絶望と使命
それは、最初に見た空
それは、最初に見た砂
それは、最初に見た海
だけど最初に見た人物は、そこにいない
静かな波の音のみ響くだけの無人島
自分の状況を直ぐに理解したスライムは後ろに倒れる。そのまま空をじっと見つめていた。ここで泣いても無意味だと、次の行動を考えなければならないと…
「あの人、恐ろしい…」
脳裏に浮かんだ美女に会えた。会えば全て分かると思っていた。だが何も見えないまま会話も上手く出来ないでいた。邪魔とも言われた。でもドリンクは美味しく一瞬だけだったが何も考えなくていい時間が生まれた。あのネクロマンサーの女が気絶してしまったから私は戻された。あの時の心の声…
(儀式…邪神…天照…死…)
恐ろしい単語ばかり出てきた。あのネクロマンサーも強かった。あの騎士王も勇者も皆強かった。でも一番恐ろしい人だった。直接見えなかったけどネクロマンサーの女が色々知ってた。
「邪神ラマン・アンユ…それが名前…」
途中で見えるようになった光輝く女の人にもなった。それはアンユって名前だった。嘘なんて何も無かった。その裏に違う人がいた。ラマンって名前だった。影にもいた。ドゥバレン=レイって名前だった。不思議だった。三人とも、あの人を知らなかった。
「同じ身体なのに…」
三人は互いに知っているのに、あの人だけ仲間外れなのかな?本当に判らない人だ。
「わからない…恐ろしい…」
スライムは立ち上がり海に飛び込む、海の中を滑るように進んだ。その表情は笑顔だった。
「だから欲しい…!」
より一層スライムの心を高ぶらせ突き動かすのは、やはり好奇心だった。
「…………………」
好調な再スタートだったがスライムは急停止した。何かを思い出して心に突っかかる…
それはルデンの記憶から出てきたもの…
(最高神を消した)
「うっ…!?」
酷い頭痛がスライムを襲う。こんな感覚は初めてだった。そもそも自分に痛覚があることに驚いてしまう。落ち着いて整理しようとした。
(確かアンユの宗教も)
「あぁっ…痛い!」
今度は胸を貫かれるような痛み、海の中でスライムは溺れているかのような苦しみ方をする。痛みに耐えようと叫び身体をぐにゃぐにゃ色々な体勢を試して痛みを和らげようとするが逃れられない。
(アイツらの名も)
「うあああああああああぁっ!!」
感情が整理できないスライムは、何度も何度も繰り返し自分に問い詰める。自分の首を絞めるかのように問い詰める。
(消さなくてもよかったんじゃ)
「違…う…違う…違う違う違う違う違う違う…」
そして記憶の先から星型の装甲から無数の触手の生えた謎の存在が出てくる。今までの痛みが急に消え去った。目の前に映し出された現実にスライムは、震えながら受けとめる。
「これが…私…」
(最高神)
「ジ・アース…」
全てを思い出したスライムは、あの邪神に全てを奪われた事実を知る。そして自分が邪神を呼び起こした張本人であることも知った。あの時、アンユを傷つけなければ…
「ごめんなさい…」
自分を思い出したとしても、自分らしさを取り返した訳でもない。今の自分に何が出来るのか探すまでだった。奪われたのは、あの三人も同じなんだと…
「もう既に一人は殺られてしまった…」
勇者としてのアース=マテラは、もう死んでいる。あれは、邪神に呪われたマテラという男でしかない。ルデンも直ぐに判ってしまい、気絶からの転移魔法を発動してしまった。
「直ぐに気づけなかった…私も緩んでいた…」
緩んでいた。間違いなく騙されかけたのだ。たぶん隣にいた騎士王のマキアは、まだ気づいてないはずだ。
でも、どうして簡単に騙されそうになったのか?そういった疑問がスライムに出てくる。そこでスライムはルデンが直ぐに気づけた根拠を考え始める。
「………………」
直ぐに出てきた。ルデンだけ缶を受け取っても飲まなかった。そこしか出てこないのだ。スライムは缶の液体が何だったのか成分を解析しようと体内を調べる…
「やっぱり…」
何も判らないという結果、これこそ邪神ラマン・アンユが何か仕掛けた根拠となった。最高神の記憶を思い出した上での解析不可となると、判らないからこその根拠となる。
そうと判れば急ぐだけだった。既に伝説の英雄が一人死んだのだから早く守らなければいけない。
「王様が一番危ない…」
彼らを守ることが使命だと償いだと革新したスライムは全速力で城の方角へと進んでいった。
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「い…イタタ?!」
「大丈夫ですかルデン様!?」
「んっ?ルベラか、てことは帰ったのか」
「突然気絶したルデン様が現れたので驚きました!転移魔法ですよね!?どうやって覚えるんで…」
「後にしろ!緊急で帰ったんだ」
ルデンはベッドを飛び出し地下の研究室へ走った。
そして魔力を眼に込めてマテラのいる王室まで見透して直ぐに中断した。頭を抱えてルデンは涙を流す。追いついたルベラは、ルデンの泣く姿を見て慌ててしまう。
「え!?ル、ルデン様!緊急って何があったんですかっ!?」
「くっ………!」
溢れる感情に歯を食い縛って抑えたルデンは、深呼吸をしてからルベラに説明する。
「いいかルベラ……」
「はい、何でしょう?」
「マテラが死んだ……」
「えっ?!」
「今度はマキアだろう何としても阻止するぞ!」
「………………」
あまりにも驚愕な出来事に言葉を失ったルベラだった。




