失われた記憶
街は暗いまま、丘を見上げてみると十字架の付いた建物が見える。こんなところに教会があるなんて不思議である、その前にここがどんなところかなんてゼノムに分かるはずがない。
「むっ、普通の人間がいるとは珍しい……私はククラ、この教会の守護者をやっている」
「ククラ!? NPCみたいな扱いされてるのか」
「貴公、私を知っているのか? 実は数年前から記憶が無くてな……この教会の養子で育ってきた」
「そうか、他の守護者はいるか? 後二人ほど探している」
「二人か、この教会の守護者は私だけだ。外は化け物だらけ……誰も外出していないな」
「攻略順はどうするか……」
「何処へ行く? そんな薄着では簡単に喰われちまうよ」
「防具は別にいっかな」
「そうであろうな、せめて私のコートを着ていけ……貴公を見ていると何故か恥ずかしい」
「さんきゅー」
ゼノムは他のメンバー、シュアとルシュフェルを探すことにした。嫁の記憶喪失くらい許容範囲で特に驚くこともないようだ。それより三人の安否確認が先なのだろう、手掛かりなんて何一つ無いが勘で進む。
しばらく進むと全身鎧で守られた騎士らしき人間がフラフラと歩いている。空腹なのか体調不良なのか呻き声が聞こえる。ゼノムがそんなのを構うはずも無かったが、通りすぎる時……
背中に激痛が走る。激痛の正体を確認するのに数秒、騎士の持つ剣が赤く染まってるのが見えてから痛みにもがく。敵意を感じたゼノムは反撃の構え、魔法が使えないので己の肉体が頼りだ。剣を鍋の蓋で弾き、体勢を崩した騎士に剣を刺し込む。鎧の間を狙い感触あり、間合いを詰めすぎたので腹に蹴りを入れて飛ばす。
ゼノムの判断は正しかった。致命傷を与えたはずだが騎士は生きている。背が痛む、だがゼノムの闘争本能が痛覚を遮断してしまう。追撃を鍋の蓋でカウンター、二度は通じるはずもない別角度からの刀身だ。ゼノムの盾となっていた鍋の蓋が弾かれる……
「獣……狩る……」
ゼノムを獣と言い放ち、剣の凪ぎ払いが迫る。だが、その刀身を見切って土台とした。上空にゼノムは飛びバク転、騎士は倒れた。既にゼノムの投げた剣が刺さっていたのだ。
刺した剣と弾かれた鍋の蓋を回収、戦利品を漁ると液体の入った瓶が二つ出てきた。黒色と黄色であった。効果の判明していない液体をいきなり飲むほどゼノムは馬鹿じゃない、コートのポケットに入れておいた。するとカチャカチャと音を立てながら増援が来ていた。
「やっべぇ……弓は不利だな」
合図なんて聞こえる間もなく矢の雨がゼノムを襲う。走り抜けて鍋の蓋と剣で弾く、上からは鍋の蓋で横からは剣で、正面からは身体の軸を瞬時にズラして回避していた。近接戦に移り隙間を突き刺す、殺した感触が伝わると同時に身体能力が上がっていることに気づいた。レベルアップだ。
「まあ脳筋ならちょうどいい」
ゼノムは次々と刺し殺した。動く者が自分だけとなると戦利品の回収を始める。最初に倒した騎士と同じ謎の瓶しか持っていなかった。今後に備えて弓矢を回収するべきか悩んだが、弓に対応しているように感じなかったのかゼノムは放置した。戦利品を漁る途中、一人だけ他より大きい男の死体があった。その男の武器は大きな剣、ゼノムの身長をやや越えるほどの大きさと手に取りハッキリ分かる重量感。
「気に入った」
ゼノムは大剣をメイン武器にすることにした。試し斬りとして死体を凪ぎ払う、吹き飛ぶ死体の山が突然崩れて消失した。死体が消失したが中から光の玉が現れるのが見える。あの光が何を示すのかゼノムには理解できない、だが光と言えば邪神だった。ゼノムは近づき宙に浮いてる光の玉に触れてみることにした。眩しさの増す光の玉、周囲は照らされ視界が真っ白となる。何も見えない、閃光の先にゼノムが見たものが一つ、それはシュアだった。光は消え一人となるゼノム、大剣で凪ぎ払う前の死体があちこち散らばる状況に戻っていた。
「冷やかしかよ」
大剣を背にゼノムは再び勘で二人を探す。




