フードプロセッサー
呪われた右腕
それは不知火に邪神がオマケで注いだ神の加護であった。だが現実は、蝕む呪いでしかない。
触れた全てが腐り謎の感染症を引き起こしゾンビ化する。唐突な邪神の選抜により不知火の人生は一瞬で地獄に変えられていたのだ。最愛の人、家族、友人、あらゆる周囲の人間に被害が及んだ。無惨な殺し合い、全てを失い、だが彼は力に目覚める。絶えぬ怨霊の声が彼を導いた。生と真逆の死の力が彼を待ち続ける…
「コロセ…オワラ…イ…ノム…ロイ…」
彼もまた邪神に喰われた。死後の世界でも諦めていなかった。むしろ死神の力を真に発揮したのが死んでからである。
「あぁ…邪神様が何故、俺を喰ったのか今なら分かるさ」
不知火の心に人間性が消え去った。人間の本能が今の彼に無い今、本当の反死を得た。裏返ったとも言うべきか…
「今では死そのものが俺の望みとなるだろう。邪神様に何度も食べられたい、潰されたい、全てをグチャグチャにされて捨てられたい…」
完全に狂った不知火の発言は、もはや変態にしか聞こえない。その望みを叶える為に呪いと皆の怨霊を引き連れて現世に向かっていた。
闇に包まれた空から降り注ぐ呪いの塊、それが目指す座標はゼノムの部屋にある小さな器。ドス黒く染まる白だった器の液体に拍手で迎える白の邪神。その背後から少し警戒する天の座に君臨する者。小さすぎた器が容量を超えて破裂する。ゼノムとその嫁ABC以下略のエネルギーが籠められたその器、いや卵だったのかもしれない。殻を破り邪神に歓迎されながら誕生した生命体がそこにいた。原型がよく分からない黒いジェル状の生命体。もはや誰の子なのか判らない。
「【出産祝いですよ社長、どうです?めっちゃ強そうでしょ!】」
「あぁ…なんてザマだ」
ゼノムは困惑している。あまりにも酷い見た目だからだ。様々なエネルギーが裏目に出てゲテモノ失敗作になったのではないか?
彼の頭にあるのがそれくらいであった。
「【まあ原型が崩れたのは私が呪いを注ぎ過ぎたっていうのもあるんだけどね】」
「俺とお前のセットは無理だと言ったばかりだろ…」
「【この呪い私のじゃないよ、冥界に貯まったやつかな~】」
「こんな子供とか嫌だぞ」
「【エネルギーだけじゃ子供にならないでしょ、これはオッサンの輪廻転生】」
「オッサンがこの世界の呪い全部浴びたのか…」
「【さてと…】」
邪神は、黒い生命体にストローを当てていた。このジェル状の生命体を飲むつもりだ。自分らのエネルギーで生成されたものを易々と吸収されるほどゼノムも甘くない。
ストローを消し去った。
「何のつもりだ?」
「【私の口に住んでもらおうと思ってね、この世界の怨霊が大好きなスポットらしいよ。死神ちゃんから聞いたの】」
「死神ちゃん?」
「【いわゆる文明を与えた!】」
「ちゃんってことは、女なの?」
「【文明を与えた!】」
ゼノムにスルーされているがドヤ顔でガッツポーズしていた。負けじと問いに答えるつもりがない。
「【見てみて!入ってくるよぉ!】」
「お前のブレスで人類滅びそうだな」
「【光に蝕まれる快感が良いとか何とか死神ちゃんが言ってたっけなぁ…】」
「なんだ…邪神様に虐められたい変態集団か」
「【うん、なるほど…肉体がやっぱり必要みたいね】」
「肉体?オッサンの輪廻転生理論どこいった?」
「【オッサンの卵が有精卵にならないで孵化したって言えば分かる?】」
「は?卵で俺らのエネルギーと全ての呪いを注いで無精卵?」
「【んー、精霊に近いかなーこれ】」
「いやいや死霊だろ…怨霊の塊だろ…」
「【あ、そうそう死霊かも】」
「出産祝いって何や?死産やん」
「【そうとも言うー】」
ゼノムは失敗作よりも邪神が文明を与えて生まれている死神ちゃんが気になり夜中でありながら嫁を置いて飛び出した。しかし下心が抑えきれないから暴走してる訳では無かった。彼は冷静だ。邪神が直々に文明を与えた影響力を恐れたのだ。ゼノムの嫁で最も戦闘に特化したオークゥが相性が悪かったと言っても倒れている。友人の思いが注がれたとしても幼なじみだからといって俺の成長に追い付いてる訳ではない、それはオークゥにも言える。どう考えても邪神の影響力だ。幼なじみは過去のゼノム、すなわち上木悟を知り尽くしてるだけだ…
「そうだ…今の俺を異世界でも最後に立ちはだかるのは、やはりアイツだった…」
「ん?アンちゃんが言ってた世界を狂わせる猛者って君?」
「座標の特定は意外と早かった。アイツがデザインするから期待していたがイメージと違ったか…」
「うん、アンちゃんが言ってた通りの男だ…たぶんデザインでピチピチ美女を妄想してるだろうからカルシウムたっぷりにしておくってね」
「で、早速だが不知火のルーツが」
「そだよーアンちゃんと作った」
「邪神の呪いも厄介だが死神の力とやらも中々の強者になっててな…俺の守護者が全滅さ」
「異世界だろうが何だろうが生命の在り方というのが大差無いのだ。故に狩るだけなら最も優れるだろうなぁ…」
「邪神を除いて絶対的な強さと言える」
「アンちゃんだけ狩れないのが惜しいのだ…不知火がどうなったか聞いたぞ、アンちゃんの場合そこにないからなぁ…」
「死神なら見えるのだな、俺のも見えるか?」
「見えるぞ、君の場合だと見えるというより見せてるな?偽りの命にしか見えない死神ちゃんビックリ」
「偽り…」
「ここだけの話、アンちゃんの存在そのものが君の偽りであることくらい知ってる。この空間が現世と異なるのくらい分かるだろ?」
「絶対的想起か…」
「御名答、ここにいる時だけアンちゃんの本来あるべき絶対的想起になるんだ。私の力量が君の嫁さんより上になっちゃったのも理解して頂けたかな?」
「やはり意味不明だ。文明を与えたら何でこうなるんだ…」
「まあ文明を与えたのがアンちゃんじゃなくイデアそのものだから仕方ないね」
「【外】ってワカンネェー」
「でさ、実は不知火の育成って現在進行形だったりするよ。君もアンちゃんが呪い注いでるとこ見てたでしょ?」
「異世界での戦いで【何度も】見てきた。不死という邪神の呪いがもたらす影響力…」
「うーん、その不死なんだけどアンちゃん一人で成立してないよ。死を与える力に関してなら死神やってる私よりも君が上だ。そこにアンちゃんの力が合わさり不死になっているよ、シンプルに君が強すぎるだけかな…皮肉」
「いや、それって俺の力を逆手に利用できちゃうアイツがヤベェだけじゃ」
「どっちもどっち…」
「本来のアイツに対策するなら反しか?」
「まず何も来ないでしょ、私もそうだった」
「死神ちゃんも邪神と怠慢?」
「怠慢なのかな…ここにいる時だけ本来のアンちゃんだもの。君の概念、思い、記憶といった縛りから解放された姿だ。私は一度全てを失った…これが私なのかどうか…」
「あ、文明を与えたってそういう…」
「そういうことさ、私の本来の姿が死神なのか分からない…イデアが導いた奇跡が死神と不思議なこの空間さ」
「無から有?どういうことだ…」
「イデアが気まぐれなのか、実はアンちゃんの心が僅かに残っていたのか…」
「やっぱ意味不明だ。有であれば相対的だろうに…」
「君の相対的芸術、この空間でも成立する。しかし私にそれがあるだろうか?」
「理解したら負けだと察した。俺は帰るぜ」
別れの挨拶もなく死神は眠りに入った。思考を停止していたのかもしれない、停止したのが時の方だったのかもしれない。全てが無意味になった空間だった。ゼノムから見ればだが無意味になった。死神が会話していられたのもゼノムの影響によるものだったのかもしれない…
家に帰るとゼノムは察した。家を出てから時間軸が完全に停止していた。時計の針が外出した[2:34]から動いていない。邪神が文明を与えた全ての枠から外れし謎の空間、その座標の特定が一瞬だったことにも驚く。ゼノムが出す答えは「理解したら負け」ただこれだけだった。
「逆に考えてみれば特定したんじゃなく【外】が招いたと言うべきか…」
「珍しく難しいことブツブツ言ってますね」
「夜中に外出しようとして戻ったり、例の邪神と何か関係が?」
俺の不自然な行動を心配してヤハラとクレアが起きていた。確かに二人の言うとおり、俺がネタや煽り以外でブツブツ独り言を呟くというのも変だ。きっとこれも邪神のせいだろう。ちょうど二人の座るソファーの裏から邪神が大きく口を開いてヘドバンしながら現れた。
「どうしたのですかアンユさん!?」
「口が黒い…」
「【シャベッタァアアアアア!!!!】」
「コロセ…オワラナイ…ジャシンサマ…」
「「喋った…」」
赤子が初めて喋った歓喜が何もかも間違えてる邪神だった。この後、ゼノムも一緒にやってたそうだ。夜中に叫ぶ二人は、誰にと言うまでも無いがめっちゃ怒られた。
後書き
ネタが全部友人に伝わるのか際どい部分が多々あるな




