そうして僕は、昇格した
[昇格研修 7日目(休日)]
「ごめん!友達とどうしても外せない用事があって!」
「私もすまない!研修でどうも昂ぶってな、我慢できずに組合の道場で剣を振っていた」
カーラとユヅキが帰ってきたのは、夕方になってからだった。
どうやら僕はサオヤックさんに吹き飛ばされた後、気を失ったようだ。
2人は、最初は僕がふて腐れているだけだと思って居たらしく、慌てて回復をしたみたいだけど…気付けは無理だったみたい。
だからと言って、ほったらかしにされたのは…正直落ち込む。
僕はドキュンさんがお見舞いにもって来てくれたリンゴを、齧った。
さっきまで指導員であるドキュンさんとサオヤックさんが、見舞いに来てくれていた。
頭を下げていたけど、今回は僕が弱かったので仕方ない…そう思わないと、余計に凹みそうだ。
まぁ、研修中は友人と接せないし、どの位強くなったか試してみたいって気持ちは解るから…強くはいえない。
何より、罪悪感からか、2人の僕への態度も元に戻った気がするし…、結果的に良いか。
僕の方は少し体が痛むが、明日からの研修には影響は無いだろう。
ベッドから起き上がり、夕食のために水を汲みに外へ出ようとする。
「…あれ、カーラ。首、虫に刺されてるよ」
「ぇ、…ぁ、あ!?そ、そうなの!痒くて痒くて!薬塗ってくるね!」
起き上がった時に見えた、カーラの首筋。
そこに、2つほど真っ赤な虫刺されがあった。
急いで部屋を出て行く位、痒かったんだろうな。
「ユヅキは随分頑張ったんだね、服、ちゃんとしなよ」
「む、そ、そうだな!慌ててたもので気付かなかった」
ユヅキに至っては、衣服がだらしなく着崩れていた。
まるで慌てて着た様な感じだが、それだけ剣を振るのに没頭してたんだろう。
皆、頑張ってる。
そして、僕は…力不足だ。
明日からの研修、死ぬ気で頑張らないとな。
△ ▽ △ ▽ △ ▽
[昇格研修 12日目]
今日も今日とて、冒険者組合本部から離れた図書館の一室で昇格研修だ。
銀級冒険者に求められる知識を頭に詰め込む作業は、本当に眠くなる。
外で活動してた方が、僕には合ってたなぁ。
「よし、んじゃカーラ、こんな時はどうすればいい?」
「えと、銀級冒険者のカードを提示し、銅級より立場が上だと周りに思わせます」
「正解!いやー、やるねぇ」
「えへへ、もっと褒めていいよ、ドキュン!」
「じゃあユヅキ、この危機を乗り越えるには何が最善か」
「はい、徹底抗戦…したい所だが、ここは逃げに徹するべき…どうだろうか、サオヤック」
「正解だ。冒険者は時には引くことも必要。くだらぬ意地で命を捨てるよりかはマシだ」
「ん、肝に銘じよう」
…この空間では、僕だけ仲間外れな気がしてならない。
僕にも質問は来るが、何故か難しくて答えられない事が多い。
その度に、カーラとユヅキから冷めた目を向けられるのだ。
家では普通に接してくれるんだけどね。
でも、最近外出が多いし、夜も遅いんだよな。
3人で居ようと提案するも、悉く断られて寂しい。
けど、大事な時期だからね、自主的に訓練・勉強している彼女ら邪魔しちゃダメ、か。
も、勿論僕も、ちゃんと訓練してるよ?
弓のウデは結構上がったと思ってる、うん。
(…ん?)
今の4人の会話に、何か…どこか引っかかりながら。
僕は、外から差し込む陽を、目を細め見つめた。
△ ▽ △ ▽ △ ▽
[昇格研修 14日目(最終日)]
僕達は、目の前に置かれた銀色のカードに目を光らせていた。
「やった・・・!」
「やったわね!」
「やったな!」
銀級冒険者を証明する、眩しいほどの輝き。
僕達は…、銀級冒険者になれたんだ!
「こんな場所で渡すのもアレだけどなー、頑張ったじゃねーかお前達!」
「試験もほぼ満点で文句なしの昇格だ、さぁ今日は俺達のおごりだ」
大通りから離れているが、ここはドキュンさん達の馴染みの店、らしい。
一見古びた感じだけど、今日は特別に貸切にしてくれたそうだ。
また、銀級冒険者カードも通常であれば組合本部で渡すのに、副組合長へ無理を言って、ここでのお披露目をしてくれた。
最初の印象は最悪だったけど、良い人達だよなぁ…。
でも、やっぱりカーラとユヅキは懐きすぎだとは思うけどさ。
「んじゃま、とりあえずまずは酒だな!」
ドキュンさんが、僕達の前にエールが注がれたジョッキを乱暴に置いた。
この琥珀色の液体はとても苦いが、大人の味、なんだそうだ。
まだ僕は大人じゃないが、銀級という門出に相応しい飲み物なんかもしれない、かな?
「では、3人の新米銀級冒険者へ、乾杯!」
サオヤックさんの言葉に、僕達はグラスをぶつけ合う。
そしてそのまま、緊張で渇いた口へと流し込んだ。
(うわ、苦いぃ!)
僕だけじゃなく、カーラとユヅキも、同じように顔を顰めている。
だよね、よかった僕だけじゃなかった!
と、そこで頭がクラリとした。
あれ?酔った…?
一口しか飲んでないのに?
僕、こんな酒に弱かったっけ…?
(いや、酔ったというより、眠い…)
この酒、まるで、僕が作、る、即効性眠り、薬のよう、だなぁ。
「…寝たか?」
「もう少し、かな?」
声が聞こ、えるけど、誰のか、わか…んな…い。
「こら、サオヤック、まだ早い、ん!」
「ふっ、にしては期待してたようだな、濡れてるぞ」
「ぁ、やだ、ドキュン!今日は痕残さないでね」
「へいへい、にしても彼氏の横でとか悪い女だよなー、お前達」
あー、また、エッチなこと、して、る。
あとで、おこられ、るぞ… … …。
「…だって、私だけを見てくれないもん」
「仕方ないだろ、弱いのだから」
…んー、…おや、すみ。