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大阪湾攻防戦

 越後、佐渡を平定し、安土に帰還した。平三より書状を預かってきている。関東管領の地位を返上し、代わりに佐渡と越後守護に補任することを希望してきた。

 佐渡より取れる金を一度幕府に納めさせ、禄として越後に還流させる仕組みを喜六様が整え、上杉家を通じて国人に授与される。

 そして、徐々に土地と土豪を切り分けていき、春日山を中心とした城砦に番衆として入れる。そうすることで、土地の開発を効率よく進めることができる。その収穫をもってさらに力を付けることができれば、平三も安泰と言うものだ。


 安土の城はさらに城下が発展し、大いににぎわっていた。天守より街並みを見下ろすと、街路には提灯が灯され夜であっても多くの人が出歩いていることがわかる。彼らは近くの普請場で働く人足であったり、その周辺で食事や小物を売る商人であったりであろうか。

 人が動けば物が動き、銭が動く。動いた銭は仲間を呼び集めて増えていく。喜六様はそのように申されていた。


 平三からの書状を殿に渡すと、一読してすぐに破顔された。

「権六、ようやったでや」

「はっ! これも殿の御威光によるものでございますでなん」

「貴様の武辺は今や諸国に轟いておるではないか。柴田を差し向けると言わば震えあがって降伏してくる国人土豪は多いがや」

「されば、主上の覚えめでたき殿に逆らえぬと降ってくる者も多くおりますでなん。平三もその口にござれば」

「くくく、軍神とすら呼ばれた上杉輝虎と五分の友となるか。権六の手柄は珍しくないが、此度はまことに重き働きでや。何をもって報いればよいかのん」

「されば、越後への財の投入を北陸経由でしていただければ」

「うむ、それは無論そうするつもりだがや。越後に向けて人が動かば……」

「これまで陸路は勢力がいくつも跨っておりましたでなん。織田の手によって一統されなば、人の動きもより活発になりましょうず」

「貴様はようわかっておる」

「喜六様の薫陶を受けおりますれば」

「であるか。ひとまずの報奨として、昇官であるな。官職はそのままで従五位上に位を上げるよう手配しておる」

「ありがたきことにて」

「東はしばらくそれでよい。西のいくさに加わるがよからあず」

「ははっ!」


 石山本願寺の攻防は佳境に近づいていた。加賀、長島の勢力は壊滅し、比叡山も長きにわたって包囲を受けて勢力を減退させている。

 織田の分国内部にも大きな一向宗の寺はあるが、もともとが食えぬゆえに蜂起した者どもであるがゆえに、生活が保障されれば動くことはなかった。

 加賀で喧伝された、死んだ後の話や罰は当たらぬと言った話も、一向宗の求心力を低下させている。

 こちらに従う寺社には相応の待遇もしている。織田家の起こりは劔神社の神職であり、殿もそういった知識は一通り修められていた。

 故に、よくわからないが逆らうことは許さぬ、といった強硬な姿勢ではなく、由縁や歴史を鑑みて対応するといった方策を示されている。


「毛利は領内に一向宗の寺を多数抱えておってなん。そやつらに突き上げられておるのであろうがのん」

 石山の激は西に向いていた。西国にも一向門徒は多い。安芸はそんな中でかなり多くの門徒宗を抱えていた。

 毛利元就は彼らをうまく懐柔し一揆には至っていないが、門跡直々の激に末寺の士気は暴発し、臨時の税を取ってまで本山への支援をしていると聞く。


「ここでコメや銭を納めれば、極楽へ行きやすくなるぞ」

 あまりにひどい言い分である。必死に祈願念仏すれば極楽往生できるというのが教義ではなかったのか。

 それがいつの間にか、仏のために戦え、財貨を寺に納めなければ地獄に落ちるとは、まるで詐欺のようではないか。

 だが、純朴な百姓どもは、お坊様がそう言うならばと財貨を差し出し、ついには自らの命を投げ出していく。


 石山包囲に加わるのは、美濃、尾張、近江、大和、伊勢の兵であった。摂津、河内、和泉の要所に砦を構え、石山に向けた交通を遮断する。

 しかし、大阪湾を完全に封鎖はできておらず、毛利からの支援は海路を用いて行われていた。

 それを遮断するために、織田の水軍も出撃しているが、戦果は芳しいものではなかった。


「三島水軍は瀬戸内より大阪湾の潮の流れを知り抜いており、地の利はあ奴らにあり申す」

 九鬼嘉隆と佐治信方は口をそろえて不利を説いた。

「であるか。その上で勝つための方策を述べよ。すぐにとは言わぬ」

 弱気な発言をしても織田でとがめられることはない。むしろ無謀な出兵をとがめる風潮である。

 きっちりと準備を整えて、勝つための用意をしたうえで完勝する。小競り合いならばともかく、石山攻めでの負けは外聞的な意味で影響が大きかった。

 大敗でもしようものならば、今は抑えられている寺社や国人が蠢動するきっかけにもなりかねない。


「焙烙火矢を防ぐ手立てがあらば……」

「関船を焼かれれば一方的に押されることとなりまする」

「なるほどのん。我も考え置く故、ひと月のちにまた出仕せよ」


 古くは元寇のころに伝わったとされる焙烙玉は、火薬を仕込んだ瓶に導火線を付け、投げ込むものであった。

 船べりを越えて投げこまれば破裂した破片が兵を殺傷する。同じく油を仕込んだ瓶が投げ込まれてそこに引火すれば船が焼け落ちることもあった。

 燃えない船と言った難題に皆が頭を抱えていた時、喜六様が越後より帰国された。


「兄上、面白いものを見つけました」

 臭水と呼ばれる、おそらく油はどろりとした液体で、異様な臭気を放っていた。

 何らかの手を施し、その中で重いものを分離したものを焙烙に入れて投げ込む。その火は水をかけるとさらに飛び散って延焼する。

 さらに粘性があるので水をかけても流れずその場で燃え続ける。


「これはまたおそがいものを見つけたのん」

「越後土産です。ああ、それとこれは平三殿が勘案した鉄砲除けの盾ですが……」

「これじゃ!」

 鉄砲の弾は木盾を貫通することもあった。厚手の板も何度か弾がめり込めば割れる。

 竹束は銃弾をそらすが、思ってもいなかった方に弾けて味方に当たることもあった。

 今回喜六様が持ち込んだ盾は、盾の表に鉄板が貼り付けられている。試し打ちをしたのか、何か所かはへこんでいるが、貫通はしていない。


「佐治と九鬼を呼べ!」

新作です。

ダンジョンものファンタジー作品です

https://ncode.syosetu.com/n7702gw/

此方もよろしくお願いします。

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