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少女と猫とアパートの住人  作者: うましかお
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第1章 第2節 高等部

「どういうことよ、お姉ちゃん!」

「学校では先生と呼びなさい。」


沙織が『妖ハン』に夢中になっている頃、彼女の姉たちは高校の一室で言い争いをしていた。


「今はそんなのどうでもいいでしょ!

廃部ってどういうことなのかって聞いてるのよ、お・姉・ちゃん!」

「先生と呼びなさいって言ってるでしょ!」


言い争いを続けている女子生徒と教師の間に男子生徒が割って入った。


「まあまあ、香織も詩織ネエも落ち着いて。」

「「うるさい!!」」


二人にステレオで叱られた男子生徒は首をすくめ、すごすごと元いたパソコンの前に戻っていった。

・・・なんともなさけない。

そう感じたのは二人も同じだった。


「もう、智ちゃん!なにのんびり座ってるのよ。智ちゃんからも言ってよ。パソコン部の一大事なのよ、部長でしょ!」


文句と共に女子生徒に睨まれた男子生徒が、降参とばかりに軽く両手を上げた。

 なんとくお分かりかとは思うが、先ほどまで教師に文句言いまくっていた女子生徒は、彼女の妹にして神代家の次女。

神代香織、高等部1年の16歳。

そして、文句を言われ続けていた女教師が、25歳の新米教師こと、神代家長女の神代詩織。

定年退職したおじいちゃん先生の代わりに、この春からパソコン部の顧問を引き受けていた。

そして今、詩織先生の代わりに、香織からやつあたり的な文句を言われていたのが、太田智也。

神代姉妹の幼馴染にしてパソコン部の部長、高等部2年の17歳。

智也の方が年上なのだが、どっちが先輩かわからない状態だ。


「もう、ほら、智ちゃん!」


香織にせかされるかたちで智也がおずおずと口を開く。


「あ~、詩織ネエ。それで、廃部って・・・。」

「せ・ん・せ・い。…もう、智ちゃんまで先生扱いしてくれない…。」


すねたように軽く頬を膨らませて詩織先生は下を向いた。

なんとも、ぐだぐだである。


「詩織ネ・・・先生?」


詩織先生はちょっとふてくされたような表情のままで、声を掛けてきた智也を上目遣いで軽くにらみつけた。

この25歳とは思えない子供っぽい態度の所為で、高等部の全生徒からは「しおりん」とか「詩織ちゃん」と陰で呼ばれている上、保護者的な生温かい眼差しで見守られているという事は、本人だけが知らない公然の秘密だったりする。

詩織先生はため息をひとつつくと、この騒動の元になった話を始めた。


「・・・。香織はこの学園の経営状態がおもわしくないって知ってるわよね。」


詩織先生の話を整理すると、こういう事だった。

事の起こりは、先週開催された理事会での『なんとがすねどダメだべした!(なんとかしないとダメだろう)』発言だったらしい。

初めのうちは粛々と進行していた理事会だが、議事次第が学園の経営状態に入ると、今まで黙って説明を聞いていた理事の一人が突然、くわっと眼を見開き『なんとがすねどダメだべした!』と叫んだのだという。

少子化の影響もあり入学希望者は減少の一途、このまま手をこまねいていてはジリ貧になるのは必死。

という事で経営改善の強化を求めてきたのだ。

口にこそ出してはいなかったものの、他の理事達も正直『ヤバイ』と心の中では思っていた事だけに、全会一致で対策を検討することとなった。

方向性としては、「学園のブランド化及び生徒の囲い込み強化」と「徹底的な無駄の排除」に重点を置いて検討する事になったらしいのだが、そう簡単に具体策がでるはずもなく、具体策は後日という事になったという。

そして本日、第1回「学園内の無駄を洗い出す仕分け会議」が開かれたというのだ。

それでその中のひとつに「実績のない部活は部費をカットし同好会に格下げすべき」という意見があり、幾つか挙がった部活の中にパソコン部もあったという。

詩織先生が引き継いだとはいえ、前の顧問が引退したのは良いタイミングだというのだ。

若い詩織先生には、運動部顧問をしてもらいたいというのも理由らしい。


そこまで説明を終えた詩織先生は、思い出したように智也を睨みつけた。


「智ちゃん、あなた、今回の中間試験で赤点あったでしょ。」

「えっ、なに突然、いまはそんなの関係ないじゃん。」

「関係あるわよ!パソコン部の顧問を引き受ける時に、ちゃんと勉強もがんばるっていうから、お姉ちゃんが顧問を引き受けてあげたのよ。『実績がない上、部長が赤点を取るようでは活動を認める訳にいきませんね』って教頭先生にいやみたっぷりで言われたんだから。」


教頭先生のモノマネ入りで説明(?)を終えると、詩織先生は怒りと悲しみと困惑が入り混じった表情で空いていた椅子に座った。


「・・・あ~、ごめん。」


智也は他にいえる事もなく、ばつが悪そうに黙り込んでしまった。


「それでお姉ちゃん、そこまで言われて黙って帰ってきたわけじゃないでしょうね。」

「当たり前じゃない。言ってやったわよ。『智ちゃんは、やれば出来る子なんです。今回はたまたま調子が悪かっただけで、その気になればすぐにトップクラスの成績だってとれます。実績だってすぐに作って見せます。』って」


鼻息も荒く、教頭先生に言ったセリフを再現してみせると、どや顔を二人に向けた。

頭を抱える智也の隣で香織が先を促す。


「それで、マイヤはなんて?」

「『そうですか、それでは…今度の期末試験で学年30位までに入れるようでしたら、即時廃部についてはもう一度考えてもいいでしょう。ただし、二学期終了時点でパソコン部として実績があがっていなければ、その時点でもう一度廃部を検討する事になりますが。』ですって。」


ちなみに「マイヤ」というのは、先ほどから話に出てきている教頭先生のあだ名だ。

昔のアニメに出ていた『ロッテンマイヤ』という口うるさいおばさんの名前からつけられたらしいが、そんな昔のアニメキャラが出典って…、どうやら教頭先生は昔から煙たがられていたようだ。


「30位以内だなんて、ホントばかにしてるわよね。」


30位という処にに引っ掛かったらしい香織の言葉に、智也も『赤点の奴にベスト30とか無いよな』と頷いている。


「それで、お姉ちゃんは何て答えてきたの?」

「『ベスト10に入れなければ廃部でかまいません』って言ってやったわよ。」

「さすがお姉ちゃん!」

「なんでだよ!!

いや、ちょっと待って、なんでハードルあがってるの、おかしいだろ、ねぇ、ねぇ」


智也が慌ててツッコミを入れるも、神代姉妹はテンションMAX状態で聞いていない。


「大丈夫よ、たかが期末試験のベスト10でしょ、私とお姉ちゃんで勉強みてあげるから。」

「いや、あの、ベスト10だよ。どっちかって言うとワースト10の方に近いんだから、俺の成績は・・・。」


いや実際、神代姉妹の感覚からしてみれば学年10位なんて超楽勝な条件なのだろう。

姉妹そろって学年1位以外はとったことがないというほどハイスペックなのだ、・・・勉強に関してだけは。

香織いわく、「試験なんて、教科書からしか出題されないんだよ。全部覚えれば良いだけじゃない。なんで良い成績が取れないのか理解できない。」なのだそうだ。


「智ちゃんの件はこれで解決でしょ、問題は『実績』かぁ・・・。」

「・・・そうなのよねぇ。運動部と違って大会があるわけじゃないしねぇ・・・。」

「ネトゲや格ゲーの大会じゃあマイヤが納得しないでしょ・・・?」

「むしろ、廃部の理由にされそう。」


そう言って詩織先生は智也のパソコンに映っているネトゲの画面を眺めてため息をついた。

『何も解決していない』との智也の訴えは、姉妹にスルーされた…。


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