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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
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5話

目が覚めると砦の中に倒れ込んでいたのが分かった。辺りは日が落ち、窓の外から差し込む月明かりが照らし薄暗くも辛うじて砦の中を確認する事が出来た。


アイアンモールに削られた両足の痛みは既に無くなりゆっくりと立ち上がるも立ちくらみに襲われ、ふらつき、更に長く縛られていた鉄球の重さが無くなった事で浮き足立ちバランスが取れず真っ直ぐに歩く事が難しかったがそれでも俺は生きている事に小さな喜びを感じ神々に感謝した。


鉄球はなくなり、魔法も使える。

あとはこの怠い身体をどうにかしなくては。


身体を支えるため壁に身体を預け、壁を引きずるように歩き食糧庫へと向かった。


気配を感じる。


食糧庫にたどり着いた俺は入り口の前で立ち止まり壁を背にして静かに中を覗いた。


誰かが、いる。


食糧庫には小さな窓から一筋の光が差していたが全体を照らすには弱々しく、暗闇で動く何者かを確認する事が出来ない。

生き残った奴隷か兵士か。若しくは...。


食糧庫の中にいる何者かに気取られないよう静かにその場から離れ武器庫に向かった。武器庫には月明かりが届かず暗闇で何があるか視認する事は出来なかった。

魔法を使い照らす事も出来たが食糧庫に何者かがいたように、武器庫には気配なく誰もいないようだが魔法の光が目に届く何処かに誰かいる可能性は捨てきれず目立つ事は避けたいし魔力も極力抑えておきたいためその選択肢は取らないし、取る必要も無い。


呼吸を抑え、静かに武器庫の中を観察し、気配がない事を改め、暗闇の中を進んだ。

視界にあるのは闇。

しかし、俺には分かる。

一度みた光景を完全に記憶する事が出来る。記憶の中にある武器庫の構造をイメージし目の前の暗闇に重ね、音を立てる事なく一本の槍を手にする。

前に来た時から今までの間に誰かが入り込み武器の位置を変えていれば戸惑う事なく武器を手にする事は出来なかっただろうが、どうやら誰もここには立ち入っていないのか、武器の置かれた位置はそのままだった為上手く武器を手にする事が出来た。


俺はそのまま食糧庫へ向かった。

鉄球がない事に次第に慣れ、立ちくらみは酷いが先程よりは真っ直ぐ歩けるし、足が軽い。食糧庫にたどり着き先程と同じ様に中の気配を探り何者かが未だいる事を確認した。音を立てないよう静かに両手で槍を構えつつ近づき何者かに刃先を立てた。


「動くな。」


低く静かに言った。驚いたのか、声は出さなかったもののたじろぎ、聞き慣れた鎖の擦れる甲高い音と鉄球が石床を短く引きずる音が聞こえ奴隷だと分かった。


「たすぐでぇ、たすげて。」


低く掠れた声は男の物だと分かった。

その声から苦しみが感じ取れた。

槍を持つ手に力を込めた。


殺してしまえばいい、そうするべきだ。


しかし暗闇の中から繰り返し助けを請う奴隷の声を聞きながら俺は悩んだ。


この男が俺と同じ様に無実の罪を着せられているとしたら?

理不尽に絶望と苦痛を押し付けられ生きていたとしたら?


次第に俺は助けを請う暗闇に自分の姿を映していた。

土埃で体は煤け、ボロボロの汚れきった布を纏い、髪と髭は艶なく伸び、頰は痩せこけ、瞳は濁っている俺の姿。

その姿を見た俺には悲しみや苦しみと言った感情が湧く。

しかし、同時に怒りが憎しみが湧き上がる。


こんな姿にしたのは一体誰だ?

こんな辛い目に俺を合わせたのは一体誰だ?奴だ。あの男だ。


勇者の顔を思い浮かべ憎悪が吹き出し身体を支配する。

その黒く激しい炎は俺を焼き、次第に目の前の俺を否定し、嫌悪し、拒絶する。

槍を持つ手に力をこめる。


これは俺じゃない、こんな醜い姿は俺じゃない!


許しを請う声はいつの間にか聞こえなくなり、辺りは静寂が包む。

暗闇に浮かんだ自分の姿は消え、手に生暖かい物が流れる。

槍の刃先から柄を伝う血が、目の前の男の物だと気付いたと同時に手には男の身体を貫いた感触に気づく。

俺は奴隷を殺していた。


「あぁ、ああああっ!」


俺は叫んだ。

奴隷を殺めた自分に流れる浅ましさと後悔と憎しみと肯定と...湧き上がる無数の感情が混ざり合い混乱し叫んだ。

混ざり合った感情はしだいに怒りへと変わった。この苦しみの元凶である勇者への強い怒りへと。




夜の闇は朝日に照らされその姿を隠す。

一睡も出来なかった俺は夜が明け明るくなってから食糧庫の死体となった奴隷を砦の外に出し、荒野に転がる奴隷達の死体の横に置き兵士の死体を探し、死体から鞘に入った剣を奪い砦の塁壁の前で鞘から剣を抜いた。

剣を何度も壁に打ち付け次第に剣先が折れ、その破片を拾い、その手の平大の刃物で長く伸びた髪を切り短くし、伸びた髭を切れ味の悪いその刃物で所々顔に切り傷を作りながらも丁寧に剃り落とした。

砦に戻り食事をとり、残されていた兵士の着替えを見つけ、飲み水を使い身体を洗い拭いて着替えた。裸足だったため靴は兵士の死体から剥ぎ取りそれを履いた。




一通り身支度を終えた俺は砦の中にある椅子に座り今後の事を考えた。

勇者を殺す。しかしそれには足らない事が多い。金、情報何より力だ。

新しい身分も必要になる。

勇者を苦しめ嬲り殺すには全てが足りない。それら全てを蓄え確実に行える状況を作り出さなければならない。

この国から出る必要がある。まずは街に行く事を目指そう。





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