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回復依存の邪神様   作者: 災難な鳶
邪之章
98/112

男の正体

バイクでアンユのいる場所へと向かう途中、ルデンは少し問題を抱えていた。

減速し続けるバイク。そしてエンジン音が停車と同時にピタリと途絶えた。動かなくなったのである。


「燃料切れか困ったな」


仕方なくバイクを押していくことにした。強制的なフラッシュバックによりルデンに備わっている魔力残量は底を尽きている。体力的にも厳しい状況であった。

そんなルデンを抱えるスライム。


「ん?運んでくれるのか?」

「アンユ…治せる…私…走る…」


スライムはパシャパシャと足音を鳴らしながら森を駆ける。下り坂はスキーのように滑り丘を飛び越えアクロバティックな動きで加速していく。老体のルデンに響いていたがスライムは気にしない。


僅か数分でアンユが見える位置まで近づいていた。加速から減速へと切り替えるスライム。

スライディングしながら焚き火にストライクした。


「【な、なんだ?】あれ?ルデンとスライムちゃん?」

「わーい朝ごはん」


だが予想以上にスライムは滑った。


「あ…ごめんルデン…」

「…………」


力尽きそうなルデンに謝罪しながらスライムは湖に落ちていった。慌てて駆けつけるアンユとゲジに引き上げられて一命を取り留めたルデン。

スライムはと言うと湖に落下直後にルデンをなるべく巻き込まないように上に投げていた。スライムのみ湖の底へと沈んだのだ。摩擦なく水中も滑ってしまい深海に達していた。


ルデンに治療を施すアンユ。

体力と魔力を同時に全回復してしまうアンユの回復魔法は相変わらずであった。


「お、アンユ…なんだよな?」

「【一応】一応、この身体ですけど私だよ【俺は違うが】リュートさんも私なんでしょ?【そうなんだが】」

「うわ…ややこしくなってんな…」

「あれ?もしかしてルデン様?」

「ん?誰だ?会ったことあったか?」


ゲジがルデンを知っている様子だった。勿論、生まれ変わったゲジのことなどルデンが知るはずもない。それよりもアンユの様子に釘付けとなる。


「ルデン様と知り合いのお兄さん…なるほど勇者様だったのか!だから凄く強いんだね」

「【勇者じゃない】聖職者ですよ、今は違いますけど」

「マテラとは違うが一応昔の冒険仲間だな。で脚がいっぱい生えてるから人間じゃないみたいだな?誰なんだ?」

「ゲジです」

「【俺が拾った】ゲジちゃんはさっき会った魔物が生まれ変わったの」

「あーうん…」


何処から質問したらいいのか?

そんな問いを自分に続けて考えるのを止めたルデンだった。少し遅れて湖からスライムが飛び出てくる。空中で一回転しながらアンユの前に現れる。


「着地…」

「【スライム?】スライムちゃんお帰りなさい」

「ただいま…」


そのあとルデンを中心に話が進みアンユとリュートは邪神と黒い天使のことを聞かされる。アンユとリュートも別世界での話をしていき情報を整理した。


「ルシ姉?本名かそれ?」

「【俺も知らないな】ククラさんが呼んでたので」

「ウエキサトル?って男が今のアンユの身体のやつと知り合いで…」

「リュート…イデア…」

「【龍斗だ。なんでスライムがその呼び名で…】」

「リュートはアンユ…そう言ったな?」

「【龍斗だ。伸ばすな】別に良いじゃないですか?私なんですよね?」


リュートをじっと見つめるスライム。眺めるとも言う。その表情は笑顔でうっとりしていた。

リュートは気にしていなかった。スライムの意思を聞いたことのあるルデンは観察している。そんなルデンに問い続けるのはゲジ。


「魚雷飛びの元祖ですよね?他にも伝説とかありますか?武勇伝聞かせてくださいルデン様」

「後にしてくれ…黒歴史を掘り出すな…」

「魔王討伐はどんな感じでしたか?魔王ラマンって強いんですよね?」

「だから後にしてくれ…」

「世界が大きく変わったのもあの頃ですよね?詳しく」

「後にしてくれって…」


それでもゲジは問い続けて会話を妨害。リュートは話が進まないので煙草を吸う。その煙草の煙を消し去るアンユ。リュートをずっと見つめて動かないスライム。

進まない四人、いや五人の注目を集める存在が突然現れた。空間が部分的に歪み黒い霧と共に出現する。縦に割れたそれは門。一同は先ほど話していた邪神が来たのではないかとアンユとルデンは構え、スライムとゲジは少し離れる。

警戒されながら門から現れたのは邪神ではなかった…


「【誰だ?】」

「……………。」


人間の女性らしき人物。その女性はリュートの質問に答えないまま周囲を見渡す。そして出た答えは自身の名ではなかった。


「さて邪神ゆうじんとやら…貴様がククラの言う勝利の女神か?」

「【ククラ……あんたも悟の嫁か?】」

「悟?そうでもあるが違うな、彼の名はゼノム」

「悟さん名前変えたんですよ【そっか】」

「女神…にしては随分と品のない男にしか見えないが?本当に女神なのか?」

「【それはククラの勝手だろ…】あのー悟さん…じゃなくてゼノムさんは何処にいますかね?私達ここが何処なのか分からなくて」

「なるほど…女神はソチラだったか」


謎の女性から膨大な魔力が解き放たれる。そのプレッシャーはアンユ達に向けられていた。四人が怯む。


「天の座に君臨せしゼノム・ルマ=アウゴを出し抜いた邪神ラマン・アンユよ…それが嘘か真か試させてもらうぞ?」

「【マジかよ…】邪神って…」

「我が名はオウガ・ミラクゥヘ=アウゴ……ゼノムが何度も死闘を繰り返したとされる邪神、それは何度も世界を滅ぼしたとされる。今この異界においても同様に繰り返される滅び…魂を抜き取られたゼノムは今や並みの人間とも言える弱体化を強いられ!この異界と共に消されるかもしれない!」

「【落ち着けって…】」


言葉一つ一つに彼女の怒りが込められプレッシャーは大きくなる一方。


「消えなかったとしてもどうなる?魂はこの異界に封じ込められているのは事実。ルシュフェルも失敗したそうではないか…ククラがいながらも…何故だ?何故ゼノムほどの男を容易く…何度もだ!根本から消し去るのが妥当ではないのか?」

「【今、気づいたけど幼いなお前…】」


そんな彼女の怒りも門の奥から更に現れたククラによって静められた。


「おっと…すまねぇアンユ。これはオークゥの本心じゃないんだ…」

「ククラさん…【どうなってんだ?】」

「ちょっとこの娘の場合、接点が多いから耐性無くてね…今さっきの怒りの感情は主に邪神あっちのものだ。転移の座標をズラしたのも訳がある」


何が起きてるのか理解に遅れたルデンがあのフラッシュバックについて語り始めた。


「怒り…邪神はアンユを探していたな」


後の説明は不要と感じたククラはオークゥを連れて元の世界へと還っていった。


ルデンの情報を元にようやく話が進んだ。

先ほどの女性が何に耐性が無く邪神の怒りを代弁したのかは置いておき、二人は邪神と会うべきではないと考えた。


「でもゼノムさんの魂をどうやって【とりあえず邪神ぶっ飛ばせばいいのでは?】」

「だが出会えば間違いなくアンユに何かしそうなんだよなアイツ…」

「【俺にじゃね?】」

「困ったな…」

「【あの…俺の身体だよね?あの…】」

「ふむ…とりあえずアンユの身体を用意するか?」

「できるのルデン?【わお、ファンタジー】」


ルデンは邪神と遺骨が融合した時のことを語る。同じアンユだからこそ【重なった】のなら今のリュートの身体もアンユの元々の身体である遺骨と重なるのではないか?

そう意見が出た。あまりにも話がブッ飛んでるのでリュートは困惑する。


「私の遺骨って残ってるものなの?【おい、さらっと身体までアンユと重ねる提案なの?】リュートさんは私ですよね?変な意味じゃないですよね?」

「あれ?いや待てよ…」


ルデンはあることに気づく。


「まさかだよな…」


リュートから【あの人物】と何か同じものを感じ取ってきたからだ。


「だとしたら何で同じ身体に…」

「ルデンどうしたの?【一人で考えても答え出るのか?】」

「なあリュート」

「【ん?】」

「戦う時に色々な武器があるとする」

「【はい?】ルデン?」

「君なら何で戦う?」

「【どんなのがあるんだ?】」

「何でもだ」

「【何か魔剣みたいなのあったらカッコいいかな】」


その答えを聞いたルデンは確信に入った。リュートが【あの人物】そのものなんだと…


「【それ聞いて何に?出せるの?】」


ルデンは答えなかった。まだ自分達が負けていないと分かればそれでよかった。


「流石アンユだな…回復馬鹿め」

「へ?【アンユの冒険仲間はこんなのばっかりなのか?】たぶん…」

「さて私は魔力もたっぷり回復したから遺骨の場所探してくるか」


ルデンは世界の目で全てを見透す…


開眼ワールドアイ

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