4話
「勇者召喚?」
「ええ、ご存知ですか?」
王立学校を首席で卒業した俺は国の高官や宮廷魔道士など将来を有望され国の重要な役職へのスカウトを受けたが、それらを全て断り父上の後を継ぐために必要な領主運営を学ぶためリースロット伯爵領へ戻り父上の元で日々を過ごしていた。
しばらく経った頃父上から一部の内政の仕事を任され執務室で書類を眺めていたある日、いつもの様にお茶を淹れに来た初老の執事ウォルトが質問をして来た。
「俺が王立学校に入学してすぐの頃だから5年前か、その頃生徒達の間で噂になっていたのを耳にしたよ。何でも宮廷魔道士第一位のアルド・カッパー殿が勇者召喚を行うための研究を始めたとか。」
勇者召喚は1000年前に行われた異世界より強大な力を持つ人、勇者を呼び出す儀式だと聞いている。
バルリング王国を建国した初代バルリング王が神々の神託によりその法を授かり各精霊王の力を借り実現したとされる。
召喚された勇者は美しい女性だったが剣の一振りで森の全てを薙ぎ払い、魔法を使えば大地を破る、まさに神の如き力を身に宿しており初代バルリング王と共にその力で獰猛な魔物を次々と払い国を建てた。
後に初代バルリング王と勇者は結ばれ今なおその血は絶える事なく今日の王族まで引き継がれてるとされている。
丁度5年前は建国1000年に当たる年でそれを祝うためまた今後の王国の更なる繁栄を願うためにも勇者召喚が必要との事となり現王の勅命によって王国一の魔道士であるアルド・カッパーが勇者召喚の任についたという噂だった。
「ええ、そうでございます。建国1000年の記念式典に合わせアルド・カッパー様が5年前に勇者召喚を研究していらっしゃたそうなのですが結局その年の式典までに召喚はなされなかったとの事です。」
「まぁ、それは仕方ないだろう。いくらアルド・カッパー殿が随一の魔導士であっても精霊王を従えるなんて不可能だろう。準備期間も半年程しかなかったんだよね?
それにそもそも勇者召喚なる物が果たして実在したのかどうか。俺は信じていないがね。
多分、陛下も同じ考えでらっしゃたと思うよ。勇者召喚の是非を問われ無駄だと分かっていても無下に出来ず国一番の魔導士にやらせる事に意味があったんだろう。やらせたけど無理でしたって言い訳がたつしな。」
アルド・カッパー殿とは一度お会いした事がある。白髪と白髭を長く蓄えた小柄で痩せた老人だが神経質そうな話し方とギラついた瞳が印象的だった。
「ええ、私も概ね同意見でございました。しかし、どうやら勇者召喚は行われ、しかも成功したとの事だそうです。」
「は?嘘だろ?」
「いえ、確かな情報でして、先程、国から正式な発表があったそうです。なんでも、記念式典までに勇者召喚に至らなかった事を陛下は咎めなかったそうですがアルド・カッパー様は陛下に恥をかかせてしまったとお思いになり酷く責を感じ、記念式典後も勇者召喚の研究に没頭したそうです。
そして苦難の末に独自の召喚方法にたどり着つき、ついに1ヶ月程前に勇者召喚に成功したとの事です。」
「それは凄い。国中が大騒ぎになるだろうな。」
「ええ、既に王都では上を下への騒ぎだそうです。王族の方々と極一部の方々以外には秘匿とされていたようでしたので、報せを耳にした王都の貴族の方々は随分混乱されてらっしゃるようです。何より勇者召喚に力をお貸しし勇者召喚の成功に大いに貢献されたのが第二王女殿下であらせられるとの事が更に混乱を招いているようです。」
貴族の中には王位継承を巡る派閥が存在する。第ニ王女はもっとも継承権の低い方だが今回の件でそれも変わるかもしれない。
貴族達が混乱するのは当然の事か。
勇者召喚はそれほどに影響力を持ち、特に王族にとっては神格化された伝説だ。
王位継承の順位が入れ替わっても可笑しくはないだろう。
「それで若様、有力貴族の方々を中心に集めた勇者お披露目の場が王都で開かれる可能性が高いと思われます。早ければ14日前後だと推測されますので、その腹づもりでいて頂ければと思います。」
「ああ、分かった。そうするよ。」
俺は楽しみだった。
お伽話にしか思っていなかった勇者への興味。今後益々の繁栄が国に約束されるであろう喜び。
突然の勇者召喚成功の一報は、俺の輝かしい未来をまた一つ盤石にし楽しみを与えてくれた。そんな風に俺は思った。




