リリスを喰らいし勇者アース=サキア
「さて、この辺でよかろう…」
「そうね」
爆発により跡形もなく消し飛んだ研究所の前にたどり着くと長老は身長ほどある長い杖を投げ捨てた。
「この格好と声、しんどいんだよね」
「あれから26000年もその姿だったの?」
「ちょっと前に天使と悪魔の姿になったくらいで大半はこれだよ」
「そうなの、ここを拠点にしたのもやっぱり待っていたのね」
「あはは…それもバレちゃってドッカン」
「あの方も相変わらずね…」
がらがら声だった長老の声は透き通る女性の声に変化していた。
その足下から魔方陣が現れ長老を真の姿にしていく。
それは鎧を身に纏う女性の姿だった。
女性は背伸びをする。
「ぬわ~!26000年ぶりだぁ!」
「そんな年月が経ってるとは思えないほど変わってないね」
「これもリリスの肉を食べさせられた影響かな?」
「そのようね、こうして私も生き返ってるから」
「時間掛かったね~まあ【本来の力】じゃないから仕方ない」
「……………」
【本来の力】それを聞いたジレスは表情が固くなった。
ジレスの反応に少し戸惑う女性。
「あぁ!?ごめん、気にしてたんだね…」
「いいえ、過ぎたことよ」
「まあ、おかげでマキアは元気にやってるぜ!」
「えぇ、いつか必ずあの力を使う時が来る…」
「ジレスの予言通り、使いこなせてないって聞くね」
「当たり前よ、私もそうだもの…」
ジレスは背中の魔剣を手に持ち、剣を見つめて黙ってしまった。
「……………。」
「………………っ!」
その時だった。それは的確にジレスを狙っていた。
ジレスは瞬発力で即座に魔剣を振り受け流す。
ジレスの背後へと流れ、地面に着弾したそれは爆破した。
ジレスは銃を構えた。
「そっちから来るなんて珍しいわね…」
「フゥウウウウウ!あっぶないなぁ~!誰かと思えばマテラじゃないか」
「黙れクソババア…」
「おいおい、自分が何度も若返るからってクソババアは酷いだろ?」
「だが家系図では祖母になるだろ、クソババアと呼んで悪いか?」
「可愛くないな~そこは感動の再会でサキア様って呼びなさいな」
「うるさい…」
攻撃を仕掛けてきたのはマテラだった。怒りに身を任せて踏み込み炎の剣を構える。
「お前などいなければ…!」
「させない!」
突っ込むマテラに向けてジレスが銃弾を撃ち込む。
燃えたぎる業火が鉄を溶かし蒸発させる音…
ジレスの魔弾は炎の剣で難なく弾かれてしまう。
「相変わらず剣術は才能ないなー」
「ぐほぉっ!?」
マテラの突撃を容易く避けつつサキアは顔に蹴りを入れた。
吹き飛んだマテラに向かって、ゆっくり歩みニタニタ笑う。
「クソババア…!」
「フゥウウウウウ!怖い怖い、そこまでして欲しいものかね?」
睨み付けるマテラに笑顔でサキアは質問をする。
マテラには、ただの挑発にしか見えなかった。
「返してもらうぞ、勇者の力……」
「才能が無いのを奪われたと勘違い?皮肉だな~」
「黙れ!」
再び突撃するマテラの攻撃を今度は無抵抗で受けた。
炎の剣はサキアの心臓を貫く。
だがサキアは、まるで痛みを感じていないかのように喋る。
「覚醒状態って知ってるか?秘めたる本来の力を引き出した状態のことだ。マテラ、君の覚醒状態というのは勇者の力ではないんだよ…」
「あがっ?!」
そう言うとマテラの腹部に蹴りを入れて吹き飛ばす。
マテラは受け身を取り、炎の剣をもう一本生成する。
「俺は勇者ではないと言うのか!?」
「そうは言ってないだろ、あくまでも本来の力だ。」
二刀流となったマテラは再度突撃する。
だが、そこでジレスが割って受け止める。
「ちぃっ!」
一本を魔剣で、もう一本を素手で止めた。
ジレスの手は少しずつ焼き焦がされてしまう。
「もう止めるんだマテラ、邪神に天照の力も奪われた今の君がこれ以上暴れると本当に死んでしまう!」
「まだだ!まだ不死鳥の力が残っている!俺はやれる。本当の悪を裁かなくちゃいけないんだよ!」
サキアは呆れた様子で、腕を組んでいた。
ぶつかり合ったままの二人の足下に何かが転がる。
それを見た二人の手は止まった。
「目玉……」
「この魔力、まさか……!?」
やっと気づいたか、と言いたそうなサキアは構える。
目玉の転がってきた方向に一人の女が杖を持ってこちらを見ていたのだ。
「楽しそうですね皆さん、気になってついつい戻ってきちゃいましたよ」
「アンタは確かルデンの…」
「はい♪マテラ様、私はルデン様の研究チーム所属ルベラです。よろしくお願いしますね!」
そう言うと彼女は目玉だらけの不気味な杖から目玉を一つ取り、宙に投げた。
宙に舞う目玉は黒い閃光を放ち弾けて、何かを呼び覚ます。
「目覚めなさい我に従い破壊せよ、歴史を黒く塗りつぶすのです」
開かれた門からルベラは、幻魔を召喚した。
「バハムートを召喚した!?」
「この村にもサモナーの素質を持つ人間がいたんだね~」
「あれがさっき言ってた覚醒状態かしら?」
「ピンポーン♪いや丁度いい例が目の前に来て良かったなマテラ~」
「そんなこと言ってる場合か!?バハムートがいるんだぞ!」
荒れ狂う天候と放たれる灼熱の息吹きの中で
一番動揺しているマテラが一番まともとも言える状況だった。




