そうして僕は、志した
サクッと軽く読んで頂ければ幸いです
「あら、グラッデン、人の事いえないけどまだ起きてたの?」
「ふっ、お前も緊張してるのだな。まぁ、私達もだが」
外はすっかり暗くなり、酔っ払い等の声も聞こえなくなった。
もうちょっとで、日付けが変わる頃だろう。
ランプをぼんやりを照らした居間で薬草茶を飲んでいると、慣れ親しんだ2人の女性が階段を下りてきた。
「明日、だもんね」
右隣に、赤く短い髪の女性…カーラ=ガーラが座る。
齢は僕と同じく、15歳。
一際大きい胸が寝間着越しに揺れ、心臓に悪い。
「あぁ、思えば長かったな」
左隣には、黒く長い髪の女性…ユヅキ=ミドウが座る。
齢は一個上の、16歳。
長身で、無駄のないスラリとした筋肉がランプの明かりを反射している。
「うん…、明日からの研修を終えたら、僕達は銀級冒険者になれる」
そして2人に挟まれ顔を紅潮させた僕は…グラッデン=ニムバス、冒険者だ。
この大陸では珍しい緑の髪は、両親から受け継いだ。
その両親は、既にこの世にはいない。
僕はこの大陸…ガリウス王国の辺境、カルノフ村で育った。
村とは言うけど、隣国との国境に近いせいか、物流は盛んだ。
そんな村で、僕は猟師を生業とする両親と、平和に暮らしていた。
だけど、ある日モンスターが大量発生し、村が襲われそうになった時があったんだ。
村に居た冒険者との協力で村は無事だったけど、多くの人が死んだ。
僕の両親も、だ。
大型のモンスターに襲われたらしく、死体は残っていなかった。
残ったのは、父さんの装飾品が綺麗なナイフと、母さんの余所行き用の瑪瑙の腕輪。
両親の仕事柄、いつかこういう日が来ると覚悟はしていたけど・…心が死にそうだった。
でもその時、村に居た冒険者が、こう言ったんだ。
「君の両親に命を救われた、ありがとう」
そしてすまない、と。
自身も右手を失ったのに、僕の両親を悼んでくれた。
その冒険者だけじゃなく、多くの冒険者が、僕の両親を称え…死を嘆いてくれた。
父さんと母さんは死んでしまったが…その代わりに、多くの命を助けたと、解った。
それから、かな。
僕が冒険者を志すようになったのは。
誰かの役に立ちたい、何かを救いたい…。
村の為に戦ってくれた彼らを見て、そして両親の事を考え、そう思ったんだ。
何より死んだ両親が「他人の事を考えられる男になれ」…そう、言っていたから、かな。
騎士と言う選択肢もあったけど、アレは平民の僕じゃあ無理だし。
かと言って、傭兵は汚れ仕事が多いと言う事で敬遠。
冒険者ならばハードルは低いし、何より頑張れば頑張るだけ評価される。
依頼を受けると言う事で、誰かの役にも立つしね。
そして僕は、両親の遺品で墓を建て、この街…王都ファザナドゥへと来たんだ。
待ちきれなくて、その日の内に冒険者組合の戸を叩いたっけ。
それが、2年前。
冒険者を甘く見ていたわけじゃないけど、最初は苦労の連続だった。
なにせ、街の雑用しか依頼を受ける事ができなかったからだ。
僕が持っていた冒険者のイメージは、外で採取とか、モンスターの討伐だったからなぁ。
まさか、ドブ攫いと言った清掃作業ばかりさせられるとは思ってなかった。
でも、それでも街に住む人達の役に立っている。
そう考えると、そんなに苦痛じゃなくなったな。
受付の人に聞いたら、これは一種の振るい落とし、らしい。
実際、嫌気が差した同期は半分以上辞めて行った記憶がある。
頑張った結果、冒険者になって一月、僕は冒険者見習いから銅級冒険者へと昇格した。
それからは僕は、討伐依頼を一杯受けた。
両親から叩き込まれた猟師の技術、そして、父が残してくれた弓。
僕はそれを使って、多くのモンスターを屠った。
だけど、1人じゃあ色々と限界を感じる事が増えてきてたんだ。
その事を組合に相談したら、PTメンバーを紹介された。
そのメンバーが、今両隣にいる彼女達だ。
カーラは神殿での洗礼を受けたクレリックで、神殿魔法…通称、回復魔法を得意としている。
僕と同じくPTを求めていたところで、巡り合えた。
彼女は僕と同じく孤児で境遇が似ている事から、お互い他人じゃない気がした。
まぁ、ちょっと嫉妬深いというか、独占欲が強い面があるけどね。
ユヅキは東の国から来た戦士で、どんなモンスターも斬り伏せるほど強い。
彼女も、僕と同じく一人行動の限界を感じていたようだ。
武芸に秀でた家の生まれで、武者修行と言う事で、王国に来ているようだ。
僕じゃあ全く歯が立たないけど、僕にそれ以上の強さを求めてきて…きつい、かな。
勿論、最初は色々と困難があった。
僕は男で、彼女達は、女だ。
けど、幸いと言っていいのか、まじめに依頼をこなしていた事が2人に評価され、PTを組む事になったんだよな。
そして運が良いのか、それぞれの役割がうまい事噛みあっていたんだ。
前衛は、ユヅキだ
火力としても申し分なく、僕であれば苦戦したモンスターを易々と両断する事が出来た。
もちろんその分危険が付きもので、女性の身でありながらよく怪我をしてしまう。
そこで、カーラだ。
カーラの神殿魔法により、ユヅキの体は癒される。
毒や麻痺と言った状態異常にも対応でき、彼女がいるから多少の無茶ができるようになった。
僕は猟師の技能を使い、偵察や索敵を行っている。
毒薬等の知識もあるので、それも役に立っている。
獲物の素材剥ぎ取りや料理など、その分野でも2人に貢献できていると思う。
3人で…苦楽を共にしてるなぁ、本当に。
お金にも余裕ができたから、ボロ屋ではあるけど2階建てのこの家を借りる事も出来た。
「1年半、か…。頑張ったよね」
僕の言葉に、2人がゆっくりと頷く。
1年半…、僕達が組合の仕事を一所懸命こなした結果だ。
普通、銅級から銀級に上がるには、3年以上かかるそうだ、
これも、僕達3人の努力の結果だろう。
明日から始まる、昇格研修。
コレは、銅級から銀級へ上がる際に必要不可欠なモノだ。
2週間の期間、先輩冒険者達から、冒険者の応用技術などをみっちりと叩きこまれる。
それを耐える事が出来れば、僕達は晴れて銀級冒険者だ。
(別に上を目指すつもりは無かった…、けど、嬉しいよなやっぱ)
僕としては、冒険者として人の役に立てば良いと思っている。
そしてある程度で区切りを付けて村へ帰り、両親が生まれ育った村の為に生きるつもりだ。
ふと、両方の太腿に、それぞれ違う熱を感じた。
両隣のカーラとユヅキが、頬を赤く染めて僕を見つめている。
「グラッデン…、銀級になれたら…あの事、ちゃんと考えてよね」
「今が大事な時だからとお前が言うから、我々は待っているのだからな」
「う、うん…」
2人の熱い吐息に、僕は背中に冷たい汗を流した。
(都会の女性って、情熱的だよなぁ)
カーラが言う「あの事」。
それは、カーラとユヅキ…どちらと付き合う、かだ。
僕は2人の事を、大事な仲間だと思っている。
だから、どちらかを選べだなんて…正直、無理だ
も、もちろん異性として意識した事は何度もあるし、お風呂を覗いた事も数回あるよ?
2人が僕の事を異性と認めてくれているのも、嬉しい。
ただ、選べるわけが無い。
「…逃げ道を作ると、私達2人と付き合う、って手もあるわよ?」
「それを選んだ場合は、お前には金級を目指して貰う事になるがな」
「う、うう…」
この国では、貴族や王族でない限り重婚は認められない。
けど、金級冒険者は例外でソレが認められるんだ。
金級ともなればお金が一杯手に入るし、優秀な血を失わない為に…って理由みたいだ。
良く解んないけどね。
コレが目的で金級冒険者を目指す人もいるみたいだけど…奥さんが2人って大変なんじゃないかな?
愛情を公平に分ける事ができるんだろうか…?
「ま、まぁ、とりあえずは銀級になってから、考えさせて下さい」
現段階で答えが出せない僕は、あいまいな笑みを浮かべ、2人に返した。
「…もう、優柔不断なんだから。ま、でもそうよね。銀級になるのが先よね」
「あぁ、カーラの言う通りだ。それにグラッデンにはもう少し強くなって貰わないとな」
「あら、別に今のままでいいじゃない。強さよりいかに愛してくれる方が大事だわ」
「何を言う、男は強さを持って家庭を守るべきだと思わないか?」
「…ウフフ」
「…ククク」
「2人とも、は、早く寝ようよ、ね?」
両隣から伝わる微熱と喧騒で、今日は眠れそうにないかもなぁ。
僕が決める事が出来ないのが原因なのは解ってるんだけど…あぁ、明日が心配だ。