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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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女の子が好きなら、私と付き合えば良いのに。

作者: しゃけ式
掲載日:2019/07/12

 じぃじぃと蝉の鳴く声が響く夕方の教室。空乃は自分の席で静かに待ち人の帰りを待っていた。

 蝉時雨の隙間からタタタと響く足音が耳朶に響く。噂をすれば。空乃は自身の長い黒髪を一度手櫛で梳いた。

 バン! 教室のドアが勢いよく開けられる。


「うぅっ! もう最悪!」

「お疲れ様」

「ちょっとアンタ! 何が由貴ちゃんはアタシのことが好きよ!」

「結果は?」

「振られたに決まってるでしょこのバカ!!」


 半泣きになりながら空乃の隣の席にどかっと座ったのはレミ。空乃とは腐れ縁の仲だ。


「アンタのせいでアタシは……アタシは……!」

「昔からレミは、女の子好きだもんね」

「そっ、そうよ! 悪い!? こんな変なやつと腐れ縁で嫌!?」

「ううん。ただ慰めてあげようと思って。ほら」


 そう言って空乃は両手を広げる。華奢な身体と胸の膨らみは紛れもない女性のもの。

 しかしレミは、そんな空乃から顔を背けた。


「いらない」

「……何で?」

「アンタに慰めてもらう程、アタシは弱くないもの」

「弱くても良いのに」

「うるさい」


 どうやら涙は引いたようで、レミの声は次第に高圧的になっていく。

 空乃はそんなレミを見て、小さく俯いた。

 頼ってもらえないから落ち込んでいるのではない。ただ。


「思い通りにいかない……」

「は? 何?」

「……何でもない」


 空乃の予定では振られたレミを慰め、抱きしめ、そして昔のようにずっと二人っきりでいる。


 そこに友情や愛情といった分類は、空乃にとっては重要ではない。ただ出来るだけ長い時間、レミと一緒にいたいだけだ。


「レミ」

「何よ。アタシもう帰るんだけど」

「一緒に帰ろ」

「嫌。今日は一人で帰りたいの」

「……一緒に帰りたい」

「……ずるいわよ。その言い方は」


 空乃のか細いお願いを、レミは言外に受け入れる。語調は強いが根は優しいのだ。


「ありがと」

「……良いわよ、別に」


 空乃は優しいレミのことが大好きだった。甘えたら甘やかしてくれる。好きと言ったら照れてくれる。抱きしめたら控えめに抱きしめ返してくれる。

 蝉の声しか聞こえない教室。しかしお互いの無言は、それでも心地良かった。


「……レミ。レミのファーストキスの相手、知ってる?」

「急にどうしたのよ」

「良いから」

「……はぁ。アタシは昔から女の子が好きなのよ? 誰かと付き合えたことだってないし、そんなのまだに決まって──んんっ!?」


 空乃は自分の席から身を乗り出し、レミに口付けをする。ふわりと広がる柔らかさ。これがキスなんだと、空乃は自分でも意外なほど冷静な思考が頭を巡った。


「──ちょ、ちょっと空乃! アンタ、何考えて……!」

「レミのファーストキスは、これで私になった?」

「そっ、それはそうだけど! そうじゃなくて!」


 首を傾げながら問いかける空乃。レミは真っ赤な顔で後ずさった。


「私はレミのこと、好きだよ」

「ち、違う! アンタのそれは恋愛感情とは別だから!」

「……どっちでも良い」


 空乃にとって重要なのはレミと一緒にいられるか。空乃がレミを、レミが空乃を友達と思おうが恋人と思おうが、そこに本質はない。


「レミ。愛してるよ」


 多分レミは女の子からのこういう言葉に飢えている。空乃はただひたすら冷静に、レミの求める言葉を選んだのだった。

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