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7.四葉精機へようこそ!

 

 風峰は、四葉精機へ出立するための準備に取り掛かっている。その姿は楽しみで仕方がないと、形容できるだろう。


 配下の男は、荷車の中に風峰のものと思われる荷物を積んでいく。また、今回加工をチャレンジする魔鉱石を、袋状のものへ詰め込み、併せて荷車へ押し込んでいる。


「さて、準備はこんなところでしょうかね」


 ものの三十分ほどで準備が完了し、主に荷物が載る荷車と一ノ瀬達と風峰たちが乗る馬車とで、二台に馬が割り当てられた。


 風峰は杖をぶんぶんと振りながら、上機嫌そうに馬車へ乗り込もうとする。


「さあ、乗ってください」


「あ、はい」


 一ノ瀬達は、風峰に応じ初体験の馬車へ乗り込んだ。慣れないものなのか、三人は少しそわそわした様子である。


「なんか落ち着かないですね」

「だって馬車だもんなぁ……」


 一ノ瀬と岩月の会話に聞き耳をたてていたのだろうか。風峰が二人の間に割り込む。


「ほう、貴方達の世界では馬車を使わないのですか?」


「いや、あのええっと……」


 三人は答に窮している様子である。馬力にモノをいわすどころか、蒸気機関の時代も終焉を迎え、更には内燃機関から電気エネルギーへの転換期だとは、どう説明すれば良いのか、なかなかに難しいだろう。


 内燃機関の説明でさえ、説明したところでその理屈がすぐさま理解されるかといえば、期待感は薄いと言わざるを得ない。


「とりあえず、私たちの家? なんと言えばいいか。とにかく着いたら色々と説明します」


 岩月は答えをはぐらかし、その場を収めたが、風峰は気になって仕方がないといった様子で、頬を膨らましている。


 そうしているうちに、出発準備が整ったようで、馬車が出発することとなった。


 四葉精機の場所については、大まかな位置関係を馭者に伝えたため、問題はないだろう。


 馬車が出発して二十分ほど経過し、馬車は先ほど通った繁盛する通りをゆっくりと通過し、街の入り口を抜けた。


 一ノ瀬が馬車の窓から顔を出して外を眺めている。

 その景色は、平野部の田畑や林などが地平線の彼方まで広がり、最奥には山々が望む。


 一ノ瀬は今井から取り上げた双眼鏡を覗き、四葉精機が建つ丘の方角に視野を集中させた。


「一応見えますね、僕らの会社のある森が」


 一見して、小高い丘に木々が繁っている様にしか見えず、外から見れば全く以て目立たない。


 また、その付近は道から少し外れているため、馬車では入れないだろう。


 ========================================


 二時間ほど馬車を走らせ、ようやく丘の麓付近に到着した。馬車の速度をだいたい6~7km/hだと見積もって、十三kmほどの道のりといったところだろうか。


 一行は馬車を下り、その丘を眺めた。


「本当にこんな所に住んでいるのか?」


 三人は苦笑いしながら頷いた。風峰の付き添いの者が、馬車から淡々と荷物を下ろしている。


 魔鉱石の比重がわからないが、見た目以上に重そうではある。

 荷物を下ろし終わったところで、風峰が帰りの手配を行う。


「では、五日後の朝にこの場所にまた迎えを」


「さて、荷物持って上がりますか……」


 岩月は発声と同時に一ノ瀬と今井に向けて、顎をくいっと動かした。その先には、魔鉱石が入っている袋と、風峰達の荷物が置かれている。


 一ノ瀬と今井は、渋々といった具合に荷物を担ぎ、一行もまた、そのまま緩やかな傾斜をゆっくり歩き始めた。


 それにしても、近くで見たところで、木々の中の四葉精機が見えないとは実に好都合なことだ。夜間に煌々と光を灯さない限りは、立地条件も相まってよほど露見しないだろう。


 そのまま進むと、行きすがらロープを固定した位置に到着した。だが、丘の上からはなにやら音が聞こえてくる。


 モーター音のような、この世界には聞こえようもないだろう音声ではある。一ノ瀬は確認のため、荷物をその場に置いて、ロープを登り始める。



 登り終え、一ノ瀬の目には不恰好ながらも人が通れるような道が出来ており、その奥に認むは四葉精機社員が草刈りを行っている様子であった。


 一ノ瀬は思わずにといった様子で駆け出していた。


「宮原さん、これは一体?」


「おお! 一ノ瀬じゃねえか。おかえり!」


 宮原なる者は、一ノ瀬を見ると、草刈り機を停止させてその場に置いた。


「いや、色々ありまして、現地人を連れて帰ってきました。色々話したいので中野係長に伝えてください。自分は下から皆を連れてきますので」


「おう、わかった。中野さんには言っとくから、皆を会社に戻らせるわな」


「あ、あと安全で信頼に足りそうな人なのでその点も伝えといてください」


 宮原は頷いて、草刈り機を手に取り会社の方へと消えていった。一ノ瀬は、すぐにロープの方に戻る。


 ロープの上から、下の面々に向けて、手を振りながら大声を出した。


「大丈夫です! 上がってきてください!」


 そうして、風峰から上がるようだが、その真下には落ちても問題がないよう、付き添いの者が目を光らせている。


 無事登りきったところで、一ノ瀬が風峰へ手を差し出した。風峰はか細い手で、その手をがしっと握りしめる。


「感謝します」


「いえいえお気になさらず」


 続いて、その他の人間が一人ずつ登ることとなる。

 この不便さを鑑みると、階段や梯子なりを設置すべきことは明白であるだろう。


 最後に岩月が登りきり、出来た道を見て、思わず感嘆しているようだ。


 一行はその道を往くが、まだ整備の途中だけあって、石など除去が出来てはいないが、歩くには支障はないだろう。


 しばらく歩くと、草木の境界の先、そこには先ほどの街にある建物とは異質の建造物が聳え立つ。


 風峰はその風景をじっと見つめ、ただただ立ち尽くす。何か言葉を発する訳でなく、ただ立ち尽くす。


「思っていた以上です……」


 会社の広い構内は全てアスファルトで舗装され、鉄製の構内速度制限の標識が至る所に立っている。建物は鉄筋コンクリート造りの事務棟に、その他工場や生技本館など目のやり場に困ることだろう。


 正門には、四葉精機のアルミ精の看板が掲げられており、大型トラックがすれ違いで余裕をもって通行出来るほどの、幅広いスペースが設けられている。



「ようこそ"四葉精機"へ」


 一ノ瀬が風峰に、柔らかく微笑みながらお辞儀をして迎え入れた。


 それを見た風峰は、満面の笑みを浮かべながら、内に秘めた好奇心が抑えられないといった表情で、早足に門を潜ったのであった。



この話で魔石の加工の話を書こうと思いましたが、文字数が思ったより多くなったので分割しました。

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