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回復依存の邪神様   作者: 災難な鳶
邪之章
100/112

真なる想起

「すまないゼノム」


ルシ姉からの突然の謝罪。

その直後、俺を置いて飛び去った。

状況が分からないまま俺は最後の邪神の顔を繋ぎ合わせて真っ赤な血飛沫と共に全消しを達成する。


「……………。」


沈黙。次の遊びが何なのか少しの期待をしながらの全消しは何の演出も無しに沈黙だった。

誰もいない、俺しかいない。ルシ姉が何処へ飛び何をしているのかも今の身体では一切分からない。暇が俺を襲う。はずだったのだが…


「やっと本体の登場か」

「アンユ……アンユ…」


邪神は衰弱している様子だった。その声は、あまりにも小さい。あのテンションは何処へ行ったのだろうか。


「なあシダ、そろそろ終わりにしないか?」

「アンユ…アンユ……」


ゼノムの言葉は届いていなかった。邪神は「アンユ」と繰り返し呟いている。何かにすがるように、それが生き甲斐のように、それが奪われたかのように、邪神は繰り返し呟いている。

フラフラと何処かへ歩いていく。まるで「それ」に向かっているように…


「お前は俺に何を見せたいんだ?」

「アンユ…アンユ…」


やはり無視であった。それとも答えなのか?

ゼノムにはどちらにせよ面倒なので早く済ませてほしいと言った様子。


ゼノムの足が止まった。

邪神が向かう先に【あの男】が見えたからだ。

だが何人分になるのか数えきれないほどの同じ生首を見た彼にとって差ほど驚くことでもなかった。


「【久しぶり】リュートさん!邪神が来てますよ!」

「何でチャイナだ?」

「【俺が聞きたい。お前の嫁が寝てる間に着せたらしいが】」


邪神が向かってくるのを気にもせずリュートはゼノムとの再会に感動する。だが、それも少しの間だけだった。邪神は激怒していることを忘れていた。


「返せよ…抜け殻のゴミくずがよぉッ!!」


一直線に飛び掛かりリュートの首を掴んで落下。受け身なんて隙もなく地面がリュートの背を痛めつける。圧倒的な邪神の力を前に生身の人間であるリュートは全く動けなくなった。

ゼノムから見たら自分で自分に攻撃した一種の芸でも始まったのであろう。と大きくため息を出して仕方ないなと言わんばかりに追いかける。

のんきなゼノムの考えとは真逆の致命傷を負っていたリュート。「返せ」と連呼しながら馬乗りになった邪神に顔面を何度も打たれている。

追い付いたゼノムは彼が何を伝えたいのか?

そればかりを考える。


辛うじてアンユの支援により生きてはいた。必死の抵抗で邪神の腕を捕らえた。だが邪神の怒りは収まらないのか今度は頭突きときた。痛覚はアンユも共通であり二人揃って意識が飛びかける。掴まれたままの首から持ち上げられ身体はぐったりと力が抜けている。


「どうして私じゃダメなの!どうして!」


邪神は叫びながらリュートを建物に目掛けて投げてしまう。その建物はアンユの家だった。壁を壊しながら意識を失った男の身体は起き上がることもなく散らかった部屋の中で血を流し続けた。

邪神は動かなくなったリュートをどうこうする訳でもなく、その場で泣き出した。

これにはゼノムも動揺する。そして状況が全く理解できないままでいた。


「おや、もう終わってしまったか」


そこにルシ姉が戻っていた。計算通りなのか定かじゃないが、かなり落ち着いている。そして邪神に向けて何処から拾ったのか不明な剣を向ける。


「ルシ姉、どういう状況だ?」

「私達は勝った。最後にこれで仕留めたら良いらしいぞ?」

「らしいって…ククラの計らいか…」

「そういうことだ。これで邪神のお遊びともおさらばであるな~」


どうやら勝ったらしい。詳細はどうであれ流石、最強の嫁達である。俺の出番がまるで無かった。

泣き続けて動かない邪神に無慈悲に剣が刺さった。剣は輝き、邪神の力を吸い尽くすかのように刀身がみるみる黒く染まる。邪神は最後に「本物には勝てなかったか…」とだけ言い残し力尽きた。


「本当に終わりなんだな…これで…」

「帰るぞゼノム、この世界は亡びる」

「あぁ…」


ルシ姉が異界の門らしき黒い霧を呼び出すと、そこからククラが現れた。俺を出迎えてくれるなんてらしくない気もするが…


「そうだな…らしくないさ、だがゼノムは一回戻れ」

「なんだその手は…」


ルシ姉も困惑している。ククラがゼノムに戻れと言いながら手を差し出すからだ。それはまるで…


「戻れって、お前にか?」

「ククラ、これはどういうことだ?」

「説明は後だ。邪神も最後に言っただろ?本物には勝てなかったかってな」


ゼノムとルシ姉は少し固まった。思い当たるものが多すぎるからだ。まさかと思い急いでゼノムは邪神に刺していた剣を取ろうとする。だが…


「【遊びは終わりましたね】」

「クソッ…!」


ゼノムの身体は弾かれていた。そこに立つのは黒髪ではなく白の邪神だった。その髪色は光輝くとこから銀髪とも言える。その黒髪の邪神と瓜二つで白く輝く邪神、彼と呼ぶべきなのか彼女と呼ぶべきなのか。どちらにせよククラの要件がある程度察する状況でありゼノムに説明は不要となった。弾かれたゼノムをククラがキャッチする。


「早く戻れ」

「あぁ」

「なるほど、あの聖女め…受け入れたか…」


サキアの身体からククラの身体へとゼノムの魂が移行する。倒れたサキアの身体はビクともしなかった。強すぎるゼノムの魂が彼女の魂に負荷をかけたのかもしれない。


「よし、ただいま~」

[まだ家じゃないからな]

「サーセン」

「【準備は良い?】」

[とりあえず邪神に勝ったけど、こっからどうする?]

「そりゃ勿論、逃げるでしょ」

[最強を越えて逃げるんですね]

「それが論外ってやつだよ、【アレ】とマウント張ると絶対潰されるから」

[アンチってこえぇ…]


ゼノムが選んだ最善は逃げであった。

繰り返される歴史、世界、超次元、あらゆる戦いにおいて先手必勝に続く後者の自由は絶対的な勝者となるといった邪神の理論がある。上木悟は異世界において自由を極めた最強の力があるが林田龍斗も同じく自由を極めた最弱の力がある。最強と最弱が戦えば圧倒的に最強が有利である。だが、そこに自由を極めた論外となると話が変わる。先ほども述べたように繰り返される歴史において後者の自由ほど勝るものはない、神々は先手で絶対的なルールを人類に縛りつけ絶対的な勝利を得ようとする。だが必ずそこには人類が求める自由により絶対的な敗北を迎えるのだ。天の座に君臨するゼノムにとってこれほど厄介なものはない、いわゆる最弱故に最強の論外戦術だ。何度も異界での死闘で邪神を倒したことだろうか?

何度世界を亡ぼしただろうか?

邪神がいるから戦う定めなのか?

先手はどちらか?

もはや邪神にそれは通用しない、そこには終わりのない無限ループが始まる。邪神は何度も自由という暴力でゼノムを襲う。ゼノムも自由という暴力で邪神を討つ。自由過ぎる故にそこに勝敗など存在しない力の上下もない、求め続けた者が求めるのを諦めた者に審判を下すだけだ。だが邪神はそれすらやらない。求め続け越えても尚続ける。


「もし俺が負けたとしてもアイツはそれを良しとしないからな」

[ここまでくると回復依存嫌だわ]


邪神はゼノムが白旗を挙げたとしても折るだろう。向かってこいと、続けろと、コンディションを言い訳にするなら最高の力をやると、祝福すると、回復すると、支援すると、最強であれと…


そんな馬鹿が相手である。ゼノムの逃げの姿勢は誰もが考える最善策である。異界の門にルシュフェルの手を取り駆け込むゼノムだった。


その二人を邪神は見届ける。


「【この剣はマキアの…】」


黒く染まっていた剣は、白の邪神が手に取ると再び輝いていた。ルシュフェルが持ち出した謎の剣を邪神は知っていた。古き過去の記憶となった冒険仲間のもの、その剣がここに何故かある。


「【受け入れます。その死も】」


邪神は暗黒の空に剣を掲げて祈り始めた。

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