そのうえで幾度も武威を示し彼らの反抗する心をへし折る。なかなかにできることではない。


「さて、権六。行こうか」

「はは?」

「上杉殿の加勢だよ。船で移動だから馬廻りだけ引きつれようか」

「儂も、ですかのん?」

「当り前じゃないか。僕の手勢は一豊以下三十騎しかいないからね?」

「かしこまってござるだわ。勝政!」

「はっ!」

「馬廻りより五百を選別せよ。おのしも来い」

「ははっ!」

「盛政! 儂の陣代となりて兵を率いよ。七尾の城は今しばらく取り巻くがよからあず」

「承知!」

「ああ、先に城を落とさなきゃね。権六。こういう手があるんだけど」


 喜六様は手に持った小袋を手ににっこりと微笑んだ。


 数日後、手薄になっていた陣の一つが攻められ、敗退した。そこに集積されていた食料が奪われ、城に運び込まれる。

 そしてその翌日、城の首脳陣がそろって腹を下した。


「うん、効いたみたいだねえ」

「者ども、かかれい!」


 明らかに城兵は混乱していた。指揮を執る侍は脂汗を流し、腹に力が入っていない。

「撃て!」

 鉄砲衆が先頭に立って城門に銃撃する。弓衆が城壁に矢を射込み、矢玉が飛んでこなくなったころ合いで一斉に突撃した。


「うっぷ、これはひどいでや」

 城内は悪臭で満たされていた。腹を押さえてへたり込む兵を討ち取り、制圧していく。

 そこら中に、漏らされた糞が散らばり、中には足を滑らせるものもいた。


 本丸もほどなくして落ち、城将は抵抗することすらできずに捕らえられた。

 一族を族滅に近い形で殺されていた長連龍は、憤怒の表情で彼らを一人一人斬っていく。

 最後の一人を切り捨てた後、彼は滂沱の涙を流していた。


「ところで喜六様、一体敵に奪わせた兵糧に何を仕込んだので?」

「んー、これ。腹下しのセンナを混ぜたんだけど、ちょっと多すぎたかなあ」

 城は悪臭がすさまじく、廃城となった。

 ふもとの湊に近いところに新たな小丸山城が築かれるのはこののちのことである。


「さあ、これで心置きなく佐渡へ行けるね」

「お、おう」

 このやり取りを見ていた平三は、しばらく唖然とした後、爆笑した。普段厳めしい顔しか見ていなかったと聞く近習の兵たちは、初めて見る主君の有様に驚きを隠せなかったという。


 七尾より北東に二十里ほど行った海沿いにその小さな町はあった。城山と呼ぶ小高い丘の上に築かれた城館は、長氏の一族が築いた城であるという。

 夕刻には棚木城に入り、城主のもてなしを受けた。

 

「宅田の東に上陸して、港を攻めようと思うたこともありましての」

「なるほどね。能登半島の東側はかなり内応している者も多かったんじゃない?」

「相応にはおりましたの」

「ここもその一つってことだね」

「いやいや、これにて能登は織田殿によって平定されましたでの。それを言い出すは無粋にござろう」

「こわいこわい」

「はっはっは」

 翌朝、港より直江津に向けて船出する。熱田の湊より船に乗ったことはあるが、これほどの距離を移動したことはない。

 何やら心が躍り、そののち胃の腑がざわめいた。

 込み上げるものをこらえきれず、儂は船べりから顔を出し、解き放った。

新作です。

ダンジョンものファンタジー作品です

https://ncode.syosetu.com/n7702gw/

此方もよろしくお願いします。

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