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第四話

ウェインさんが出て行った後、残ったメイガスさんは笑いながら慰めてくれた。

「ハッハッハ、気にする事はありませんよ、エリン君」

でもウェインさんは追放処分まであるって言ってたし。

「あれはね、嫉妬なんですよ」

「どういうことですか?」

「例えば今回の件ですが、君は16人に対して加速(ヘイスト)の魔術を3分弱使ったと聞いています。 正直な話私では16人を対象にすれば2分持たないでしょう。 あの魔術はもっと少人数を想定して使うものです」

「え、でも、それじゃあ戦争(ほんばん)では使い物にならないんじゃあ...」

「あの魔術を使う時の本番(ほんばん)は戦争ではなく魔獣退治です」

あ、そういえば 紅蓮 はそっちのエキスパートだった。

「騎士団が出撃する程の魔獣退治は街の冒険者達で対応しきれないような魔獣が対象となりますが、通常は対処しきれない程の大規模な群れか、少数ながらに強力な能力(ちから)を持つ魔獣かの2択になります。 群れの場合はこちらも数で勝負しますが、相手が少数の強力な魔獣の場合は下手に人数を出すと被害ばかりが増えるので、こちらも少数の人数に加速(ヘイスト)等の強力な術で強化して戦う事になります」

たしかに魔獣に限らず野生の動物などでも人間の反応速度よりよほど早く動くことができる。

訓練された騎士と言っても強力な魔獣を相手取るには身体能力を強化する魔術を使用して漸く互角の勝負ができるのだろう。


加速(ヘイスト)の魔術は非常に強力ですが、それだけに高い魔力を要求されます。 はっきり言ってウェインでは加速(ヘイスト)を使う事は出来ないでしょう」

「確かに加速(ヘイスト)は魔力をすごく使う魔術だとは思いますが...」


「君は中央の魔法学校出でしたよね。 だったら今まで同レベルの人達に囲まれていたのでしょうから、判り難いかもしれませんね」

そう言うものだろうか。

「魔法学校も基本的に貴族や魔術師の子弟でなければ入る事が出来ませんから、リープス一族とはいえ端の方であるウェインでは然程優遇される訳もなく門前払いだったと言う話です。 逆に平民出身の君が入学出来たと言う事は余程優れた素質が有ったと言っていいでしょう。 現に入団早々に結果を出しているわけですが」

なるほど、その辺にもウェインさんが僕に辛く当る原因がありそうだ。


「まあ、かく言う私も魔法学校へは行ってないのですが、もう少し若ければ君に嫉妬していたかもしれませんね」

メイガスさんはウェインさんとは大分タイプが違うと思うが...


「それに今回の事件自体、その辺りが原因なのですよ」

「え、どういう事ですか?」

「戦時中ならば兎も角、平時の今はあまり魔術師の補充はありません。 実際、今は私たちの仕事は文官と一緒に事務方の仕事をするだけですしね。 ウェインも言ってましたが、若い連中のやる衝突はあくまでも訓練という名目ですから、命の取り合いにまでは到らないように年長の騎士達が調整しています。 勿論、訓練中の事故による死亡もない訳ではありませんが、我々魔術師が訓練に参加すると事故の確率が飛躍的に上がりますしね。 まあ、エリン君が来るまでは 紅蓮(ウチ) に訓練に参加するような若い魔術師は居ませんでしたが」

すいません、参加してしまいました...

「つまり我々は現状、閑職に付いているわけです。 そうなって来ると実際に魔術の腕は未熟でもステータスを上げる為だけに騎士団付魔術師になる者も出ます」

「そうなんですか?」

「はい。 貴族が一人前と認められるには、特に跡取りの長子などは武官か文官としてそれなりの実績を積む必要があります。 勿論、無くても跡を継げない訳ではありませんが、周りの目を考えると...ね」

「それで、どの辺りが今回の件に絡んでくるのでしょうか」

「そうでしたね。 実は2年ほど前に 幻影 に魔術師の補充があったのですが、当にそういったタイプの魔術師らしくて... まあ、流石に表だって使えないのが来たとは他の騎士団に言えませんが、そう言った噂は耳に入りますからね」

つまり、自分達の騎士団はババを引いたのに 紅蓮 は魔法学校の卒業生をゲットした... と言う処だろうか。

「ウェインは才能に乏しいとはいえ本気で魔術師としてがんばってますが、(くだん)の魔術師は従者として騎士団に入ってコツコツと下積みするのが嫌で、てっとり早く騎士と同格の称号を得る為に騎士団付魔術師になったと聞きます。 最低限の才能と貴族のコネで腰掛けとして入られたのでは 幻影 も堪ったものではありませんよね」

でも、その堪ったものをこっちに向けないで欲しかった。


それよりメイガスさんの中でウェインさんの扱いが何気に酷い件...

実際、魔術師の間では身分の上下より魔術師としての実力で上下が決まる処があるからの反応だろうが。


「だいたいそんな似非(エセ)魔術師の実力を基準に判断するから、幻影 は倍の人数を繰り出しておきながら負けるようなハメになるのです。 魔術師を無礼(ナメ)ている証拠ですね」

「倍の人数では足りなかったと言うことですか?」

「そうではありません。 相手が補助魔術の影響化にいると判っておきながら、戦いの趨勢が決まるまで魔術師を放置しておいたことが甘いと言っているのです」

確かにあの時僕に攻撃を集中されたら、例え無力化されるに到らなかったとしても、集中力を乱されて魔術が切れていた可能性は高い。

「まあ、次回からは 幻影 も魔術師を最初に無効化する事を考えるでしょうから、良い教訓になったと言えるでしょう」


それって真っ先に僕が狙われるって事じゃあ...


「何を言っているのです。 流石にまた参戦する様な事になれば怒られますよ」

そうでした。

「まあ、今回に関しては先ほども言った様に、非常に良い経験になったと言う事で、双方の騎士団共に上の方は喜んでいることでしょう」


現状は閑職だとメイガスさんが言っていた様に、魔術師が出動することは殆ど無いらしい。

必然、若手の騎士や従士達に役立たず扱いされかけていた魔術師たちは溜飲を下げているとの事だ。


取り敢えず今回の件は治まったみたいだが、色々と根深そうな問題がメイガスさんの言動から垣間見る事ができた。



ホント勘弁してください。

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