そうか…お前が空気だもんな
「えっ……これは……」
スライムは困惑していた。その手には355mlの缶がある。果実の甘酸っぱさが癖になるドリンクだ。邪神は笑顔で答える。
「ほら、全部欲しいんでしょ?遠慮しないで飲んで良いのよ♪」
「えっと……違う……」
「じゃあこっちのと混ぜる?うんうん!やっぱりコレも欲しくなるよね~」
何処から出てきたのか不明である様々な色の缶がスライムに渡される。どうしたらいいのか分からなくなったスライムは受け取った後に座り込む、その様子にマテラ達は再び凍りついた。
「ルデン……言いたいことが何となく分かった」
「そっか……私は今のところ一番スライムが可哀想だと思ったがどう思う?」
「あぁ……」
マテラとルデンは目の前の光景から目を逸らして、互いの意見を共感して落ち着こうとする。だが、やはり一人だけ違った。座り込んだスライムの隣に男は爽やかな笑顔で寄り添う。
「大丈夫かい?悩み事があればボクに言ってみるといい……ボクなら君を幸せにしてみせるよ♪」
「幸せ……欲しい……」
「そうだ!ボクと結婚しないか?君なら女王さ…」
相変わらずの急なプロポーズにルデンのドロップキックがマキアの後頭部から入り、ルデンの罵声が響く。
「お前は何で空気をちっとも読めないんだ?これは呼ぶしかないよな!」
「ルデンちゃま……ぶふぉ!?痛い痛い!心が!主に心が痛いから勘弁して!」
後ろでマテラは特に反応もなく空を眺め始めた。
邪神は話しに割り込んだ二人にも缶を渡す。それぞれ違うものだった。そして邪神は微笑みスライムの首を撫でながら抱きつき耳に囁く。
「ほら……美味しいよ、飲んでごらん」
「う、うん……」
言われるがままスライムは缶の中身を飲み干す。口に広がる果実の甘味と風味、戸惑っていたがスライムはニコッと笑ってみせた。それを見たマキアも鼻息が荒いが飲み干す。しかしルデンは警戒して飲まないでいた。それを見た邪神は勿論問う。
「どうしたの?違う味が良かったかな?」
「いいや、まだ調べることが山積みでな」
邪神は、それ以上の質問をすることはなく目線はマテラに移っていた。先ほどまでの笑顔は何処にいったのか、邪神の表情は無表情となった。そしてマテラに近づいていく…
「ツンツン」
「ん?」
マテラの頬を人差し指で突っついていた。だが邪神の表情は変わっていない、それを見てみぬフリなど出来ないルデンの警戒心は強くなる。邪神の背に杖を当てていた。
「さっきから何のつもりだ?」
「ふふふ……疑問、恐怖、絶望」
「読んでいるな」
「気持ちいいわルデンちゃん、私ね……アナタを虐めたくてウズウズしてるの」
「っ………?!」
図星だった上に、そんなルデンに追い打ちをかけるように脅してくる邪神は無表情のままだった。冷や汗をかきながらルデンは気持ちの整理をするのに必死となる。だが邪神は、そんなルデンなど気にせずマテラに抱きつく。唐突な邪神の行動に皆が戸惑う。
「ちょっと!急にどうした?」
流石のマテラも震えていた。甘い香りが鼻を刺激し透き通った綺麗な肌が密着する。それに反するように恐ろしい邪悪なオーラが身体を蝕み死が近づいているような鼓動が響く。先ほどのスライムがこんな状況を笑顔でいられたことに疑問を抱きながら自分の弱さを痛感してしまう。マテラの魂が叫んでいた。このものは俺を殺せる。消せてしまう。ホンモノだと……
「んっ…!?」
などの恐怖は一瞬で消えていた。もしかすると、そこにいた全員が同じだったのかもしれない。当たっていたのだ。
「ど、どういうつもりだ……」
「ふふふ……照れちゃって可愛い~」
邪神の唇がマテラの唇に当たっていた。キスだった。思わずマテラは邪神を腕で、はね除けていた。
カラン……
缶がアスファルトの道路にまで転がる音がした。ルデンが手に持っていたものだった。ルデンの思考が完全に停まっていた。開いた口が塞がらず立ったままで気絶していたようだ。だがマキアとスライムは揃って口を開き
「「おおー」」
マテラは地面を見つめ何かを呟いていた。




