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11.魔石を仕上げよう!

先日の台風により更新が滞っておりましたが、本日よりペースを戻します。

またお付き合いいただければと思います!

 

 男の一声に呼応し、草が舞う。目の前の草木は散り辺りに飛散する。


 魔導師の男が、かまいたちのような魔導を用いて、行く手を塞ぐ緑を蹴散らした。


 麓の川まで、水浴びをしに行くことになった一行ではあるが、十五人ほど交代でその場へ赴く。


 その魔導を見た者は、一様に驚愕した様子で改めて別世界に来たと確信したに違いない。


 その中でも、一ノ瀬と今井は平然としながら先行する風峰の後方を歩いている。


「輪廻さん、あれは?」


「ああ、あれは風の魔法です。持つ魔石によって使える魔導は様々です。私は火が得意ですが、魔石さえ有れば何でも使えます」


 風峰は少しばかり振り返り「えっへん!」と、言いたげに一ノ瀬を一瞥した。


「他にどんな魔導があるんですか? すごく気になるんですけど」


「未発見のモノもありますので一概には…… 三河の国では火・風・土を主として研究する魔導師が多いですね」


「なるほどなぁ」


 一ノ瀬は、興味津々といった様子で風峰に疑問を投げ掛け続け、風峰はそれを面倒がらずに丁寧に答えている。


 草木の切れ目に至り、そこからはそう傾斜がきつくもない、なだらかな斜面が広がる。会社の入り口側の斜面に比して、ロープ等を用いて下る必要もないだろう。


 また、眼下には幅十五m程の、綺麗な川というよりは、清流と形容すべきだろう川が流れている。数日の身体の垢を落とすには、うってつけといえる。


 川の付近は、緑が広がり人の気配すら感じない。その場所より下流の方では、おそらく生活用水として用いられていそうなものではある。


 一行は安全に斜面を下りながら、流れる川のせせらぎに胸を躍らせているようだ。


 川の前は、上流から運ばれ堆積した砂利によって程よいスペースが存在している。


「川だぁ!」

「うっひょーい!」


 若い者達は、風峰の目があることを意にも介せず服を脱ぎ捨て、川に飛び込んでいった。その場は穏やかな雰囲気に包まれ、まるでキャンプ場で川遊びをする大学生を見ているようだ。めいめいが綺麗な水を頭から被り、数日の汗を洗い流している。


「では私は少しばかり離れて水浴びをしてきますので」



 風峰は一ノ瀬にそう言って、少しばかり上流の方へ歩き始めた。それを見て、真っ先に川に飛び込んだ一番若い高卒入社の工員が一ノ瀬に寄ってきた。


「ちょっと見に行きましょうよ。一ノ瀬さんも気になるでしょ。ね?」


「お前覗いたら殺すからな」


 一ノ瀬は笑いながらも、冗談ではないといった含みを持たせてその工員を制止した。なによりも付き人の魔導師が黙ってはいないだろうということは、容易に想像できるものだ。


 若い工員二人は、一ノ瀬に従い口を尖らせて川に戻っていった。


「さて、俺もひとっ風呂浴びるか……」


 一ノ瀬も木々の隙間から射し込む光に目を細めつつ、ゆっくり川の方へ向かい歩きだした。



 ==========================================



 一組目が水浴びに興じている最中、会社では魔石の仕上げ加工を行っていた。


 単純な形状なので、加工の難度は非常に低いが、だからこそ良いモノを作ろうと残った者は時間を活用し、加工を進めている。


 旋盤加工によって、大まかな円筒形状は完成していた。本来ならばバリを除去して完成といったところだが、もう(ふた)工程を入れることになった。


 それは研磨工程である。この世界での研磨となれば、おそらくは砥石様のもので磨くと推測されるが、今回の魔石加工においては機械を使うようだ。


「とりあえず両端面(たんめん)コンマ15(いちご)ほど削りますか」


 研削加工者は魔石を機械にセットし固定した。

 丸い大きな砥石が回転しながら左右に動き始め、魔石に対して砥石が寄せられていく。


 砥石が魔石に接触すると微かな摩擦音とともに、小さく火花が散る。


 その加工を両側の平面に施して、表面の面粗度(めんそうど)を良くすると同時に、両側平面の平行度や平面度を確保することが目的である。


 男はマイクロメーターと呼ばれる測定具を用いて、魔石の全長を測定するが、その数値は魔石のどの部位を測定してもほぼ均一であった。


 研削は旋削と違い、0.001mmを議論する工法であるためそれは当然のことなのではあるが。


 そして、最後に魔石の外周を研削して仕上げることになる。


「これセンタないしどうしましょうか?」


「センタレスでいいんじゃないか。取り代もそんなにないし、さらっと削るくらいで」


「そっすね。ああ、厳しいお客さんじゃなくて、保証も適当でいいから楽ですね」


 加工者は笑いながら、魔石を機械にセットする。

 自動車部品の製作においては、一工程毎に測定を実施し、製品規格内であることを確認して、次工程へ進む自工程完結が基本的な考え方である。


 しかし、ここは異世界である。寸法が規格から0.001mm外れようが、それを咎める者はおそらくいない。いや、気付ける者はいないと言った方が正しいだろうか。


 また、研削の至上命題であるスクラッチ痕についても、気にする必要性がない。


 それを鑑みれば、加工者にとってある意味では、気楽な加工と言えるだろう。


 そうして、魔石の外径も研削しピカピカの魔石が完成した。鏡面仕上げとまではいかないものの、均一な円筒となった魔石の表面はライトの光を反射し、その滑らかさを物語っている。


「帰って来た風峰さんに見せたら驚くでしょうね」


「だろうな。まあ、とりあえず三次元測定だけやってデータだけ纏めとこうか」


 加工者はニコニコしながら頷き、軽やかな足どりで加工した魔石を測定室に運んでいった。


「ああ、俺もはやく風呂入りてえなぁ」


 研削盤の傍らに残る男の独り言は、心中からぼろっと漏れだしたようだった。




用語解説


①面粗度

その名の通り、面の粗さを表す。単位はRzやRaで表記される。RzはRaの四倍程度と覚えよう!例:Ra0.4のものをRzで表せば、1.6zとなります。


②マイクロメーター

長さを測定する測定具のこと。デジタルとアナログタイプがある。三点マイクロなどもありますが、それはもし登場したら別途解説します。


③円筒研削盤

対象物の外径を研削すること。本来は製品のセンタだったり芯押し部を支持して外径を研削しますが、今回センタレス研削を用いました。その名の通り、芯押し保持を必要としない工法です。長くなりますので、研削機構に興味の有る方は調べてみてください。


④自工程完結

工程毎に要求スペックを保証して、次の工程に流すという考え方のこと。


⑤スクラッチ痕

世の研磨屋さんを悩ませるスクラッチ君。砥石の目詰まりにより部品の研削部位に発生する筋キズのこと。機構上発生してしまいますが、だからといって、現実の厳しいお客様は許してくれません。


⑥三次元測定機

測定物に対して基準面を作成し、幾何公差や寸法公差などの様々な寸法を測定できる測定機のこと。物語の中のものは、家の一部屋を埋めるほど大きい測定機と思ってください。※小さい汎用型や移動型などもありますが。



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