最大の罪
晩餐を三人で済ませた後、痣だらけの少女に変化が見られた。ラマンは遺体から引きちぎった肉片を少女の口にも詰め込んだ。儀式なのではなく普通に食事の提供だ。だが生肉を人間が普通に食べられるはずがなく噛めない。
「美味しくない……」
美味しいはずがない、悪魔の肉を生で食べるのだから美味しいと言えば、この少女が人ではないことを意味する。ラマンはそれを無理やり喉の奥まで突っ込んだ。
ごくん……
苦しみながらも呑み込んだ少女の身体から痣が消えたのだ。ラマンも口に入れる。
「これが肉なのか?」
肉とは思えない果実のような甘味が広がった。ラマンの身体もまた変化した。
硬い何かがひび割れる音
ペキッ……ペキッ……
「ラマン様……?」
「割れてる」
黒い皮膚が割れていき砕け散る。ラマンには、それが老廃物か何かが排泄されるような感覚だった。余分なものが剥がれ落ちる。余分なものが絞り出される。
ラマンの全身を覆っていた黒い皮膚が全て無くなり、地肌が晒された。
「う、嘘……その姿はまるで」
「カッコいい…」
「ん?何が起きたのだ。全く分からん」
その姿は人間のような肌であり髪であり体格であった。
異質な部分と言うと瞳は真っ赤で背中から翼が生えている。それ以外だと普通の青年と見てとれる。
ラマンからしたら何が変わったのか判りづらい。ダムの水面で確認していた。数秒の沈黙の末に深いため息をする。
「前の方がよかったな……」
進化と捉えるべきなのか?それとも退化と捉えるべきなのか?今のラマンにその答えを見つけるのは安易ではない。そもそも自分の力量を全く知らないのだから、この段階で判断するとしたら気分だけだった。
そして何より嫌なのは…
「やっぱ服ない……」
「ラマン様、こちらを」
自分のじゃないとはいえ裸体をさらけ出していた。
そんなラマンを気遣い、ジレスは自身の服を一枚脱ぎ差し出した。ラマンは無言で受け取り着る。
「……………………。」
驚くほどサイズが合う。この姿になった際に身体が縮んだのだろうか?やはり解せぬ
「この女は何者なんだ?」
「リリスですね」
「知っているのか?」
「ええ、初代魔王パズーラの娘であり二番目の奥様でもあります」
「え……?」
ジレスがさらっと答えたためラマンは一瞬固まった。
カルチャーショックし過ぎたのだ。そのパズーラの肉体は今ラマンが乗っ取っている。
ジレスはさらに話を進める。
「そしてラマン様は十代目となります」
「………………?」
ラマンはもはやパニックになっていた。まずジレスが何故そこまで知っているのか、何故初代魔王の娘で二番目の妻になっているのか、何故ラマンという存在が十代目になっているのか……
ラマンの様子を見て、察したジレスは細かく説明を始めた。
「パズーラは元々、大天使として生まれております。ですが最高神の教えに反する罪を犯しました。その罪とは同族との繁殖です。これによって生まれた息子マードは罰として存在を消されそうになりました。これにパズーラは激怒し同族を連れて天界から逃走後、誰にも邪魔されない新たな理想郷として魔界を作りました。パズーラは同族との繁殖を繰り返す内に種族が天使から悪魔や異形な者へ変化していることに気づきました。これが魔物です。最高神は間違った方向へ歩む者達を悪と定め消し去っていきました。これに対するパズーラは魔へと引きずり守ろうとしたのです。そしてパズーラの最大の罪は終わりません。何故なら九代目リリィとの間に産んでしまったのです。もう、ここまで言えば納得でしょうか?」
長々と魔界の歴史を説明するジレスにラマンは何も言葉が出てこなかった。言い換えれば魂が異なるだけで全てラマンの罪となるからだ。初代魔王はラマンを息子と呼んでいた。そして喰らおうとした。その罪の重さから逃げようとした。たとえ転生したとしても肉体の構築が異世界で異なるのは当然と言えるだろう。だが、あまりにも酷い運命の悪戯のためかラマンは考えるのを止めた。
「悪魔さん魔王なの?」
「……………ん?あぁ、そうらしい」
「そうですよ、十代目魔王になる御方なのです!」
ラマンにはジレスの言葉が全てを見透した上で言われたような、そんな気がした。自分が何をしなきゃいけないのか判ってきたのだ。だがラマンがそれを実行するとは限らないのだ。それでも確定している結果が先に来ていたなら原因は全てその結果に収束してしまうだろう。些細な出来事で今のラマンは天地もひっくり返してしまうのかもしれないのだ。
魔王は呟く
「壊してやろう……」
究極のイデアを求めて
「全ての理想郷を壊してやろう……」
その先の遠く離れた見えないイデアのために
「俺が裁く…!」
同属嫌悪、同族嫌悪、近親嫌悪
闇は俺一人でいい……




