軍神との邂逅
加賀、能登、越中のちょうど真ん中にある石動山を支配下におさめたことによって加賀は安泰となり、能登も土豪どもが次々と降伏してきた。
越中も国境沿いの福光の城が開城し、そのまま兵を進める。高岡を過ぎ、射水郡も陥落した。東部の魚津は上杉に服属する椎名氏が治めており、富山城は事実上の孤立無援で、さらには挟撃される状態であった。
「冗談でもそのような城にはこもりたくないものでなん」
「左様にございまするな」
「越中に上杉の影響が及ぶは好ましきことではないでのん。内蔵助よ、神保衆を先陣に立てて小島を討て」
小島職鎮はもはや勝ち目なしと、城を捨てて逐電した。
富山城はそのまま佐々内蔵助に与えられることになり、神保長職は射水郡を安堵された。
「射水の地は神保の本貫の地ゆえ、すべてを失いし事を思えば篤き御恩にございまする」
「万が一もあるゆえ、東に変事が起きなば貴殿が頼りでや。内蔵助のこと、よろしく頼み申す」
「かしこまってございまするに。織田様の御恩、末代まで忘れませぬ」
これにて越中は平定された。椎名も富山城が落ちたと聞いたのちは魚津より兵を動かさず、残党が逃げ込んでこないかの警戒のみしている様子であった。
能登は七尾城を取り巻いているが、一向宗の残党が逃げ込んでいて、頑強に抵抗していた。
石動山のいくさから逃れた者も多く城に入っており、問答無用で攻め滅ぼされたと触れ回っているようであるが、幾度となく降伏を促す使者は送っている。
兵を周囲に配置して、主要な道をふさぐ。山城のため完全な包囲は難しいが、多数の番衆は膨大な量の食料を消費する。
そして、山城は城郭自体は狭く、少数の兵が籠って長期間戦うのには向くが、そもそも大兵力を養うことは難しい。
「そのまま付け城を築いて取り囲むでや。放っておけば奴らは次第に弱っていくでなん」
短兵急な決着を避け、広大な城郭を包囲する。出撃してくる敵兵は付け城を攻めあぐねて退却を繰り返す。まともな具足もなければ弓すら持っていないものも多く、城攻めがまともにできるはずがなかった。
「親父殿、念のためであるが、あやつらが開城を申し出てきたら許すのかのん?」
「いや、すでに幾度もの勧告をはねつけておるでなん。石動山と同じでや」
「されば根切りか」
「やむなしであろうず。さもなくば、一揆、謀反をしても許されると思われるでなん。一度は許す。しかしそこでわからぬ奴らは我らの天下には不要と言うことであらあず」
「なるほど、筋の通ったいいようであるがや。さればそのように周りにも申し伝えるでや。城に居る親類を救いたいとの嘆願が来ておってのん。なかなかに苦しき話し合いとなっておるでのん」
「砦の前に立たせて呼びかけさせるでや。砦に入れてはならず。中より破られる恐れがあるでなん」
「やはりそれしかないか。承知いたしたでや」
「うむ。日を決めよ。そうだのん、明後日までを期日とするでや」
「たしかに、それ以上伸ばしても仕方なかろうのん」
そして周囲より、城内への呼びかけがされた。ぽつぽつと城を抜け出す者が出はじめる。そして城内の様子を聞き取りさせるが、すでに兵糧は尽き果て、身動きが取れなくなって親類に抱きかかえられるように抜け出た者もいた。
追手と見せかけて降ろうとしている者もいて、混乱が巻き起こる。
「降る者は武器を捨てよ! さもなくば討ち取る!」
降るふりだけであった者はここで一瞬躊躇する。そこを見抜かれ砦より放たれた矢に倒れる。
小競り合いはすぐに収束し、城兵の半数ほどが逃げ出すか、討たれた。
「いかん!」
その中で数百ほどのまとまった数が北に向けて逃げ出した。
「追手を出せ! 長連龍を呼ぶでや!」
一斉に逃げ出す城兵はそのまま捨て置けば野盗になる。でなくとも被害が出れば今後の統治に差し支える。
一点の瑕疵も許されない中で、失態となるべきことであった。
「かかれ!」
短くも鋭い下知が下された。
その大将に率いられた五百ほどの武者は喊声を上げることもなく、左右に広がり、逃げ伸びる城兵を包囲する。
「うぎゃあああああああああ!」「ひいいいいいいい!」
無言で槍を突き出し、刀を振るって瞬時に殲滅される。
戦果を確認すると、まるで一つの生き物であるかのように将の元に戻る。
「逃げてきたゆえ討ち取ったが、よかったかのん?」
厳めしい表情をふっと緩めて話しかけてきた。連龍は緊張を緩めずに応対する。
「助太刀かたじけなく」
「なに、手土産くらいにはなったかの。儂は上杉平三輝虎と申す。柴田修理殿にお取次ぎを願いたい」
「んあっ!? かしこまってございまするに。すぐに先ぶれを走らせまする」
「うむ、よろしく頼み申す。でのう、ちと無心するのであるが」
「ははっ、陣中ゆえ大したものはございませぬが」
「織田の澄酒を所望したい」
「……儂の手持ちでよろしければ」
「かたじけない」
連龍の急報を受けて供回りと利家を率いて向かった先には、徳利を傾け手酌で欠け茶碗で酒をうまそうに呑む、越後の龍と呼ばれる男の姿であった。
「おう、貴殿が柴田修理殿か。儂は上杉平三と申す。今後ともよろしくお頼み申す」
最初に思ったことは、思ったより小柄な姿であるということだ。それでも全身からあふれる覇気のようなものは、周囲の諸将を圧倒していた。
「柴田修理亮勝家と申す。親しきものには権六と呼ばれておりますなん」
「うむ、よきいくさ人の手じゃ。数え切れぬほど槍を握り、得物を振るいし様が見て取れるようじゃ」」
「そちらこそ、使い込まれたその采は幾度振るわれたのであろうかのん。無数の戦陣を戦い抜いた姿が目に見えるようでなん」
吸い寄せられるように前に立ち、互いの手をがっしりと握り合う。
儂と平三の、断金の交わりとも呼べる関係はここから始まった。
新作です。
ダンジョンものファンタジー作品です
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此方もよろしくお願いします。




