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6.邂逅 ②

 

 風峰によると、過去にも別世界からの来訪者がいた事実が判明したのであった。


 それは、四葉精機の社員達にとっては非常に重要な手掛かりにもなり得るだろうか。


「さて、貴方達のことを聞いたのだからこちらも色々と話さなければね」


「あの、魔導ってなんですか!?」


 一ノ瀬は風峰が喋り終わるのと同時に、疑問を投げ掛ける。


「"魔導"とは血によって因子が決定される。そのため各地には魔導師達の集落が存在する」


「魔導を使うには、魔導の素養がある者が、この魔石を触媒にして事象に干渉する。即ち私たちは生まれもった魔力を魔石に注ぐだけで良いのです」


 そう言った風峰は、自身が持つ杖の先端を指差した。そこには、綺麗な円を型どる赤い石が装着されていた。


「その魔石はどこで取れるのですか?」


「魔石自体に希少価値はない。そこいらの鉱山からぼろぼろ捕れる。難しいのは魔石が効力を発揮するよう、調整することに尽きる」


 そう言って、風峰は杖を右手に持ち、身体の前へ突きだした。


「顕現せし、我が焔!」


 そう言った瞬間である。杖の先には、鬼火のような炎が浮遊した。


「マジで魔法だ。かっけー! その詠唱も良いですね」


「ああ、言っていることがよくわからんが、言霊か。これは発動のための集中力を増すために、各々が好き勝手に言うだけで、本来は不要なのだ」


 一ノ瀬の称賛と疑問に対して、風峰は照れ臭そうに答えた。岩月も疑問があるようで、風峰に対して口を開いた。


「魔石の効力の安定とは、一体どのようなことなのですか?」


「円は力の循環を表す。まずは完全な円に近い形にせねばならない。まあ色々と例外はありますが……」


 どうやら、魔石自体はありふれた物だが、それを魔導として取り扱うためには、様々なことが必要であるようだ。


「また、基本的に火の魔石を作るには円を作ること、さらには一定時間の火入れが必要になる。それが非常に難儀するのです」


「なるほど。とりあえず魔導については、またの機会で色々とお聞かせ願いたいが、大事な話を…… 私たちはこれからどうすれば良いのでしょうか?」


 岩月は会話の流れを遮り、本題に入った。風峰はその言葉ににっこりと微笑んだ。


「心配するでない。貴方たちの面倒は魔導師長である私がみよう。私たちとしても事情があるしのう」


「事情…… ですか?」


「我々は三河の国の有事には、魔導師として出陣させられることになる。戦いは嫌なのですが、こればかりは理由があります」


 風峰はふうと、呼吸した後に詳細を語り始める。


 話を纏めると、この街の数km先に聳える城には、三河の国の統治者がいるそうだ。しかし、各国は魔導師の力を恐れ、謀反や逃亡を許すまいと、城内に人質を取ることが慣例とされている。

 その見返りに、ある程度の地位や研究の自由と、有事の際の出陣が義務付けられているそうだ。


 ここは現代日本ではなく、人権団体なども存在しないのだろう。


「と、まあそんな事情もあり、私たちはここに留まるしかないのだ。貴方達のことを上に知られると、少々厄介でもあるので」


 三人はその苦難を聞き、目には暗い様子を匂わせた。


「まあ詳細はこれからおいおい聞かせてください。魔導師長様」


「輪廻、で良いですよ?」


 風峰はそう言って、三人に微笑みかけた。



 場が弛緩しかけたその時、部屋のドアがノックされた。


「魔導師長。ごん太殿がいらしておりますが」


「待たせておけ」


 風峰は露骨に面倒そうな表情で、呼びにきた男をあしらった。


「しかし、どうしてもと言うもので……」


 風峰は頭をかきながら、男に対し発言する。


「じゃあここに連れてこい」



 しばらくすると、ドアが乱暴に開けられ、魔導師の男一人と、屈強な一人の男が入ってきた。


「どういうことだよ! 買い取ってくれねえってのはよお!」


 男は机に、先ほど見た魔石様の鉱石を、乱暴に置いた。その鉱石は円形に加工が施されているものの、少し(いびつ)で、隅はピン角でバリ残りも散見された。


 それを見た岩月と今井は、苦笑いをしてしまったようだ。


「こちらの要求を満たせぬ物を持って来られても困るのですが……」


「仕方ねえだろうが! 魔石の硬さは尋常じゃねえんだよ!」


 風峰の言葉に男はさらに激昂している。収拾がつきそうもない。


「あのう、僕達ならそれくらい作れますよ?」


 風峰とごん太なる男は、言葉の主である一ノ瀬を注視した。

 風峰にも、建造物ごとこちらに来たと言ったまでで、四葉精機が抱える設備のことは話していなかったのだ。


「本当ですか、一ノ瀬殿」


「ふんっ! こんな若造に何ができるってんだい」



 ごん太を無視しながら、一ノ瀬は風峰へ答える。


「できると思います。なんならその方とどっちが良いものを作れるか、試してみますか?」


 その言葉に、岩月は一ノ瀬を後方へ引っ張り、耳打ちをする。


「おいおい、大丈夫なのか? まだNC機はおろか汎用旋盤や測定器の起動確認すらしてないだろうが。しかも魔石の切削性なんて未知だぞ!」


「ま、まあ、なるようになるっしょ」


 岩月は呆れ顔で「これだから営業は」と、言いたそうだ。四葉精機の製造側の苦労が容易に想像できるというものだ。


 二人は元居た位置に戻り、一ノ瀬が再度、はっきりと口にした。


「できます!」


「ほう、おもしれえじゃねえか! 期限は五日後にここに持ってくることでどうだい?」


 風峰は、ごん太の言葉に頷いて、なんら異存はないといったところである。


「では五日後にお会いしましょう」


 一ノ瀬の言葉に、ごん太は魔石を持ってずかずかと部屋から退室していく。


「なおさら興味が湧きます。製作風景を見せてもらいたいのですが、よろしいか?」


 風峰の知的好奇心をくすぐったのだろうか。興味津々といった様子で、三人に迫りくる。


「ああ、構いませんよ。是非とも来て下さい! 驚かせてみせます」


「では早速だが、出立の準備だ。おいお前、一緒に付いてこい」


 風峰は同伴者を乱暴に選定したが、その男は驚きもせずただ一言「承知」と、頷くのみであった。おそらくは、そのような気まぐれにも慣れてしまったのだろう。


 そうして、四葉精機社内へ、異世界人かつ好奇心の獣を招くことになった一ノ瀬達一行。


 はたして未知の粗材である"魔石"を、切削することはできるのであろうか……



次回は、現代工作機械の精度は伊達じゃない!のような話です。


更新は1日~3日間隔です。宜しくお願いします。

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