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そうして僕も、進みだした


僕は、地獄がある事を初めて知った。

愛する人に殴られ、罵倒され、今までの時間を否定され、…別の男に取られ。

世界はこうも真っ暗なのだなと、死のうとしていた。



だからこそ。

差し伸べられた手は、とても暖かかった。





〇 ● 〇 ● 〇 ●





「だず、げで…死なせてくれ」


「うぅ…、水を、下さいぃ、喉が」


「ごろす!グラッデン、ごろしぅあああああ!?いでぇ!」


「うる、せぇ…だまれ、サオヤック…」


「アンタも五月蠅いわよドキュン!さっさと死ね…あ、死んじゃまずいか」



今日も王都のウッディポコ広場では、絶望の声が響いている。

20を超える男女が磔にされているからだが、憐れむ必要はない。

こいつ等が犯した罪は、許されないものだからだ。



「ぁ、ゼフェル君こんにちわ、一人?」



磔にされた一人を罵倒していた女性が僕に気付き、手を振ってくる。

もはや聞きなれた声に、僕は笑顔を張り付けて、頷いた。


所々に傷があり、全体的に疲れた表情を見せる赤い髪の女性…カーラさんだ。


僕はニムバスさんと共に、彼女の取り調べを見ていた。

そして、ニムバスさんは彼女を許さず殺すものだと思っていた。

だが…ニムバスさんは、彼女を許した、いや、許したってのは違か。

償う機会を、与えたんだ。


カーラさんは、この広場に建てられた仮設の小屋で、寝泊まりしている。

今までは奴隷階級の人達がしていた、罪人の糞尿の始末。

また、食事の世話や、罪人が死なないように定期的に巡回している。

元クレリックと言う事で、罪人の傷も癒しているみたいだ。


彼女も、罪人だ。

その手には罪人の証である刻印が彫られ、罪人と同じく投石される側だ。

…それを承知で、罪滅ぼしとして、彼女はここで暮らしている。


余りにも軽い処理に僕は憤り、僕はカーラさんを罵倒しようとした。

だけど、夜、彼女は小屋の中で泣き、後悔を呻き、ごめんなさい、と誰かの名前を呼んでいた。

その中にニムバスさんの名前があるのを聞いた僕は、そのまま帰ったっけ。


あと、少なくともお給金は出るらしく、ニムバスさんに毎月お金を返しているのを見た。



「こんにちわカーラさん、傷、治さないんですか?」


「どうせ、夜まで増えるし。…ふふ、弱音はダメね。…何かあったの?」


「あ、えと…最近、見た事ない人が来ませんでしたか?」


「…来てるわね。冒険者の様に見えるけど、ちょっとあれは違うかも知れない」



カーラさんがこっそりと指さす方向を見ると、4人の男性が広場を見回している。

…成りは中級冒険者だけど…ふむ。



僕はニムバスさんの近況を尋ねるカーラさんに礼を述べ、広場を後にする…前に、罪人達を見た。

泣きわめく罪人の中で、やけに目をぎらつかせている…紺のドレッドヘアーの男。

名前は、ヤラー=レヤック。

僕の大切なモノを奪った…屑だ。




少しの間、乱れる呼吸を抑え込む。

あはは、やっぱり…忘れたくても、忘れられないかな。






次は、冒険者組合本部へと向かった。

最近食事処を併設したらしく、昼前故に凄く混雑している。


ふと、その喧騒の中に赤ちゃんの泣き声が混ざった。



「スケキヨ待ってくれ、今忙しくて…すまない、私は乳を出せないのだ」



見ると、受付に立つ黒い髪の女性…ユヅキさんが、両手に赤ちゃんを抱き、あやしていた。

赤ちゃんはご飯が欲しいのか、ユヅキさんのむ、むむ、胸に、抱き着いている。



「ほらユヅキちゃん、その子をよこしな、あんた達、見るんじゃないよ!」


「ばばぁの乳なんか見るかよ!」

「ちげぇねぇ!」

「あんた達、明日まで食堂出入り禁止だよ!」


食事処のおばさんが冒険者を一喝し、ユヅキさんから赤ちゃんを受け取った。

僕達に背を向けると…、赤ちゃんが静かになる。


あの赤ちゃんは、カーラさんの子供だ。

元々愛情が無かった上に、彼女を裏切った男の子供と言う事で、育てるどころか虐待してしまう恐れがあるとの事だった。

実に、勝手だとは思う。



「すまない、おばさん。いつもありがとう」


「構うもんか。でもね、ユヅキちゃん。私達は乳を与えることはできるけど、この子に愛情を与えるのはあんたなんだからね!」


「…っ、はい!」



で、その赤ちゃんをユヅキさんが育てだした。

全く血が繋がってないのに、なぜそういう事が出来るのか。

…正直、僕にはわからない。


…だけど、ユヅキさんの幸せそうな表情を見ると、大きな問題でもないのではと感じる。



「いらっしゃい、ゼフェル君」


「こんにちは、メルアス副組合長。こちらからお伺いしたのに」



副組合長との面会を希望し、待つ事数分。

メルアス副組合長が水色の髪を揺らし、わざわざ僕の下へ来てくれた。



「気にしないで。早速だけどコレ、グラッデン君に渡してね」



メルアス副組合長の書類を受け取ると、僕

は無造作に魔導袋へと収納した。



「…で、どうでした?」


「んー、そうね」





〇 ● 〇 ● 〇 ●




「傭兵であろう人物が、数日前より王都内へ侵入してるのは間違いない、との事でした」




僕は特務隊の方々の前で、昨日メルアス副組合長に頂いた資料を皆さんに渡した。

無表情、苦笑い、呆れ顔…皆さんの顔に、様々な表情が浮かぶ。




「まずはご苦労だったな、ゼフェル。大義であった」


「ランペルール傭兵団…、規模は30人程の何でも屋か。…リーダーは誰か知ってるか?」


「確か、ブット=バサレール、って双剣使いのはずッス。二刀流…武蔵みてぇ」


「誰よそれ。…でもよくこんな情報掴んだわね、ゼフェル君!」



ヴァリアリ隊長、ニムバスさん、マクミランさん、フリュー姉さんが、僕を労ってくれる。

あぁ、やっぱり温かいな、この場所は。



「…では、間違いないと言う事だな。そうだろう、ゼフェル?」



「はい、この傭兵団を使い、ジャイロダイン教国ガングロ家四女ロギャルが…、あの罪人共を救出する予定です」




僕忙しなく揺れる心臓をなんとか抑え込み、引き返せない言葉を口にした。



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