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そうして俺は、面影を見た

カーラに関しては所謂「ざまぁ」が足りないと思われる方が多いかも知れません

ですが罪を背負って起きていく厳しさを想像して頂ければ幸いです

「嘘よっ!」


「残念ながら、本当よ」



ガリウス王国王都ファザナドゥ。

騎士団施設に併設された憲兵隊詰め所より、女のヒステリックな声が響く。



「嘘つかないで!だ、だってドキュンは私の事、愛してくれてた!大事に」


「してたでしょうね、えぇ。…商品として」


赤い髪を病的に振り乱すカーラの向い、落ち着いた理知的な女性。

彼女は、憲兵隊隊長のフケイ女史だ。


その横では、彼女の右腕的な存在であるケジイカさんが、顎髭をいじりながらカーラを憐れそうに見ている。



俺は今、カーラの取り調べを見ている最中だ。

マクミランが「まじっくみらーごう」と称した魔導鏡の向こうで、彼女達の話を聞いている。

こちらからは見えるが、あちら側からはこちらが見えない。

つまり、カーラは俺がいる事を知らない。



「…ニムバスさん、あの女の人は知り合い、ですか?」




横に立つ少年…ゼフェルが、燈色の髪を揺らし、訪ねてきた。

16歳になった彼は、数ヵ月前に俺が保護した子だ。


当初は会話も無く、只々世界を恨むような眼をした。

…が、特務隊の空気に毒され、多少はマシになっている。

とは言え、どの様な酷い目にあったかは知らないんだがな。


本当に、何から何まで俺と同じだ。

であれば、気持ちの整理がついた時に、俺達に話してくれるだろうさ。



「昔の仲間だ。俺が原因でもあるが…俺を裏切った女だよ」



ゼフェルの銀の眼が、揺れた。



「…憎い、ですか?」


「最初はな。そういう相手が2人いたんだが、もう一人とは解りあえたよ」




正直、この場に来る前は、カーラの事は許せそうにも無かった。

だが、先程フケイさんに見せて貰ったモノで、それが揺らいでいる





鏡の向こう…カーラの前に、5つほどの映像水晶が置かれた。

ケジイカさんがそれらを起動し、映像が灯る。



「は、え?…私と、ドキュン?」



映像は、ドキュンが販売用に撮影した、カーラとの交わりだ。

俺も確認のために見せて貰ったが、色々と胸糞悪くなる代物だった。



『ちょっとぉまた撮ってるの?絶対誰にも見せないでよね!』


『えー、これ着るのぉ?ほんと、ドキュンはすけべなんだから』


『好き!好き好き!ん、愛してる!』


『お腹大きくなったでしょ?ドキュンが言うから仕方なく産むんだからね?』


『ん、んぐうううう!生まれ、いだぁぁぁぁい!ひ、ひ、ふ!』



映像を見るカーラの顔から、血の気が失せていく。

体が小刻みに震え、何かを発しようとする口も、歪みだす。



「『愛妻シリーズ:カーラ』…貴女との甘々な内容の映像よ」


「…ぅ、そよ!だって、誰にも見せないって!あ、これ、ただの押収品でしょ?ね?」


「イチャイチャするのが売りで値段も手ごろ。大量に販売されたシリーズらしいわ」



そう、ドキュン達は商業方面に才はあった。

ただ、女性との性交映像ではなく、特定女性を飼い続けて、それをシリーズとして録画し、販売していた。

カーラの映像は、ただただ甘々な性交を見るシリーズだ。

途中出産などはあるが、ああいうのを好きな層もいるらしい。


他にも「無知シリーズ」「姉妹シリーズ」「男の娘シリーズ」「ボーイッシュ修道女シリーズ」等があり、俺は理解が追い付いていない。


奴らと取引がある貴族の中には、それを市井へと広げた者もいる。

だからこそ、回収が進んでいない。


ちなみにユヅキのは…、いや、止めておこう。

アレは思い出すだけで胸が痛くなる。



「ぇ、販売…?…ぅ、そ…」



カーラの表情がコロコロと変わる。

否定したいのだろう、だが、否定できない存在が目の前にある。

自分が信じていた者に裏切られた事を、初めて知った…その気持ちは、俺にもわかる。



「…私のセックスや出産の映像を、皆、見てるって、事…?」


「えぇ…残酷な事だけど」


「ドキュンは私以外と、寝てた、の…?」



フケイ女史は、今度は無言で頷いた。



「そ、んな…、ぁ…、ぅ。じゃ、じゃあの人達の目は、私の…う。うえぇぇぇぇ!?」



カーラが突然、嘔吐した。

瞬間的にケジイカさんが、何処からか取り出した桶でソレを防ぐ。




「き、もちわるいぃ!や、やだぁ!うぇ、なんでよ、ドギュン、う、えぇぇぇぇ!」




ユヅキも今だに慣れないらしいが、彼女達の作品を知ってる人がそういう目を向けてくるらしい。

中には、性行為を求めてくる奴もいるそうだ。




虚ろな目で吐き続けるカーラを、俺達は黙って見つめる。

コレから、カーラがドキュン達の何を手伝ったのかを、聞かなければいけない。




「…グラッデンと、話がしたいわ」


「グラッデン?」


「特務隊にいる、緑色の髪の男よ」



鏡越しに、フケイさんがこちらを見た。

今回の件では全面的に裁量権を得ているが…やはり、向かい合わなくちゃいけないか。

俺は軽く息を吐き、部屋へと続く扉を開けた。



「…ねぇ、グラッデン。ドキュンは、コレが目的で、あの日から私を…?」


「だと、思うぞ。俺もあの日、アイツから映像を貰ったしな」



俺を見るや否や、カーラは言葉を投げてきた。

俺もそれに対し、すぐさま答え…フケイ女史の横へと座る。




「もう解ってるとは思うが、お前だけじゃない。多くの女性が、同じような被害にあっている」



俺は、被害者をユヅキしか知らない。

基本的に、フリューなどの女性メンバーが対応しているからだ。

事が事だけに、今回は例外だが、男の出る幕は殆ど無い。



「お前の役割は、ドキュンと新婚の様にイチャイチャ暮らす事。幸せで夢みたいだったろう?…で、夢から醒めたわけだが、どうだ?」



「…最悪、よ。今度は悪夢を見ているような、感じだわ」



「で、だ。追い打ちをかけてすまないが、お前達がやった事を聞きたい」



カーラの瞳が忙しなく動いたが、観念したように口が開きだした。



「まずは、身寄りのない娘達に仕事を与える慈善事業と、ドキュンに聞いたの」



話は思った通りだった。

メイドなどの仕事に就けると身寄りのない女性を口説き、取引のある貴族へ斡旋。

本当に、それだけだ。

ドキュンは裏で金を貰っていたのだろうが、カーラは善意で動いてた。

だからこそ、被害者達はカーラを信じたのかも…知れない。



「…覚えてるだけで5人。ねぇ、グラッデン。彼女達は…?」


「死んでたよ。…共同墓地に弔った」


「そう。…ギニー、ジス、ターバ、グルト、リクム…、ごめん、なさい」




…カーラと再会して、彼女の口から初めて謝罪言葉を聞いた。

村の連中を騙し、両親の遺品を売り、我が子を殺そうとした女だが…今の言葉だけは、胸に響いた。

すると、俺の中にあった諦観が霧が晴れたように無くなる。



「流石に罪悪感が沸くか。…赤ん坊には遠慮は無かったようだけどな」


「…スケキヨは生みたくなかったし、むしろ憎かったわ。ドキュンの愛が、あの子へ移ると思ったから」



彼女の中では、あの赤ん坊への愛は無い様だ。

愛する存在ではなく、愛を奪う存在。

この点に関しては、俺は残念に思う。



「…カーラ、お前は被害者だが、同時に加害者だ。いくら知らなかったとはいえ、罪にはなる」



フケイさんとケジイカさんが、同時に頷いた。

俺はカーラの前に、安物の短刀を置く。


カーラは、ドキュンから裏切られたし、自分の映像が出回っているし、被害者からは一味と見られるはずだ。


本来であれば、見捨てるはずだった。

だが、カーラには「振り向く」機会が無かっただけだ。

俺とユヅキはソレがあったから、今を生きていられる。

なら、彼女にソレが無いのは不平等だ。

俺は…、彼女に機会を、あげたい。



「選んでくれ。奴らと同じく磔になるか。それか…それを手に持てば、俺は正当防衛でお前を殺す…楽になれるぞ。そして、俺が彼女達から無理にもぎ取った案がある」


「ユヅキとは会ったの?アイツは…どうしたの?」



ユヅキの事を正直に伝えると、カーラの顔には、以前見た…負けず嫌いな表情が浮かんだ。



「そう、…ユヅキにできて、私にできないはず無い、じゃない。…その案を聞かせて」



俺の提案に、カーラは複雑そうな笑みを浮かべる。

が、声からは迷いがなくなっていた。



「それでお願い。…ねぇ、グラッデン。…ありがとう」


「っ、あぁ」


「売った遺品も、買い戻す。…村の人達の事、許してあげて欲しいの」


「遺品売ったのは許してねーからな?村の件は、むしろお前が迷惑かけて申し訳ないと思ってるぞ」


「ふふっ、ごめんね。でも、あの時は優柔不断な貴方が悪かったんだからね!その件に関しては謝らないわよ!」



カーラはやはり、変わっていない。

そう、今この瞬間に、俺の知らない彼女から、俺の知ってる彼女へと変わったんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶん殴っとけ
[気になる点] 特戦隊は犠牲となったのだ……
[一言] ええ…結局許すのかよ… 前までのやりとりは何だったんだ… まぁいいですけど。
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