闇の誘惑
なんと凄い光景だろうか…
私は今、姉さんの宗教が出来ていたはずの街で授業している。しかも街の人間のほとんどが食べられているし残り五人は何故か裸体で糸に貼り付けにされている。
「あ、あの…」
「いいから早く始めるぞ」
そんな中で超絶強い魔王に授業している。逃げたいけど逃げられない、普通に教えたいけど質問攻め、起床したり妙なこと言ってしまうと直ぐに腹を殴られる。
意味が分からない…
この魔王が何を考えているのか全く分からない…
これで食事の提供がされるのが本当に分からない…
「魔王様、山火事になってたのでモーガンちゃんと協力して雨を降らせました」
「あぁ…なるほど、この雨もか?」
「はい♪」
「あ、思い出したぞ…お前ら二人揃って俺を無視してどっか行ったな」
そう、私とアラクネが降らせた雨は今も降り続けている。
そんな大雨の中でもあり、何とも言えない光景で集中できない。
「それはどうでもいいのだが…その後の記憶が曖昧だな」
「あの天使に見覚えがないのですか?」
「天使?さあ…」
「あの天使、アラクネのことママって叫んでた気がしたけど…」
「そうなの?私あんなチビ知らないよ…」
「ちょうどいい、この雨を使って授業してみようじゃないかモーガンよ」
こうして実技による水属性の魔法授業が再開した。
私は、アラクネとの合体魔法を魔王としたらどうなるのか興味があり提案してみたがアラクネに誤解された。
「モーガンちゃん、魔王様に誘惑してるんでしょ!」
「してないしてない!こんな酷い、あ…」
「ん?何か言ったかな奴隷よ?」
魔王が笑顔で近づいてくる。また腹を殴られると思った。
魔王が背後に来て私の両腕を掴んだ。
「え?」
「やっぱりモーガンちゃん誘惑した…」
その瞬間、私の脳裏に黒い何かが迫ってくるのが映った。
それが何なのか全く判らない、とても怖い。
その黒い何かが私の心を侵食してくるような感覚に襲われる。
「合体魔法と言ったな?興味深いのだ、どうだ?お前には何が見えるのだ?私はお前の恐怖と絶望が伝わるぞ…」
「いや……来ないで…」
何も見えない、何も聞こえない、流れてくる闇が私を襲う。怖い、苦しい、助けて…
「あ…あれ?」
でも…
「熱い…」
その先に熱い想いがあった
―――――――――――――――
気がつくと私の身体は横になっていた。
雨は止んでいる。目の前には変わらない魔王とアラクネと貼り付けられた人間だけだった。
私は身体を起こし泥を払う。
「やっと起きたか…先ほどアラクネは寝てしまった。この街にある食料で簡単な物だが食べるといい…俺には不味かった」
「は、はい…」
そういえば貼り付けられた人間も普通に寝ている。そして痩せていない…
「あの人達にも食事を?」
「ん?自分の口に合う料理を探していたら多くなるだろう…餓死した材料など価値がない、肉を付けておいたほうがアラクネの栄養にもなるだろう…」
「あ…あはは…」
聞かなきゃ良かった…
そして景色を眺めていると水溜まりが無いことに気づいた。あれだけ異常な大雨だったのに土砂崩れの後すら見つからない。夜だから暗くて見えないのかもしれないが不思議だった。
「あーそういえばだな、資源は確保するべきだと思ってだな…集めたのだ」
「集めた?」
「水を一滴残さず魔法でかき集めてみたのだ」
「…?!」
魔王が指を指す方向に巨大なダムが出来ていた。最初は海にそれが見えたが後からダムのことも含めて説明された。
「いや、しかし未知だ…魔法とは興味深いな…」
「あの…何故あの時は殴らなかったのですか?」
「何の話だ?」
「私が口を滑らせた後、殴るのではなく腕を掴み何かしましたよね?」
「合体魔法を試そうとしたのだろう…何を言っている?」
「いえ、そうではなくて怒っていないのですか?」
「なんだ…殴られたいのか?」
「ち、違います!」
不思議だった。この魔王の全てが理解できない。
でも私は、その理解できない魔王の闇に悔しいが惹かれる。その心の闇を知りたくなってしまった。あの時に感じた魔王の熱い想いが何なのか知りたくなってしまった。とても変な気持ちだ。こんなに酷い扱いを受けているはずなのに今の私は変だ。
「別に殴ってとお願いされて殴るほど俺は優しくない…」
アラクネが私に誘惑してると言っていたが、これじゃ逆に私が誘惑されているのではないか…




