そうして今日も、陽は昇る
多くの感想や評価、有難う御座います
全てに目を通させて頂いてますが、返信が間に合わないのが現状です
本当に、この作品を読んで頂き有難う御座います
罪人達が磔にされてある、ガリウス王国王都ファザナドゥのウッディポコ広場。
すでに大通りも静かになった夜更けに、複数の影が蠢いていた。
「来てくれたか、さぁ、早く外してくれ」
ドレッドヘアーの男…ヤラーが、目の前の男を急かす。
「王国は平和ボケだな、見張りすらいねぇ…静かにしろ、っと、ほい、取れたぜ」
黒一色で闇に溶け込む巨漢の傭兵…ブット=バサレールがヤラーの鍵を外し、その体を支えた。
ブットの横に居た女性が、涙を流しながらヤラーに抱き着き、唇を重ねた。
「ヤラー…!チョー会いたかった!大丈夫?動けそ?」
「あぁ、こちとら金級冒険者だぜ?それに、毎日お前が薬くれたからな!」
「良かったぁ…!さ、逃げよ?ってブット!どうして他の奴も助けてんの?意味わかんない!」
周りからも、鍵が外される音が響く。
磔から解放された罪人はまともに立てる者は少なく、多くの者が這い蹲っている。
「助かったぁ!逃げる、逃げるぞぉ!」
「これで、グラッデンをごろぜる!いでぇ!が、我慢だ俺!」
「サオヤック、ちょ、肩貸してくれ、ふぅ、案外歩けるのな、ヤベェ」
騒ぎ出す連中に目を向け、ブットは唇を歪ませた。
「嬢ちゃん、こいつ等は陽動だ。その隙に嬢ちゃん達を逃がす」
「わ、わかった!行こ!ヤラー!」
「あぁ、まずは何処に逃げる?」
「学園の、私の部屋にぃ」
囚人達の声に気付き、小屋の扉が開いた。
粗末な恰好のカーラが飛び出し、大声を上げる。
「何してるの!貴方達!」
囚人と傭兵が、カーラへと殺気を向ける。
だがカーラは怯まず、前へと進んだ。
「やめなさいよ、逃げられはしないわ!ちゃんと罪を償おう、ね?」
「カーラ、おめーはいいよな!俺達は苦しんだ後は、どーせ死刑なんだよ!」
「ドキュン…!貴方、罪の意識は無いの?食い物にした娘達に…申し訳ないと」
「思わねーよ!いい子ちゃんになりやがって!アイツを裏切った女が正義ぶんなよ!」
「確かに私はグラッデンを裏切り苦しめた!でも、償う機会をくれた!だから、もう二度とあんな事はしないと決めたの!」
「チッ!あーうるせぇ!うぜぇ!まずはてめーから死ね!」
ドキュンは傭兵から渡された剣を、振り上げた。
その時、風切り音が鳴り、ドキュンのその腕を射抜いた。
「ぎょえええええええええええええええ!?」
ドキュンの悲鳴を合図に、広場内が光魔法で照らされる。
傭兵団と囚人を囲むように、特務隊と王国騎士団が雪崩れ込んできた。
「よく言った、カーラ!信じてたぞ」
「グ、グラッデン!?」
緑色の髪を靡かせ、グラッデンがカーラとドキュンの間に滑り込み…そのままドキュンの顔を殴りつける。
「ぶげっ!!!」
黄色くなった歯をまき散らし、ドキュンは地に伏し、痙攣し始めた。
「特務隊及び王国騎士団よ、戦闘を開始せよ!」
第六皇女ヴァリアリの凛とした声が響くと同時に、両陣営が衝突し始める。
だが囚人は長年の磔で衰えており、あっという間に捕縛されていく。
「へへへ、よりどりみどり、って奴ッスね、シーマ様」
「誰よそれ…、んー今日は照明役だから楽だなー」
厄介なのは傭兵団だ。
だが、フリューの光魔法の下、高所からのマクミランの狙撃で、腕や足を撃たれ悉く無力化されていく。
「カーラ、下がってるんだ!」
「… … …ぁ、う、うん!ありがとう、グラッデン!」
「グラッデェェン!ごろす!きさまだげわあああああああ!」
騒乱の中、目を血走らせたサオヤックが、ドキュンの持っていた剣を取りグラッデンを強襲した。
だが、グラッデンはそれを余裕で躱す。
「来いよサオヤック。正気なんか捨てて、かかってこい!」
「でめぇをごろじでやるぅ!」
サオヤックがその体躯のすべてを乗せた剣を、グラッデンへと振り下ろした。
勿論これも、余裕で躱される。
「サオヤックすまない、今日は主人公が居るんでな。前座のお前はここまでだ」
「何を、ぶぎゃあああああああああああああああ!?」
「ぐぎゃ!?」
グラッデンがサオヤックを蹴り上げると、数回バウンドした後に泡を吹き始めた。
その下には、運悪くクロマが這いずっており、サオヤックの巨体に潰された。
「主人公って、僕ですか?」
「あぁ、脇役の俺達は引っ込んでおく…やっちまえ」
「ははは、だったらニムバスさんは、主人公の師匠役ですか」
「主人公喰っちまうな、そうならないように引っ込んでおくよ」
グラッデン達が下がると、光魔法でゼフェルが照らされた。
敵で立っているのは3…ロギャル、ブット…そしてヤラーだ。
囚人や傭兵達の苦しむ声の中、特務隊と王国騎士団が、4人から離れる。
「ロギャル、投降してくれないか?」
「ゼフェル!?…あー、もう!なんでアンタいっつもいっつも邪魔すんのよ!やっちゃって、ブット!」
「そいつは雑魚だ!恐れる必要はねぇ!」
「おいおい、ガキが相手かよ。まぁ、いい、お前を半殺しにして、人質として使わせて貰うぜ」
ブットが腰に下げた双剣を左右の手で掴み、姿勢を低くして構え…殺気を放つ。
対してゼフェルは武器を持たぬまま両拳を固め、同じく構える。
「素手かよ!やっぱガキだな、おらぁ!」
ブットが素早く走りだし、左右の剣をゼフェルの腕へと伸ばした。
が、ゼフェルは難なくその凶刃を、素手で掴む。
「な、にぃ!?」
「コレが、皆さんに鍛えて貰った僕の力だ!魔法拳!」
力ある言葉と共に、ゼフェルの両手に炎が灯る。
掴んだ剣を溶かし、そのままブットの体に右手を撃ち込んだ。
「ぐぴゃらっ!!!!!」
黒装束が燃え上がり、火の玉の様に飛ばされるブット。
その巨体は壁にぶち当たると共に動かなくなり、上からフリューの水魔法が降り注いだ。
「…ヤラー、ロギャル」
ゼフェルの目に、殺意が揺れた。
炎を纏った腕からは火が消え、代わりに冷気が漏れはじめる。
「ちょ、まっ!ゼフェル!違うんだ、ロギャルとは、仕方なくだったんだ!」
「…はぁ!?ヤラー、アンタ一体何を」
「上からの指示だったんだ!教国の弱みを握りたい貴族からの、依頼だったんだ!」
「ヤ、ヤラー?ぇ、な、なにそれ」
「ロギャルは返す、な?だから助けてくれ!こんな面倒くさい女はいらねーんだ、な?」
「…嘘、だよね?ねぇ!」
冷気が、走った。
「ちょ、いやだ!死にたくねぇぇぇぇぇぇぇl!」
「きゃあああああああ!?」
ロギャルとヤラーの足元が凍り付き、2人の動きを封じ込める。
ゼフェルは短く息を吹き、そのまま振り返った。
「…いいのか?ゼフェル」
「いいんです、これで僕は前に進めます、それに…」
ゼフェルは魔法を解き、特務隊を見渡した。
その顔は、以前グラッデンが皆に見せた顔と、同じだった。
「嫌なんですよ、皆さんから鍛えられたこの手を、あんな奴らで汚すのは」
その言葉に、皆から笑い声が漏れ始めた。
あぁ、やっぱり居心地が良い…、ゼフェルもつられて、口角を上げる。
「よし、皆の者、状況終了!これから合同で祝宴を開く!…主役は妾の所のゼフェルだ!文句は無いな!」
「ありませーん!」
「ないです!」
「よっし飲むぞー!」
「帝国の酒、うまいんだよな!」
「よし、騎士団は事後処理して駆け足だ!」
あぁ、本当に…、この場所にずっといたい、な。
ゼフェルは涙を流しながら、明け行く空を、見上げていた。
次回最終話です