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第三話 船大砲ヤマト

「おっふろ!おっふろーー」


「こらヤマト!銛船頭の上で暴れるな!前それで風呂桶壊しただろう!」


「ならーーまた買えば良いよーーー」


「そう何度も買ってられるか!ほら、降りて煩取り猫に体洗ってもらえ!!」


「ヤマト、おいで体を洗ってやるぞ」


「あはははは、おっぱいおっぱい!」


「こらこら、乳で遊ぶな、まったく」


(楽しそうだな……)


 あれからしばらくして、岬は何とかイルカの小便で沸かしたという風呂の、それも一番風呂に入り、体を洗った。

 イルカの小便で沸かした、っという前情報があったので軽く入り、そして上がったが、後に入った彼等はもう一時間近く浴場の中で騒ぎながら体を洗っている。


(皆、仲が良いのね)


 岬は長男である海人と一緒にお風呂に入ってた時期を思い出す。

 あれから二人目が生まれ、彼がへそを曲げてからしばらく入っていないが、あの時も、彼らのように騒ぎながら入ったものだ。

 叱る大人、そしてぐずる子供。

 私と、そして息子。あの大変だけど、楽しかった日々。

 その様子が浴場から聞こえて来る彼等の行為とダブり、岬の目がまた少し潤む。


(泣くのは、やめよう)


 そう思うものの、岬の心は静まらない。

 この船の船員達が全員居ないという空間で、岬はただ一人、広い艦内の長椅子に座っている。

 この船、いったい何なんだろう。

 そして自分の中で何かをスイッチさせたくて、岬が首を回しながら船内をぐるりと眺める。

 そこにあるのは、机や椅子、そして船の模型、またはロボットのプラモデルに加え、どこか水に溶けた印象のある、水車小屋と古い家屋が描かれた絵画が壁に掛けられていた。

 他にもかなりの調度品が置かれているが、

どれもしっかりと金具で固定されているようだ。

(この船、水に沈んでたと思うけど、絵とか、大丈夫なのかな?)


 ふとした疑問。岬は後で彼に聞いてみよう。

 そう思いながら立ち上がり、甲板に上がってみよう、なんて考えていたが。


「おーーーい!カイトカイト!」


「カイト出ろ!カイトおいで!」


「カーイトカイト!出てこいこい!」


 外、の下から聞こえて来る大勢の何者かの声。

 岬はその声にギョッとして身構えるが、その声の主達が船の持ち主である男の名を呼んだ事で、岬は少し安心しながら警戒し、ゆっくりゆっくりと甲板の上に上がり、手すりに身を委ねながら、その船の下、海原を覗く。


「に、人魚?」


 そこには5、6人のマーメイドっと言って良いだろう。

 それぞれ様々な容姿をした人魚達がこちらに向かって声を出し、手を振ったり、水をバタつかせたりのゼスチャーを繰り出している。


「カイト!カイト!レスキューレスキュー!」


「一生のおねがい!おねがい!!」


「カイト!!カイトーー!!」


 甲板上から人魚達の様子を見れば、どこか差し迫ったような印象を受ける。

 上から見上げる岬。その姿を、下の人魚達が確認した。


「あ、カイトだカイト!!」


「おーーーカイト!ビバカイト!」


「カイト助けろ!!」


「あれ?良く見たらカイトじゃない!?」


「ヤマトか!?煩取り猫か!?それとも銛船頭か!?」


「いや、誰でも違うぞ!!謎の奴だ!」


「謎の奴!!カイトをどうした!カイトを出せ!!カイトカイト!」


 私の姿を見るや、下の人魚達がやいやいと騒ぎ出した。


「カイトはどこだ!言え!!」


 騒ぎ立てる人魚達、岬はそんな彼女達に言った。


「え、えっと!カイト、さ、さんなら、お風呂に入ってるよ!?」


 真実のままに言う岬。しかし人魚達は何か不服だったようで。


「なに!?風呂!!ずるい!私もカイトと風呂に入りたい!!」


「風呂って裸になるんだろう!?裸なら、子作りって事だ!!」


「子作りずるい!!お前、カイトと子作りするんだな!!ずるいぞ!」


「カイトの子種寄越せ!!」


「子作りさせろ!!」


「子作り!!子作り!!」


「え、ええ……」


 彼が風呂に入った。それを聞いた瞬間、下の人魚達が興奮し、水をバシャバシゃさせたり、水を含んで、それをこっちに拭きかけようとしたりしている。

 そして人魚達の暴動が留まる所を知らず、しまいには甲板の上に上がろうと、船の船壁によじ登ろうとする始末。

 そして人魚の一人はその魚の足を持ち上げて、器用に登っている個体も居た

 

「カイト、ずるいぞ!子作りさせろ!」


「私も足つきを生みたい!!」


「お前と私達で出来るのは知ってるぞ!」


「子作りしろ!!そんな年寄り抱いて、私を抱かないなんてズルイぞ!!」


 人魚達は思い思いの感情をぶつけながら、甲板に上がろうと苦心している。

 しかし聞こえてきた声を聞き、それを中断する。


「おい、なにやってんだ馬鹿!」


 彼が、その仲間達を連れて現われた。

 岬はカイトを見る。そして彼の容貌が変化した事を確認した。

 彼のそのボサボサの髪は整えられ、髭も剃られ綺麗に整えられている。

 全体的に清潔感溢れる出で立ちに、岬は好意的な印象を覚えた、が。


「あっ!カイト髭剃った!!」


「髪が変わった!前の方が良かったのに!」


「風呂に入ったら匂いが薄まるじゃないか!

駄目駄目!!カイトは臭くないと駄目なのーー!」


「うわーーん!カイトの馬鹿ーー!!」


「カイトはいつものカイトじゃないと駄目なのーー!!」


「カイトカイトカイトカイト!」


「えっと……」


 海原でじたばたと溺れた子供のような仕草で暴れまわる人魚達。

 彼女達は皆それぞれに彼の名前を口にして、その容貌の変化に不満を述べる。


「えっと、彼女達は……」


 分からないなら、尋ねれば良い。

 岬はカイトにこの人魚達が何者かを聞いた。


「人魚だよ」


 もっともな言葉。なるほど、分かりやすい。

 だが。


「そ、その人魚達が……なんで、ここに?」


 本当であればもっと聞きたい事もあったのだが、それよりまず彼女達の目的を知るべきだ。

 そう、どうせ聞いたってへーーくらいにしか思わないのだ。

 ならば目的を聞いて、その用件を聞いた方が建設的である。

 岬はそう考えて、彼に尋ねた。


「くそぅ、なんで居るんだよ、めんどくせぇな」


 しかしカイトは岬の言葉を無視して、海原で慟哭する人魚達を見て、しかめっ面している。


「おい、人魚共!!俺に何の用だ!!用件があって来たんだろう!?」


「なら、しっかりそれを伝えろ!!」


 カイトが叫ぶ。刹那、人魚達のあがきが止まる。


「伝えたら、叶えてくれるか?」


「子作りさせろ、っての以外ならある程度」


 その言葉を聞いて、人魚達はしぶしぶと言った顔して不満を表すが、しばらくして。


「私達のオスが攫われた!!」


「オスを奪われた!!」


「海賊だ!!」


「陸の奴等がオスを奪っていったんだ」


 人魚達が口々に訴える。

 オス、とは何の事だろう。岬は考えるが、やはり、それはあのオスメスの、雄の事だろうか?


「陸の奴がオスを奪っていった!処理用にするって言ってた!」


「カイト以外の陸と、我々種族とは出来ない!」


「だから薬で起たせて、処理に使うって言って!」


「オスが奪われた!!」


「それは私達種族の危機!」


「財産を奪われた!!」


「娯楽を奪われた!!」


「種を奪われたんだ!」


 人魚達は口々に訴える。

 話を聞く限り、どうやら彼女達のオスは貴重であり、それを海賊に奪われ、慰み者にされそうだから助けろ。

 人魚達の言葉を要約すると、そういう事らしい。


「旗は?どんなだった?」


 カイトが尋ねる。


「えっと、ドクロを被った、羽の生えた奴だ!」


「羽の生えたドクロか……結構あるなぁ」」


 彼が訝しげに首をかしげる。


「よし!分かった、なんとかしてやる!」


「だから、もう騒ぐな!!」


 しばらく考えていたカイトだが、少しして下の人魚達に了承の旨を伝えた。


「え、あの……了承するって?」


「言葉通りの意味だよ。あいつ等の財産を取り戻す為、助太刀するって訳だ」


「す、助太刀……そ、それって」


 危険な事が起きるのでは?

 岬はそう考え、出来る事なら中断して欲しかったが。


「やった!!流石カイトだ!!」


「良いぞ!!カイト!!」


「流石、海の男だ!!」


「海街の狩人、カイト!! ええぞ!」


「報酬は用意するぞ! こんな時の為に、金属を溜めてたんだ!」


 彼の了承を聞いて、沸き立つ人魚達。

 喜ぶ彼女達の前で、行くのは止めて、なんて、出すぎた真似は出来なかった。

 カイトが岬の方を向き、言う。


「まぁ、大丈夫だ」


「ヤマトは、強いからな」


「ちなみに俺も強い」


「うん、あれだ」


「ちょっとは」


 カイトは、そう一息付くと。


「俺の、俺の良い所を見せてやるよ!」


 ガハハと笑って、格好付けた。そしてこざっぱりとし、その髪に光沢を宿らせた、ヤマト、彼女に言いつける。


「よっしゃ!ヤマト行くぞ!海賊共からお宝を取り戻しにな!!」


「おーーーお宝!! 珍宝だな!ちんほう!ちんぽう」


「おお、ちんぽ!!」


「カイト、ちんぽ見せろ!!」


「ちんぽ前進!」


「ちんぽを取り戻せ!!」


 なんとも卑猥な言葉の連発させながらちんぽ、ではなくヤマトは出発する。

 瞬間、ヤマト、あの金髪の少女が船の中に吸い込まれていき、それは彼女がこの船の動力部なのだと岬に理解させた。


「行け!ちんぽ!!」


「ちんぽ進め!!」


「パンパンパン!!」


「ドビュッシャードビュビョウ!!」


「ビュビュッバビュッバ、ビュッバビュー」


 そうして、人魚達の意味深な発進に見送られ、ヤマトは進む。


「ちんぽーーちんぽーー」


「お○んこ、ちんぽーーー!!」


「ちんぽ!ち、ちんぽ!」


「へっへへ!ちんぽーー!」


 船が進む最中にも、人魚達は進む船に卑猥な言葉を投げかけ続ける。

 その様は異様なまでに楽しそうで、彼女達は頬を赤く染め上げながら、海面に片腕だけを引っ込ませ、それを小刻みに動かしながら、恍惚に浸っている。

 岬はそれを見ない振りして、船が行き着く先へ、己の運命を委ねる事にした。



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