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3.異世界?集落へ出張(出張手当ては出ません)

 

 時計は朝の六時であるが、皆がそれぞれ起きたあと、事務所でぼうっとしていた。


 中野は、会社外の探索するメンバーを考えているようで、紙に名前を書き連ねている。


 接触する相手が、温和な人種ならば良いが、事態が事態だけに何が起きるかは誰にも予想できないだろう。


 一ノ瀬と、生技開発(せいぎかいはつ)部、通称"生開部"の岩月(いわつき)、と製造部署の今井が、街の方へ探索に出ることとなったようだ。三人とも独身で何かあったとしても、被害は少ない三者だ。


「じゃあお前ら気をつけてな。無理はするなよ!」


「ういっす」


 中野の問いかけに一ノ瀬が応えた。


 三人は野球のバットケースにバットもしくは、ゴルフクラブを入れて、それを背負って出掛けていった。また、飲料水や食料も念のためにナップザックへ入れて携行する。


「よし! 俺たちは俺たちでやれることをやろう!」


 中野の掛け声に始まって、各々が社内での各作業を進めていくようだ。



 =====================================


「それにしても会社の入り口から下まで下りる道路すらないってヤバいっすね」


「これ下まで下りるのもしんどいな。これ近々道も整備しないとね」


 草木を掻き分けて進むこと五分、眼下にはやはり別世界が広がっていた。それを見た一ノ瀬は一言呟く。


「夢…… じゃなかったですね」



「――とりあえず下ろうか」


 岩月は、手馴れた様子で地面に杭を打ち込み、そこへロープをくくりつけ、ロープを下へ放り投げる。


 "四葉の山中毒"の異名は伊達ではない。岩月は登山が趣味であり、その手際の良さには、二人が感心しているようだ。


 岩月は、生開部の人間だけあって、学者然とした風貌だが、趣味は登山と、そのアンマッチさがシュールである。


 斜面は、一部が急勾配ではあるものの、それさえ下ることができれば、余程の運動音痴でない限り、徒歩でも問題はないだろう。


「あれ馬車じゃないですか?」


 双眼鏡をのぞく今井が、街道と思われる場所に、動点を認めた。


「貸せ!」


 岩月は双眼鏡を取り上げ、食い入るようにのぞき込んだ。


「馬車だね…… 紛うことなく」


 普段から物流トラックが走り回る、国道方面に馬車が走っていた。肝心の国道は無くなっているのではあるが……


「貸してください」


 次いで、一ノ瀬も双眼鏡を覗き込んだ。


「うわー。すげえな馬車ですよ馬車!」


 一ノ瀬は一人はしゃいでいる。


「あのなあ、状況考えてくれよなぁ」


 岩月はいかにもな呆れ顔で、一ノ瀬を見つめている。その反応は至って適切なものだろう。


「とりあえずあの街に行ってみましょうや!」


 一ノ瀬は先々と、ロープを用いて斜面を下り始めた。岩月は頭を掻いて「やれやれ」と、口から出そうな表情だ。


 岩月の傍を、今井が通り過ぎて一ノ瀬の後に続こうとする。


「おいおい! 一ノ瀬が斜面を降りてからにしろ! これだから素人は……」


 岩月を同行させた、中野の人選はどうやら間違っていなかったようだ。



 双眼鏡で覗いた先、およそ5kmといったところだろうか。

 それなり大きな集落の存在が、三者ともに認めるところであった。


 三人はそこへ向けて、歩みを進めることとした。


 ===========================================



「とりあえず、会社の正門から刈り取るぞ!」


 三人が街の方へ歩き出した頃、四葉精機社内では、四方八方に立ち塞がる草木に対処していた。


 外から丸見えでは、現地人に不用意に視認されるリスクが非常に高いため、会社の入り口から一本の道を作ることにしたのである。


「中野さん。ガソリンなんて貴重なモノここで使っちゃっていいんですか?」


 その呼び掛けに対して、中野は二つ返事で許可を出した。草刈り機で生い茂る草を刈り取っていく。


 また、"道"を作るため、大木を伐採しなければならないが、それは不可能であるため、大きい木を迂回し、小さい木をノコギリで切り倒すこととなる。


 必然的に、作られるのはくねくねとした道となる。


 中野の指示には、誰もが不満を漏らさず従っているようだ。皆それぞれの不安を押し殺しているのだろうか。極限状態と言って差し支えない現状では、皆の不安感が決壊せぬよう、注意を払うことが必要なことである。


 大層な道を作るでもなく、簡易的なものではあるため、一ノ瀬達が戻るまでには通れるようにはなるだろう。


 指示役ながら、率先して作業にあたる中野の汗が、雑草が刈り取られた地面をぽたぽたと濡らしていた。


 皆で作業をすることで、不安感を緩和させる狙いがあると考えられたが、妻子がいる中野のその姿を見れば、現状に対して文句を溢す者など一人も居なかったのであった。



次回、一ノ瀬達一行は、謎の集落へ接触を図ります。


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