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第一話

無事に団長への挨拶を終えた僕は鍛錬場で 紅蓮の獅子騎士団 の面々に紹介されていた。


「今日から騎士団付魔術師としてウチに配属になったエリンだ! みんなヨロシクぅ」

「「ヨロシクぅ!!」」

団長に紹介されて宜しくって返されたんだけど、脳内で 世露死苦 に変換されてしまうのは気のせいだろうか。


「エ、エリンです。宜しくお願いします。」

僕は緊張しつつも挨拶してみたが、どうも皆さんの目はキビシイ感じがする。

それも判らない事ではなく、15歳の僕が位階では騎士と同格とされる魔術師だからだ。


通常騎士になるには10歳になる前から従者として騎士団の小間使い的な位置で修行する。

14〜15歳になって(ようや)く従士として戦いに参加する事が許される。

ここまでは多少の能力による差は有っても大体同じように上がっていく訳だが、騎士になるという事になると貴族の子供で18歳以上から、下級貴族(騎士や貴族の臣など)の子供で24歳以上からが一般的で、優秀な人材であれば14歳で従士になった後15歳で騎士になる人もいるが、逆に30歳を過ぎても従士のままという人もいる。


つまり僕は15歳で横から騎士団に入って来たにも関わらず、騎士団でも最優秀な人達と同じ扱いを受けていると言うことなのだ。

騎士団の中でも騎士は 1/4 に満たない数で、僕より下の立場になる従士の皆さんは基本的に貴族か下級貴族の子弟というところも彼らの視線が鋭くなっている一因かもしれない。

騎士と同等の数がいる騎士団付神官戦士の皆さんは従士と同格で基本的に平民出身だが、神殿の勢力がバックに付いているので貴族とは違う階級意識(ヒエラルキー)を持っている。

こういった中で皆さんが僕に向ける目から コイツナニモノヨ とか ジュウシナメンナヨ とか コゾウガハネテルトトンジマウゾ とかの声が聞こえそうなのは僕の被害妄想だろうか。



重く圧し掛かる空気の中、団長の解散の合図と共に通常訓練に戻る団員達に一息つきつつ先達の騎士団付魔術師達の元へ向かった。

団長は「最初は取っ付き憎いかもしれんが、皆いいやつらだから心配するな」とか言ってたけど、とてもそうは思えない。

何しろ団員の大半が(神官戦士達まで)やたらと尖がったリーゼントに鬼剃りを入れていたりパンチパーマだったりと「いいやつら」を真っ向から否定するようなナニカに突き動かされた格好をしているのだから。

実際、団長自体が深めの剃りが入った角刈りというちょっとアレな髪型なのだから、文官系と武官系の溝というか認識の差異というか「いいやつら」の基準が違うらしいことはおぼろげに認識できる。


処で先達の魔術師達だが、紅蓮(団員達は 紅蓮の獅子騎士団 を自称するときこの呼び方を好むらしい)には3人の魔術師がいる。


一人目はファーレン老と言って頭は禿げあがっているが腰の下まで届く白髪の見事な鬚が特徴の老人だ。

彼は最年長だけあって魔術師達の中心的立場にいる。 好々爺と言った印象で、若い従士や従卒からはファー爺などと呼ばれている。


二人目は40代のマッチョ男でメイガスという。

本来文官系の魔術師がはち切れんばかりの筋肉を誇っているのは騎士団付という役職の為、とは他の二人を見ると思えないのだが、案外あの筋肉故にこそ騎士団付となったのかもしれない。


三人目は20代の後半で、ウェイン=リープスと言って領主様の縁戚に当たる人物だ。

実際にはファーレン老もメイガスさんも貴族の家系なので家名はもっているのだが、最初の自己紹介では家名までは言わなかった。

逆にリープスの家名を強調するように名乗ったウェインさんは選民意識が透けて見えるが、貴族階級の多い魔術師には少なからずいるタイプなので慣れているとも言える。

痩せぎすの如何にもな魔術師である。


ちなみに僕は中肉中背の凡庸な、とも言える体系で、年齢以上に幼い顔立ちをしているので騎士団のような武官系の人たちには余計になめられるかもしれない。


ともあれ、しばらくは先達に従って騎士団にとって有効な魔術を学ぶ事になるようだ。

これは既知の魔術を集団戦においてどの様な時にどの様な術が有効か学ぶという意味と、魔法学校では学ばなかった新しい魔術を学ぶという2つの意味がある。


特に新しい魔術に関しては、戦場以外では使う頻度が低いので教わらなかった魔術や、騎士団独自の魔術(何処の騎士団も自分たちの切り札として門外不出の魔術を持つ)を学ぶ事ができるのでうれしい。


勿論、魔術の勉強だけが僕の仕事ではない。

騎士団に来て3日が経った日の事、騎士のアルバートさんに領内の巡回に付いてくる様に言われた。

巡回は騎士4名(騎士1名毎に1名の神官戦士と従士2名が付いて1組となる)で行い、16名+僕で領内の決まったコースを馬で走って行く。

アルバートさんが今回の組のリーダーだ。

「今日の巡回は西門廻りのセス村からオプリ村流しで行くから! ヨロシクゥ!」

「「ヨロシクゥ!!」」

「後、今回はエリン坊のデビューだからぁ! 一応喧嘩ナシってことでぇ!」

エリン坊って...いやいやそれより喧嘩ナシって、普段はアルの? 頭に一応が付いてるのも怖いけど。

「お前ら 幻影の剣(ナマクラ)天狼(イヌ) 共とカチあってもイキナシ()っ込むんじゃねーぞッ!」

幻影の剣騎士団 はこの間の騎士団で、 天狼騎士団 も領内の騎士団だよな。

何でこんなに仲悪いんだろう。


「じゃあ出発(デッパツ)すっからぁ!」

いきなり凄い速度で駆け抜ける騎士達、僕の馬も勝手に走ってるけど、僕は馬にしがみついているので精一杯だ。

他の騎士達は従士達も含めて余裕な顔してるし、無駄に大きな団旗をはためかせている従士もいる。

西門を通り過ぎる頃には慣れない馬の駆け足で体中がビリビリ痺れているようだった。

こんな速度じゃ持たないから少し止まって休憩して欲しい。


...そんな風に思っていた時期が僕にもありました。


急に疾走していた騎士たちの馬が停止したので、僕も慌てて馬を止めると前方に30人程の人影が。

よく見ると初日に僕の首を絞めたシーンさんが居る。

つまりは 幻影の剣騎士団 だよね、この人達。


「コラッ!ナマクラ共ォ!邪魔だろうがぁ!」

アルバートさん、今日は喧嘩ナシなんじゃあ...

「ヤキネコが上等な口利くじゃねぇか... 通りたかったら避けて通ンなぁ」

幻影の騎士も挑発を返してくるし...

ここまで来ると...て言うか端っから喧嘩上等(やるきまんまん)な両者の間に話し合いの持たれる余地などなさそう。

しかし、相手の人数はこちらの倍って、勝ち目ないんじゃあ...


アルバートさん達だけでなく他の面々からも「ッロスぞぉ!」とか「テメッ!」とか「くぁwせdrftgyふじこlp」とか...

もう止まりそうにない。

そんな事を考えているとすぐ前にこの間 紅蓮 の詰所を教えてくれた 幻影 の騎士さんが「次に会った時はおまえは(ヤキネコ)だっつってたよなぁ!」って。

そのままアルバートさんを見て「どうするよぉアルバートぉ! 今おめぇ等はウチの半分だぜぇ!」ニタァって感じの笑顔が怖い。

「グリーズぅ...」へぇ、グリーズさんって言うんだ何て考えてると。

「確かにこっちは半分かもしれねーがな! 魔術師付きだぜぇ!?」...って僕? 僕なの? アルバートさん!


そしていきなり剣を抜き始めたお互いの騎士や従士たち。

僕は少し下がって先日メイガスさんに教えてもらった加速(ヘイスト)を唱えた。

この魔法を始めとする戦場用の魔法は剣や鎧などに刻まれている紋章を媒介として味方にのみ魔法の影響を及ぼす事ができるため、使い方を間違えなければ非常に強力な効果を発揮する。

加速(ヘイスト)の影響化にある 紅蓮 の団員は倍の人数を物ともせずに3分後には戦いの趨勢は決していた。

尤も、後2分も戦いが続けば僕は魔力を使い果たしていただろうから、実際は結果ほど楽勝ではなかったのだが。


しかし、今回の小競り合いは僕にとっては行幸と言えた。

何しろ先ほどまでは完全にお荷物扱いで、特に魔術の影響化で戦った経験の少ない従士達は完全に僕のことをナメていた節があるのだが、戦いが終わった瞬間から僕に対する見る目が変わったのは間違いがない。

何しろ2倍の相手に3分弱で勝つことができたのは間違いなく魔術のおかげであることは言うまでもないことだからだ。


正直、加速(ヘイスト)の魔術がこんなに効果が高いとは思ってなかった。

ええ、僕もナメてました。 魔術師。


「よぉし! セス村からオプリ村流し! 気合入れて行くぞ! オラァ」

「「オォッス!」」


僕の気合は魔力になって8割方消えています...



詰所に戻った後はバタンキューでした。


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