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保健室の死神

作者: もふっとな

入学式当日。桜既にほぼ散っていて更に雨が降っていた。

気温が下がり、ブレザーだけでは寒い…と、一緒の高校を受験した佐藤祐佳と二人で抱き締め合う。

入学式も終わり、雨が弱まった頃、校庭の先に人影が見え目を凝らす。

保健室から校庭に繋がる出入り口でタバコを吹かしているのは白衣を来た美形さん。

黒髪で鋭い目付き。……いや、あれはもしや白衣を着た死神か?

死神が見えるのなんて遂に私は……いやいや、死なないぞ。まだ死なない。最近嵌まった推理ドラマの犯人が分かる前に死んでたまるか。


「あれは人間人間……」

「何が?」

「え?ほら、あそこにいる………?」


祐佳の問い掛けに保健室前に指を指した所で、誰もいないことに気が付き、ひっ!と声を洩らす。

きっと保健室に帰ったのだ。そう信じて私達は1年生の教室へと入っていった。



***


委員会なんてものは適当に決めたいとも言えず、委員会一覧の紙をじーっと眺める。

保健室があるのなら保健委員と言うのもあり、中学でもしてたからそこに…と思ったが、人間(仮)がいるのなら行きたくない。

私はいつも平穏無事に生きていくのです。

うむ。何て言い心がけだろう。


「朱莉は保健委員で良いの?」

「え?私に人間(仮)に会って死ねと?」

「死ぬ……?は良く分かんないけど、中学でしてた人が良いって保健の先生が言ってたみたいだよ」


なんだその保健の先生とやら。自分が教えるの嫌いだから中学である程度知っている奴に任せるのか。何て合理的なんだ……じゃなくて、ここは一発。


「いや、私はちょっと……ほら、死神みたいなのいるし」


瞬間ヒヤリとした空気が流れたのはきっと気のせいだ。

頭をポンと叩いてきた相手が白衣を着ていそうなのも気のせいだ。


「……君は、真中朱莉さんだね?」

「ひっ!」


低い声でフルネームで呼ばれ恐怖で思わず立ち上がる。

椅子が倒れ後ろの席の机にゴツン!と当たった。ごめんよ後ろの人。


「保健委員宜しく」


ニコリと微笑むその人はタバコを吸っていた美形さん。

死神じゃなかった?と思ったけれど、必殺の微笑みがズドンと胸に突き刺さってきたのだから、美形さんはまごうことなき死神だ。


「無理……」


こんな美形さんが近くにいたら、心臓が逃げ出すに決まっている。

無理無理無理……と美形さんから離れようとしたけれど、ガシリと腕を掴まれてしまった。


「真中さんは面白いな。ねぇ、保険委員してくれる?」

「……はい」


妖しい微笑みが脳にもクリーンヒットだ。近くにいたら心臓溶ける。いや、もうドロドロに溶けた。せめて人でありたいのに。

逃げたいと思っていたけれど、あれよあれよという間に、こうして私は保険委員として選ばれてしまったのであった。


***


保健室前で佇むのは先日保健委員になった私……そう真中朱莉だ。

何だかんだでそれなりに業務をこなしているけど、それは先生がいない時に限る。

美形さんの名前は本藤悠斗。普通だ。普通の名前だ。でも私にとっては死神だ。

保健室の前で深呼吸を五回。よし…と右手を構えるまでに20秒。更にノックするまでに20秒。

いや、行きたい。もう遅刻ギリギリだから行きたいけど、扉の向こうに死神がいると思うと扉を開ける手が……ね?

いっそハンドパワーで開けば凄いのに……って、開いたー!!!


「……真中?」

「ハッ!ハンドパワーじゃなかった……っ!」


扉を開け私を見下ろすのは死神……じゃなく、本藤先生。死神って言うとノリで妖しい微笑みをされるから、実際は本当に死神なんだと思う。それか死神になりた……なんだその中二病。流石本藤先生。

と言うか本藤先生は初日こそ優しかったものの、今の通り呼び捨てだし、タバコ嫌いな私の前でタバコ吸うし、撫でるとき優しいし……おっと、心臓が太鼓叩き始めた止めてくれ。


「お前…見てて飽きねぇな。おい、早く入れ」


美形さんは口が悪い。爽やかな顔をしている時は丁寧語なのに、能面になれば口がタバコ臭……口が悪い。


「今度健康診断あるだろ?」

「はい」

「あれの補佐お前な」

「はい?」

「要点はこれに纏めてある」


本藤先生は仕事が出来る部類の人間だと思うが、要点を纏めた資料までいつの間にか用意しているとか、仕事出来すぎやしませんか?格好良……おっと、タバコの匂いでマイナスマイナス。


「後、これ」

「なんですか?」


ぽいっと投げられたのは数本残っているタバコ。これを私に渡すとは……まさか不良の仲間入りをしてこいと?

怪訝な表情で見てたのが分かったのか、本藤先生は機嫌良さそうに笑っている。


「捨てといて」

「へ?」


噂でヘビースモーカーだと言われている本藤先生が?そもそも何故生徒に捨てさせるのか。


「自分で捨てないんですか?」

「お前に捨てて欲しいの。これは決意だから」

「なんの…」


イスから立ち上がり私に近付いてくるその人はやっぱり死神だ。


「だってお前、タバコの匂い嫌いだろ?お前に好かれる為に、お前に捨ててもらうの。分かる?」


妖しい微笑みをするその人に耐えきれず、ひやぁぁぁ!と情けない悲鳴を上げて、保健室の扉にぴたっと張り付く。

もういっそ扉と同化させて……いや、人間でいたいから今だけ回転扉になってくれ。


「……くくっ」


そんな思いを知らぬ本藤先生は…肩を震わせ笑っている。こっちは必死なのに一体何なんだと思ったけれど、からかわれていたと気が付き頬を赤く染める。


「ほ、本藤先生……」

「はは、お前本当に面白いな」


もう!と怒る私に笑って近づいた本藤先生は、私の頭をポンポンと二度叩いた。


「からかって悪い。その資料他の奴等にも渡しておけよ」

「皆呼べば良かったじゃないですか……」


そしたらこんな心労もなかったのに。そう思いつつ本藤先生を見たのが失敗だった。

優しく微笑んだ本藤先生は、そうだな…とだけ呟き、私を保健室から追い出した。


「やっぱり死神……」


あんな微笑みを向けられたら心臓が痛くなるに決まっている。

保健室の死神は今日も私の命を狙っていたようだ。




















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[良い点] 死神の点。 [気になる点] タバコの匂い。 [一言] 微笑んだ先生は、
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