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少女と猫とアパートの住人  作者: うましかお
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第1章 第7節 部室

「智ちゃ~ん、なんか変なメール来たぁ・・・。」


今にも泣きそうな顔で智也達のいる教室に駆け込んで来た詩織先生が、抱えていたノートパソコンを開くと、画面には大手通販サイトからの『アカウントの確認の為、指定のURLへ至急アクセスするように』という内容のメールが表示されていた。

アクセスしないとアカウントがロックされるらしい。


「授業で使う資料を作るついでに、メールチェックしてたら、なんか変なメールが混じってって・・・。

ねえ、智ちゃん、どうしたらいい?」


詩織先生から涙目で見詰められた智也は、一応画面を眺めていたが、すぐに助けて欲しそうな視線を上条に送ってきた。

見られた上条も、『まぁ、仕方ないか』といった感じで画面を覗き込んだ後、メールを確認するとさもおかしそうに笑みを浮かべた。


「典型的な詐欺メールだな。ほっといて大丈夫だ。

ちなみに、メールに書いてあったリンクにはアクセスとかしてないよな。」


上条の問いかけに『うん』と頷いた後、詩織先生は『本当に大丈夫なの?』とまだ心配そうに様子を見せている。

その様子に、いかにも仕方ないといった感じで、上条は説明を始めた。

「こいつは、詐欺メールの中でも、程度の低い部類だ。犯人は、パソコンの素人か、こっちを相当馬鹿にした奴だな。ツッコミ処満載だ。」


上条がまず指摘したのは、『宛先』のメールアドレス。


「宛先に複数のメールアドレスが設定してあるだろ。まともな企業なら、こんなふざけたマネはしない。」


メールアドレスは、いわば個人情報。顧客に対して他の顧客のメールアドレスをさらすような事は、コンプライアンス上あってはならない。

仮に同じ内容のメールを送るにしても、メーリングリストやBCCを活用するのが普通だろう。


「次は、差出人。日本語の名称は通販サイトの名称と合ってるけど、メールアドレスに使われてるドメインに見たことも無いようなドメインが使われてるだろ。通販サイトに使ってるドメインと同じドメインを使うならまだしも、こんなドメインを使い捨てるような使い方、普通の企業はしないわな。」


上条は説明をしながらメールをスクロールさせ、メール内の『確認用アカウント』と書かれたリンクの上にマウスカーソルを重ねると、メールソフトのステータスバーに表示されたURLを指さした。


「ほら、ここのURL。通販サイトと全然ちがうだろ。確かに通販サイトと同じ名前を含くめて誤魔化そうとはしてるけど、これじゃ、全然別の場所だ。もし、ここをクリックして指示通りに操作してたら、アカウントを乗っ取られてたろうな。

後は・・・、ここに連絡先の電話番号が載ってるだろ。智也、そっちのパソコンで、この電話番号をググってみろ。」


そう言って、智也に電話番号を検索させると、検索結果の一番上に表示されたサイトを画面に表示させた。


「電話番号検索なび?」


なんとも機能そのままの名前のサイトが表示された。

そして上条が指さした事業者名の欄には、『架空請求【注意】XXXX』と表示されていた。


「まぁ、必ず引っかかる訳じゃないけど、この手のメールは大量にばらまかれるからチェック出来る可能性は結構高いだろうな。」


『へぇ~、こんなサイトあるんだ』などと言いながら、智也や詩織先生が 『電話番号検索なび』のクチコミ情報を見ていると、詩織先生のノートパソコンからメールの着信を告げるチャイムが鳴った。

近くにいた上条が何かと思いノートパソコンを覗き込み、・・・ふきだした。


「詩織先生、このパソコン使ってポルノサイト観ました?」

「えっ、なに、観てないわよ!」

「いやぁ~、メールの書いてあるんですよ。ポルノサイトにアクセスした時に遠隔操作アプリをインストールしたって。」

「ウソ~!絶対ウソ、私、そんなサイト観てないもん。」


笑いながらメールの内容を読み上げる上条に、詩織先生が慌てて否定する。


「ハハハ、分かってますって。ほら、ここに『フロントカメラで撮影した』ってあるでしょ。このノートパソコンにはカメラなんて付いてないのに。つまり、犯人はスマホに感染させたっていってるわけ。それなのに、スマホで使ってるメールアドレスじゃなく、パソコンで使ってるメールアドレスに脅迫メールを送くってきた。これは、スマホとかパソコンとか関係なく、入手したメールアドレスに無差別に送ってる証拠。ただ・・・。」


メールソフトを操作して詳細を調べていた上条が苦い表情をする。


「この犯人、さっきのヤツよりは手ごわそうだな。ほら、宛先に詩織先生のメールアドレスが設定されてる。それになんか、某国のサーバーを使ってるっぽいんだよなぁ・・・。まぁ、どっちにしろ、メールアドレスは変更した方が良いと思うな。メールアドレスは名簿屋のリストに載っちゃったみたいだし。」

「え~。」

「複数ヶ所からこの手のメールが届くって事は、ほぼ間違いないな。」


詩織先生が「え~、面倒」と気落ちするのを尻目に、上条が帰ろうとして智也に肩を捕まれ止められた。


「博さん、ITパスポートの試験勉強がまだです。」



・・・それから1時間後。



ITパスポート試験を紹介しているIPA(情報処理推進機構)のホームページから過去問題をダウンロードし、試しにと解いていた智也が突然奇声を発した。


「なんなんすか、コレ。『営業利益と経常利益はいくらか』って、何処がITなんなんすか!」

「俺に言われてもなぁ・・・。」


実はこのITパスポート試験、ITのテクノロジ系の知識を問う問題の他に、ストラテジ系やマネジメント系と呼ばれる商業知識を問う問題も出題されている。早い話が、約2/3はITの技術知識以外を問う問題で占められている。


「なんすか、ストレージ系とか、マネジメント系とか、聞いてないっすよ。どこがITの試験なんすか、話が違うっすよ~。」

「ストラテジ系な、ストレージじゃ記憶装置だから。それと、文句があるなら問題作ったIPAの職員に言え。

あ~、ちなみに、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系、それぞれ約6割は正解しないと合格にならないらしいぞ。」

「え~、なんすかソレ。話が違うっすよ~。」


ITの技術知識だけでは合格出来ないらしい、・・・ITパスポート試験、意外と手強い・・・。



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