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そうして僕は、敗北した


[昇格研修 6日目]



あの後、僕と、カーラ・ユヅキの間には溝が生まれた。

言葉は交わすものの、何となくギクシャクしている。

なんとか時間を作り会話をしたいが…やんわりと拒絶されてるのか、避けられている。



そして、今日も僕は周りにモンスターの有無を調べる偵察役だ。

指導員の2人には、他の技能を教えて欲しいと頼んだ。

だが、こういう仕事は僕にしか出来ず尚更磨くべきと言われ、渋々だがこなしている。



(…ちゃんと、仕事はしてるんだよ、してるから…悔しいんだ)



カーラとユヅキは、確実に様々な事を学んでいる。

獲物のさばき方や毛皮のはぎ方は勿論、料理も上手になったし、野営地を作る作業も手際が良い。

ユヅキはサオヤックさんに剣術を習い、カーラはドキュンさんに薬草類の煎じ方を教わってもいる。

そう考えると、アレは2人のストレスなどを緩和させる「指導員としての腕」なのかな、と考え始めてしまった。



(僕も大人気なかったな…、まずは謝ろう)




既に上りきった太陽の熱を感じ、僕は今日のお昼の獲物を背負い、野営地へと向かう。

4人は相変わらず、和気あいあいだ。

指導員の2人は労ってくれるが、カーラとユヅキとはやはりギクシャクだ。



「さぁて、明日で7日目だけんど、明日は街に帰って休日にするわ。んでもって翌日から街で座学だな」


「野営の基本的な技術は、もう大丈夫そうだ。ならば、次は知識を手に入れる」



銀級になると、様々な利権が発生する。

銅級より受ける事が出来る仕事が増えるし、街の施設の割引なども受ける事ができる。

逆に言えば、責任が重くなるという事でもあるけど…そのあたりを学びたいな。



「ってか、お前さん達どうしたよ?なーんか雰囲気悪いんですけど?」


「喧嘩でも、したのか?」



やはり、わかってしまうか。

僕が口を開く前に、カーラが悲しそうな声を出した。



「グラッデンが、ドキュンさんとサオヤックさんの事を悪く言ったんです、それで喧嘩になって…」


「貴方達は良くしてくれているのに、奴は下らぬ嫉妬で貴方達の名誉を傷つけたのだ」



事実だが、僕の心臓はきつく締め付けられるように苦しくなった。

何故僕ではなくて、彼等の味方をするんだろう。



「あー、なる。すまねーなグラッデン。だけどコレ、俺達なりの気遣いなのよね」


「上からではなく、横から…つまり気軽に話せる仲になり、指導するようにしているのだ」


「そそっ。だもんだから、女食い物にしてる、みたいな噂流れてちまってるんだなコレが」



そう、だったのか。

ならば、嫉妬してたとは言え、言葉にしてしまった僕が悪い。



「…すみませんでした。カーラとユヅキも、ごめん」



僕は素直に、頭を下げた。

焚き火のパチリとはじける音が、やけに時間を長く感じさせる。



「かまわねーよ、ただまぁ俺達も悪かった。他人が恋人と仲良くするのは面白くねーよな」


「あぁ、こちらも無神経だった。グラッデン、すまない」


「あ、ちょ、っと!頭上げて下さい!僕が悪いんですから!」



驚いた事に、指導員の2人もこちらに頭を下げてきたのだ。

僕はあわてて、それを制した。



「悪いな、…だけどグラッデン、おめーも悪いんだぜ?待たせすぎたりはっきりしないと、女は不安になっちまうんだぞ」


「それに優しさだけではダメだ。経験上、女は自分より弱い男にはまず靡かない。…女を守れる位強くなれ」



(…解ってるよ)



そう言いたかったが、寸前で飲み込んだ。

ここでまた言葉にしたら、それこそ皆が敵になってしまうから。



「はぁ、ドキュンさん大人の男って感じでステキ…」


「サオヤック殿も、強い故に滲み出る説得力だな」



あぁ、言葉を飲み込んでよかった。

だけど胸に絡まるこの棘は、何と痛いことか。


彼らは僕より5歳以上年上だ。

年齢、いや、生きた年数と言うのは絶対に勝てない要素だ。

僕より長く生きていれば、女性の気持ちが解るほど経験もあるだろうし、強さも上まるに決まっている。

なのに、カーラとユヅキは、彼らを、褒め称える。



「グラッデン、とりま一度サオヤックと戦ってみろよ」


「え?か、勝てるわけ無いじゃないですか!」


「一度自分の強さがどのくらいかを認識してみ?それが経験になっからよ」



言いたい事は判るが、そもそもサオヤックさんとは体の大きさが全然違う。

それに僕の武器は弓矢で、一対一には向いていないのに。


僕が躊躇していると、ユヅキの大きなため息が聞こえた。


「お前は情けないな、グラッデン、このままでは何も得る事が出来ないぞ」



カチンと来た。

気配の消し方、索敵のコツ、弓のウデ…僕にだって得る物は多くあった。

ただそれを見てくれないのは、お前達じゃないか。



「やりますっ!宜しくお願いします、サオヤックさん!」


「あぁ、思い切り来い!」



立ち上がり、悔しさのあまりそう言い放ってしまった。

体では負けるが、機動性はこちら上だと、思う。

だったら、チクチク責めていけばいい…、一撃で吹き飛ばされるまでは、そう信じていた。




「一撃、か…本当に情けないな、グラッデン。しかしサオヤックさんは強いな、憧れるぞ」

「だったら個人的に指導してやろうか?」

「ぜ、是非!貴方の強さを見るたび、心が喜ぶのだ…ん、筋肉を触らせろ?よ、良いが…」




「うわー、グラッデン、恥ずかしい…」

「しかたねーよ、女心を理解しねー奴には丁度良い薬だわ」

「そ、そうですよね!っと、ドキュンさん、近い。…ぇ、嫌では…」



体が、痛い。

4人の言葉が、暗闇の中へ溶け込んでいく。

カーラ、早く、回復を…。

ユヅキも、気付けを…。




僕が目を覚ましたのは、翌日。

僕達が借りている、家だった。



そして、2人の姿は…何処にも無かった。



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[一言] ただの尻軽糞女なんやが
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