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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
7/30

7話

砦の裏手から真っ直ぐ森の中に伸びる道。

この先にはバルリング王国で一番西に位置する街ビンドラがあるが荒野からそこまでにたどり着くには馬を走らせ10日程かかる。


時間を掛け歩いて向かうには食糧や水の問題でかなり厳しい道のりとなるが不可能な距離では無い。


問題は森だ。


砦から西に広がり一日中馬を走らせ何とか抜けられる程の距離がある。

この森は魔物の数が多く、更に強い個体が多い。森を歩いて抜けようとすれば魔物に取り囲まれ逃げ場を失うのは想像に難く無い。

歩くには野営が必ず必要な距離だがこの森では非常に危険だ。もちろん馬であっても襲われる可能性は充分あるが歩くのと比べてその危険は随分低くなり、襲われても逃げられる可能性が高い。

俺がこの場所を抜け出すには馬の入手が必要だった。


俺を含めた犯罪奴隷達はこの場所まで檻の付いた馬車にぎゅうぎゅう詰めにされて連れてこられたがその道中で魔物に襲われる事は無かった。薬師の作る魔物除けの香を常に焚いていたからだ。

俺もそれを調合する事は出来るが残念な事にこの辺りで材料を手にする事は出来ない。

連れてこられた道中に焚かれた魔除けの香は安物だったのだろう随分質が悪く臭いはきつく、時折目に染みて痛みが走る事もあった。


あれもなかなかきつかったなと思い出しながら砦の裏手で足元から森の中を真っ直ぐに伸びる道の先を眺めた。


視線を少し落とし道を見た。

俺から少し離れた道の上に置かれたいくつかの腐りかけの死体に目をやった。

死体にはアイアンモール達が蠢きその肉を貪る。


「アースニードル。」


俺の詠唱に呼応し足元から土で固められた槍の様な物が複数目の前に浮かび上がり俺は指を立てそれを振るとアースニードルは勢いよく飛び出し何匹かのアイアンモールの身体を貫いた。

しばらくすると道を挟む森の茂みが所々ざわめき新たな魔物が現れる。

兎によく似た鋭い角を額に生やすホーンラビットが数匹、アイアンモールの死体に群がり、それらを同じようにアースニードルで貫く。そして暫くののち森から人間の子供程の大きさの魔物、ゴブリンが数体姿を現した。こちらを警戒される前に先程よりも強く魔力を込めたアースニードルを放ちそれらも全て貫き殺した。




ワイバーンの襲撃から10日程経った。そろそろ生き残った兵士達が街に到着する頃だろう。俺は荒野から抜け出すために必要な馬の入手方法は一つだと考えた。


ワイバーン襲撃の知らせを聞いたビンドラの領主は調査のために何人かの兵を差し向けるはずだ。危険があるためこちらに寄越すのは5〜6人と言った所か。


その兵士達を殺し、乗ってきた馬を奪うのが唯一の方法だと考えた。

殺さず奪う方法も考えたが万が一俺の存在が街や領、国全体に知らされる様な事態になり今後行き着く街などで動きづらくなる可能性が少しでもあるのであれば全員を殺しておくべきだと考えた。


しかしワイバーンという高ランクの魔物が現れた以上、認知される危険度は増しその危険度にあったそれなりの強さの兵士を向かわせるはずだろう。

確実に調査を行い情報を得るためにもその可能性は高いはずだし、俺が領主であれば確実にそうする。


ビンドラは魔物が多い辺境の街であり仕える兵は強さを求められ日々訓練を強いられていると聞く。各地から荒野に左遷された兵士とは比べ物にならない。

どれ程の強さか分からない複数の兵士と一人で対峙する以上早急に俺は強くなる必要があった。しかし直ぐに上がるものではない。

強さは身体を鍛え技を磨き法を学び時間を掛け身に付けていくものだと教えられ、俺自身もそうやって強さを身に付けてきたからこそ、一月も無いこの状況、時間の中では無理だと感じ、それよりも罠や策略を練る事に時間を掛けた方が余程いいのではないかと思った。


直ぐに強くなるなんて、不可能だ...不可能?

その時俺はある事を思い出していた。


王立学校では史実を学ぶ。

歴史として残る国の成り立ちやどの様に発展したかなどだが、その中には勇者召喚や初代バルリング王、勇者についての事柄も含まれていた。その中で勇者はレベルという強さを数値化した概念を持っていたそうで、そのレベルを上げるためには魔物を倒す必要があると説いた。

どの人間も魔物を倒す事により、魔物が内包する濃い魔力は倒した者自身の身体に取り込まれ身体的能力の向上と魔法などの威力や操作性の向上に作用し、その向上度合いが強さを表すレベルという数値に反映されると説明したそうだが、それは神から与えられた勇者のみに許された特別な能力であったとされている。

その説明を勇者から受けた初代国王は兵力増強のため多くの兵士に魔物討伐を訓練として課したが能力の向上には個人差があり、しかも強さの上昇は求めていた物に遠く及ばない微々たる感覚の物でしかなく、その微々たる向上はレベルが上がったというよりも、魔物との戦闘により経験や身のこなし、技の熟練度が訓練されて身についた為のものであると認識された。

更に勇者は自身のレベルしか知ることができなかった為、レベルという物、魔物を倒し強くなれるという事は勇者固有の能力として認識される事になったそうだ。


魔物と対峙し危険を犯すより、安全な場所で訓練した方が効率が良い。

そもそも魔物を倒して誰でも強くなるのであればアイアンモールなどの魔物を普段から駆除している農民達は物凄く強くなってないとおかしいだろ、と俺は授業の最中そんな風に思った事を思い出した。


思い出すと同時に、その記憶から可能性が浮かび上がった。その可能性を考え付いた根底には勇者召喚が、つまり不可能だと思われた事が現実に起こった事に起因した。


濃い魔力を取り込むという事は魔法を扱える者でないと恩恵を受けられないのでは?初代国王は兵に魔物討伐を課したとの事だが、魔法を扱える者は現在だけでなく1000年前も貴重だったとの事。

そんな貴重な人材を危険な魔物討伐に向かわせはしない。

兵力増強が理由であれば尚のこと大きな戦力になりうる魔法使いを無闇に危険には晒さない筈だ。そして勇者は魔法を使う。


魔法使いであればもしかしたら。


そうして俺は試してみる事にした。

荒野に帯びただしく存在する死体の殆どが腐っているようで、強烈な異臭を放っていた。


適当な死体を選び適当な大きさの脚や腕など身体の一部を剣で切り離し、砦の裏手から森の中に伸びる道の始まる場所へ向かった。

森と荒野の境を越えない位置に立ち死体の一部を少し先の道中央に投げた。


理由は分からないが森と荒野の境を森側に越えなければ道の上でも魔物に襲われ難いようで安全だった為と道の上で魔物をおびき寄せれば生い茂った木々の中と比べ見晴らしも良く魔法を放っても遮る物がない為、魔物を処理しやすいだろうと考えた為だ。

おびき寄せる魔物はある程度の強さ、魔力の濃いであろう魔物を狩る。弱い魔物であれば可能性は低い。


魔力の濃く、強い魔物は体内に魔石という石を作るとされている。魔石は魔道具生成の材料になり売買されているが一部を除いて価値は殆ど無い。大陸のあちらこちらに点在するダンジョンから大量に採掘できるからだ。


魔石のある魔物をおびき寄せるにはエサが必要だが腐った肉には近寄らない魔物が多いため、先ず死肉を喰らうアイアンモールをおびき寄せ、魔法を放ち殺し、殺して出来た新鮮なエサで違う魔物をおびき寄せ、また殺しを繰り返し魔石を持つ魔物を待った。

すぐに、ゴブリン、オーガ、オーク等人型の魔石を持つ魔物が多く集まり、魔力を強く込めた魔法を打ち込み、身体の怠さで魔力の枯渇に気付けば、直ぐに砦に戻り回復を待つ。危険であると判断した場合も直ぐに砦へ逃げ込む。森からは次々と尽きる事なく魔物が姿を現しその度、狩る。

それを数日繰り返した。

結果、勇者の説いたとされるレベルという概念の存在を感じる事となった。

魔法の威力、魔力量ともに日に日に増えていくのを実感する。剣を持ち振るったが剣筋は鋭く腕は軽い。その他今まで経験した事のない、自分に起きる急激な変化に俺は驚き、そして喜んだ。


勇者、お前がどれ程の力を持っているかは知らない。

だが俺は強くなれる。待っていろ。

お前を圧倒する力を手に入れ甚振り、嬲り殺してやる。


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