そうして僕は、逃げ出した
一部「あーダメダメ!エッチすぎます」な表現があります。今後文章を変更する可能性があります
銀級冒険者になって、はや一ヶ月。
僕達を取り巻く環境は、驚くほどに変わった。
…悪い、意味で。
受けれる依頼も増えたし、手に入るお金も増えた。
今までは雲の上のような人達と、知り合いにもなれた。
キルヒルトさんとも、仲良くやれてる。
けど、カーラとユヅキとの距離が出来たと感じている。
いや、ちゃんと3人で依頼はこなしてるんだけどね。
でも、夜や休みの日は頻繁に外出するし、以前と比べて…その、甘い時間が皆無なんだ。
(ドキュンさん、サオヤックさんと一緒に居る所の目撃情報はある、けど)
彼らは恩師だし、交流があってもおかしく無い。
会うな、などと嫉妬にかられて言葉にすれば、また、冷たい目を向けられるかも知れない。
だけど、銀級仲間からの彼らの評判は、すこぶる悪いんだよなぁ…。
(…僕が、優柔不断な考えだから、かなぁ)
以前、2人のどちらと付き合うかと問われた時、結局僕は2人と付き合いたいと言ってしまった。
そして一緒に金級冒険者を目指そうとも、言ったんだけど…。
考えたら、男としてはダメな答えだと、今更ながら思う。
(…選ぶとしたら、カーラ、なんだよね)
ユヅキもそうだけど、最近の2人は何と言うんだろう…、色気がすごい。
おしゃれに気を使うようにもなったし、身だしなみもちゃんとしてる。
女性の成長って、ああいうものなのかな。
カーラは特に、その、胸が大きいし…、好み、だし。
(…よし、今日こそ決めよう、そしてカーラに伝えよう)
ユヅキの事を考えると胸が痛む。
今後も仲良くしたいけど、…難しいかなぁ。
▽ △ ▽ △ ▽ ▽
「ご、ごめん、今、なんて…」
「うん、いきなりで悪いけど、PTを抜けたいの」
「私もだ、明日にはココを引き払うつもりだ」
時間帯は丁度お昼時。
家に帰ってきた途端、2人に話があると切り出された。
考えていた事を伝えるのに都合が良いと考えてたら…まさかのPT解散話だった。
「ど、どうして!なんで、急に!そ、それに僕と付き合うって話は!?」
慌てる僕とは対照的に、カーラとユヅキは落ち着いている。
馬鹿にはしていない、けど、我侭な子供をあやすような目だ。
「銀級になったら世界が広がったの、そしたら気付いたのよ。グラッデン以上の男は一杯居る、って」
「私もだ。自分がいかに狭い世界で生きていたのか痛感した。長い間世話になったな」
本当に、心底爽やかに。
カーラとユヅキは互いに目を合わせ、微笑む。
…た、確かにさ、同じ銀級には、僕以上の人は、いっぱいいる。
自分自身情けない部分もあるのも自覚している。
けど、いきなり過ぎじゃないか…!
「僕達が重ねた時間は、無駄、だったのかな…?」
あんなに一緒に頑張ったのに、彼女達はそれを否定しようとしている。
僕が震える体を抑えやっと放りだした、言葉。
なのに、彼女たちの目には嘲笑が浮かんだ。
「グラッデン、人は皆、大人になっていくの。その過程で要らないモノは捨てる必要があるのよ」
「あぁ、そうだ。グラッデン、私達が歩んだ時間は無駄ではない、ただ、不要になったのだ」
「…そん、な」
「じゃ、私、ちょっと出てくるね」
「私は荷造りをするか。グラッデン、部屋に入ってくるなよ」
イラナイモノ。
フヨウ。
その言葉と共に、今までの彼女との思い出が、ぐるぐると頭の中を回る。
気付けば、僕は夕焼けの下、区画外れの公園で涙を流していた。
「およ、グラッデンじゃないの?どしたー?」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り向くと、ドキュンさんが心配そうに僕を見ている。
(2人に振られ、PTも解散なんて、言えるわけないじゃないか、言えるわけ…!)
「いえ、ちょっと悲しい事があって、御見苦しい所をお見せしました」
今のこのつらい気持ちを、聞いて貰いたかった。
浅ましい事に、欠片もない僕のプライドが、それを抑え込んだ。
涙を拭った目に、握り拳ほどの水晶玉が映りこむ。
コレは…映像水晶、かな?
この中に映像を録画して、見る事が出来る魔法具の一種だ。
「ほれ、コレやるよ」
「え、でも…」
「悲しい時は一発抜いて、頭空っぽにした方がいいぜー?うひひっ」
そうおちゃらけながら、ドキュンさんは水晶を僕に押し付け去って行った。
これってアレだよね、エッチな奴、だよね…。
(今はそんな事してる場合じゃ無い、けど…)
ドキュンさんの言う通り、一度気分を切り替えた方がいいのかも。
今のままじゃ、冴えた方法なんて思いつかないだろうしね。
僕はこっそりと家に帰り、自分の部屋へと滑り込む。
上から結構大きな音が聞こえるけど、ユヅキの武具コレクション重そうだからな。
(さて…)
僕はベッドへ座り、逸る気持ちを抑えつつ片手に持った映像水晶を起動する。
透明だった水晶の中に映像が浮かび、音を絞った声が聞こえ始めた。
『あんっ、もう、また撮ってるの?』
画面に、大きく柔らかそうな胸が映し出される。
普通であれば、興奮すべき場面だ。
だが、僕は聞こえてくる声に、只々心臓だけを早くした。
(カー、ラ…?)
『いいじゃんか、ほら、グラッデンを振る練習、やっちゃえよ』
『今はあんな奴どうでもいいじゃん、ねぇ、もう一回ぃ』
(ドキュン、さん…!)
映像には、一糸纏わぬ姿で抱き合うカーラとドキュンさんが映っていた。
彼女の、見た事がない女の部分、蕩けた顔、甘い声…、それが、全て映っている。
『ダメダメ!俺が言った事したら、続きやってやんよ』
『ぇー、仕方ないなぁ。ってか絶対誰にも見せないでよ』
『わかってるって、ホラ早く!』
『バレたら神殿から破門されるんだからね!…よ、っと』
映像の中のカーラが、ドキュンと繋がったまま、此方に顔を向けた。
『やっほーグラッデン、見てる?こんなわけだから、アンタと恋人なんて無理♪ドキュンは私だけを見てくれて、愛してくれ…ぁん!もう!』
喉が渇いてるのが解るが、映像から目が離せない。
『優柔不断なアンタなんて、いらなーい♪そゆわけだから、バイバーイ!』
『てなわけだグラッデン、わりーな!でもお前も馬鹿だよな!こんないい女に手を出さねーなんて…』
その時上から、一際大きい音が響いた。
…そうだ、ユヅキは!
嫌な予感がし、僕は階段を駆け上がり、ユヅキの部屋のドアノブに手をかけようとした。
同時にドアが少し開き、顔を赤らめたユズキが、顔を出す。
「んっ、く、来るなと、言っただろ、う!」
見た事も聞いた事も無い、ユヅキの怒声。
だが、嫌な予感は的中したみたいだ。
淫靡な音で判る、今、部屋の中には…サオヤックがいる!
ドキュンがあんな映像を残してる事から、サオヤックもロクでもない事をするはずだ。
ユヅキが傷つく前に、止めないと!
僕は死にそうになる心を抑えながら、ユヅキへ訴える。
「ごめん、でも、話を聞いて欲しいんだ」
「チッ!いいから、消えろ!ぁん!」
今、舌打ちをされた…?
い、いや、ここで引いちゃダメだ!
「ユヅキ、サオヤックを信じちゃダメだ!一緒に冒険者組合へ訴えよう!」
きっとあいつ等は、噂通りこうやって女性を食い物に…!
早く何とかしないと!
僕が手を伸ばすと、ユヅキは握り返してくれた。
良かった!ユヅキを救え「雑魚の分際で彼を悪く言うな!」
手を引かれ、僕の顔面にユヅキの鉄拳が入り、世界が暗転し始める。
最後に見えたのは、惚けたユヅキの顔と、嫌らしく顔を歪めるサオヤックだった。
▽ △ ▽ △ ▽ ▽
…ぁん。
…ひん!
「…っ!?」
ぼ、僕は!?
顔に残る鈍い痛みに顔を顰め、僕は体を起こす。
どうなった…?
ユヅキに鉄拳を食らって、そうして…。
「よーぅ、御目覚めか?」
聞きたくもない声が聞こえた。
だが体は反射的に動き、声の主を探し当てる。
(… … …あ、あははは)
ドキュンと、サオヤックが居た。
しかも、それぞれカーラ、ユヅキと繋がった、まま。
「ほら、カーラ!グラッデンにおはようって言わねーか!」
「どうでもいいじゃんこんな奴、もっとぉ!好き!好きよぉドキュン!」
「ったく情けねぇな、あんな攻撃で気絶するなんざ!なぁ、ユヅキ」
「本当に情けない屑だ!こんな奴に心揺れてた私は、修行が足りなかった、んぉ!」
僕達が過ごした空間で、獣の様に乱れる4つの影。
何とも言えない匂いが鼻の中に広がり、吐き気を催す。
「っと、流石にこれじゃあグラッデンが可哀そうだな」
「ん!…ぇ、ちょ、なんでやめるのよドキュン!
「サオヤックも!どういうつもりだ!」
雌2匹の言葉に、雄2匹は顔を歪めた。
「カーラ、選べ!オレと一緒になるか、グラッデンと寄りを戻すか」
「お前もだユヅキ、俺と共にあるか、グラッデンに寄り添うか」
…いくら僕でも、答えは解ってる。
こいつ等は、僕を…どうしてそこまで苦しめる…!
「ないない、あり得ないって!だからぁ早くぅ!ねぇ、もっとぉ!」
「奴の名前など今は聞きたくもない!私には、サオヤックしかいない!」
即答だった。
僕に、目も向けなかった。
僕に対して、もはや何の興味も、持って…!
「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
涙を流し。
涎も流し。
大声を上げながら。
僕は、逃げ出した。