鈴鹿峠の戦い
20万字達成です(´・ω・`)
なろうコン参戦しました
「あれを見よ!」
先陣の兵が指さす先では、煙が見えた。城内からは火の手が上がっている。
矢盾を掲げた一隊が前進し、城門の真ん前に陣取った。中からは喊声と得物をぶつけ合う白兵戦の音が聞こえる。
「なるほど、滝川殿の仕掛けかや」
時間をかけて調略を仕掛けていたと言われていた通り、城内にこちらに通じた兵を紛れ込ませることに成功したのであろう。
しばらくすると城門が開く。
「行けい!」
いくさ慣れした蜂須賀の動きは素早かった。まず少数の先駆けを突入させ、矢盾を連ねて橋頭保を築く。
敵が混乱している状況に付けこんで、一気に大手を制圧した。
「見事なる働きなり!」
脇に控える祐筆が蜂須賀の手柄を書き記す。
「滝川の仕掛けにより、大手門が開門。蜂須賀小六、素早き進退にて大手を制圧す」
目付の役目を与えられた柴田衆の武者たちがそれぞれ手柄を立てた者を報告してくる。
武運つたなく、討ち死にした者もその名を記されていった。
「搦手より滝川益重が突入!」
搦手門でも同じように内応をもって門を破った。関盛信は本丸に立てこもり徹底抗戦の構えを見せる。
大手から突入してきた兵と合流して本丸を包囲するが、譜代の武者以外はすべて締め出して内応を防ごうとしていた。
本丸から締め出された兵は、門の外で陣列を敷き、迎え撃つ構えを見せるが鉄砲を打ち込まれて次々と倒れていく。
矢倉からはしきりに矢を放って援護するが、滝川衆の鉄砲隊からの反撃を受け、銃弾を受けた弓兵が体を貫かれて絶叫しながら矢倉から転げ落ちる。
「まぐれ当たりでや! おそるるな!」
矢倉の上から指揮する敵将に滝川彦右衛門は狙いをつける。
「……ふっ」
静かに息を吐き、引き金を落とすと、放たれた銃弾は敵将の顔面を打ち抜き、その頭蓋を打ち砕いた。
この一撃は敵の士気をへし折り、矢倉にあがる兵はいなくなる。
矢倉からの援護が途絶えたとみるや、門外の兵を殲滅せんと攻撃命令を下した。
「かかれ!」
その檄に真っ先に突っ込んだのは滝川益重と、前田利家であった。
「うおいっ!!」
思わず声を上げる。目付け役が一番槍を競ってどうするか!
「利家を呼び戻せ!」
すぐには戻っては来れないであろうが、使い番を前線に走らせる。
鉄砲隊の攻撃で既に相当の損害を被っていた敵兵も必死の抵抗を見せる。それでも衆寡敵せずの言葉通り、押し包まれて次々に槍玉にあげられていった。
「申し上げます! 一番槍は滝川益重殿、一番首は前田利家殿」
その報告に頭を抱える。このいくさの主役は滝川衆だ。その手柄を奪ってどうする。
「その報告、しっかりと記しおくでや。殿には手柄立てた者を重く賞してもらわねばなん」
笑みを浮かべていたはずであるが、脇に控えていた小姓がびくりと身をすくませる。
「親父殿! 兜首でや!」
返り血を顔に浴びて凄惨なる面体の利家が、笑顔を浮かべてやってくる。そして、儂の顔を見て固まった。
「おう、見事なる働きであったるなん。して、一つ聞きたいのであるがのん」
「お、おう。なんでや、親父殿」
「うむ、このいくさでのおのしの役目であるがや」
「……う、うむ。目付けにあらあず」
「であるな。儂はおのしに命じることを間違えたかと思うたでや」
「う、うむ。手柄は立ててきたが……ひぃっ!」
床几から立ち上がると利家の胸ぐらをつかみ上げそのまま押さえつける。
「後生でや! うぎゃああああああああああああああああああああああ!」
利家の悲鳴と共にすぱーーーーんと乾いた音が本陣に響き渡り、せめてもの情けと小姓たちは儂らの方から目をそらした。
「目付は手柄を報告するが役目であろうが。人の手柄を奪ってどうする!」
折檻を受けて痙攣する利家を叱責する。
「お、親父殿……セリフと行動が逆だで」
「どうせやるから同じでや!」
「殿! あちらを!」
説教が終わるころ合いを見計らっていたのかそれとも偶然かはわからぬが、使い番が本陣に駆け込んでくる。
その指し示す方を見やるとのろしが上がっていた。
「敵の後ろ巻きが参ったか」
先に城を落とし、迎え撃つことが理想であったが、戦場でそのように思い通りに事が運ぶことはあり得ない。
刻一刻と変わる情勢を見切り、少しでも正しく対応できた者がいくさ場で勝ちを拾うことができる。
あらかじめ決めてあった通りの合図を送る。城攻めはそのまま滝川衆が引き取り、木下衆が敵の援軍に当たる。
鈴鹿峠を下ってくる敵を迎え撃つため小一郎が構える備えに合流した。
木下衆の本陣にはいると、藤吉郎は床几に座ってどっしりと構えているように見えるが、握りしめられていた手は握りしめられて血の気が引いていた。
「これは権六様!」
藤吉郎が床几より立ち上がって挨拶してくる。その顔は普段と変わらぬ様子であった。
「うむ、見事なる大将ぶりだがや」
「いやあ、ひとに働かせて後ろから見ておるというのは慣れませぬで」
「気持ちはわかるでなん。儂も陣前で槍を振るう方がどれだけ楽かわからぬでや」
互いに苦笑いを交わす。
小姓が藤吉郎の隣に床几を用意してくれたので、そこに腰を降ろした。
旗印は日野の蒲生であった。彼の家は関と縁を結んでおり、真っ先に兵を出したものと思われる。
日野の兵力は三千余りで、周辺からの援兵も混じっているようであった。
「「かかれ!」」
先陣は前野長康と小一郎であった。
矢が飛び交い、互いの兵に突き立って倒れる。矢合わせが終わったのちは、槍衆が出てきて叩き合う。
日野の兵はいくさ慣れしており、先陣は何度も崩れかけるが驚異的な粘りを見せて盛り返す。
「ここで崩れては殿に会わす顔なし! 者ども、励め!」
烏合の衆であると評したが、歴戦の精兵にも劣らぬほどの粘りを見せる。
その戦いざまを見た藤吉郎は目を真っ赤に潤ませていた。
「けなげなる戦いぶりでや」
「まことにございまするなあ。儂の手持ちで褒美が足りるかいささか心配にござるでなん」
「何、殿より預かってきておる金子があらあず」
「なるほど、いやあ、いくさの前の景気づけにちと大口叩き過ぎましてのう」
そう言って笑う藤吉郎の目線の先で、木下衆の先陣が敵の攻撃をしのぎ切り、日野衆が退却していった。
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