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誰が為の力?  作者: 渋谷 啓介
3/30

3話

目が覚めると地平線に沈み掛けた太陽が荒野を赤く染めていた。


痛み軋む身体に弱々しい力を込めてゆっくりと立ち上がると辺りは帯びただしい多くの奴隷達や兵士達の死体や肉片が転がっていた。


何故、俺は生きている?


するとあちらこちらで呻き声が聞こえる。

どうやら生きているのは俺だけではないようだ。なるほど、運が良かったのだろう。


ワイバーンとはいえ3体のみ。

800人を超える人間を全て喰らい尽くす前に満足し、何処かへ行ってしまったのか、ワイバーンの姿は見当たらない。


俺は両足の鉄球を引きずりながらゆっくりと歩き出した。生き残った者のうち、立っているものは俺以外誰もおらずワイバーンによるものか、手負いの者が殆どで苦しみに唸る者ばかりだったがそれらを尻目に兵士達が常駐していた砦の前にきていた。


塁壁の扉の無い門から砦の中の様子を伺うが人の気配がない。

門のすぐ横に併設されていた馬小屋には常時10頭以上の馬がいたが全て居なくなっている。


やはりそうか。


生き残った兵士が何人かは分からないが運良く生き残った者達は馬を使い街まで逃げたのだろう。


俺は砦の中へ入った。

目的は水、食糧。

ここから一番近い街までは砦の裏側から森を抜ける道を馬で10日以上かかるため幾らかの食糧は持ち出されているはずだろうが緊急自体の為持ち出される量はたかが知れているはず。


今まで満足に水や食糧を与えられず満たされなかった飢えに突き動かされてボロボロな身体に鞭を打ち砦の中を探し、割と早く食糧庫にたどり着いた。


砦などの間取りは慣例で大体決まっていた。次期領主としての勉学に励んでいた俺は当然その事も知識として分かっていた為時間を掛けずにたどり着く事ができた。


俺は甕に入った水をがぶ飲みし、置いてあった塩漬けにされた肉や保存の効く野菜に目をやる。奴隷になってから食事として出された事の無いそれらは兵士用の食糧なのだろうと思いながらも貪るように、時折噎せながらも喰らい付いた。


しばらくして腹ごしらえを済ませた俺はその場に寝転がり今からどうするかを考えた。

運良く生き残り、しかもここから抜け出せる僅かながらの好機に今、恵まれている。


そう、これは好機、天啓だ。

神が、いや、死神が俺に慈悲を与えてくれたに違いない。

奴を殺すための好機を!慈悲を!

この機会を逃すわけにはいかない。

必ずや勇者に復讐し地獄へと叩き落としてやる!


その為にもまず優先しなければならない事があった。両足に繋がれた2つの鉄球に目をやる。まずは急ぎこれをどうにかしなければ。どうすればいいか暫く思案していたが満たされた腹が眠気を誘いそれに抗えず眠りについた。




目が覚め、はっとして辺りの様子を伺った。俺は今、砦の食糧庫にいる。そして変わらず人の気配を感じない。夢でなかったことに安堵し僅かに軽くなった身体を起こし砦の中を隈なく歩き、武器庫を見つけた。武器庫といっても置いてある武器の数は少なく質も悪く、数本の槍に弓とその矢、小ぶりの斧が適当に置かれているだけだった。

その中から俺は小ぶりの斧を持ち足と鉄球を繋ぐ鎖に叩き付けたがビクともせず逆に斧の刃が欠けてしまった。


「やっぱり無理か。」


鎖は質のかなり悪い鉄で出来ていたが強度を出すため太く作られている。


「魔法が使えれば問題なく切れるだろうがこんな安物のガラクタじゃビクともしない。アイアンモールの歯ぐらいの強度がある武器じゃないと難しいか。...まてよ。」


アイアンモールは地中に住む小型の魔物だが特徴的なのは地中の岩石を砕く強い顎と固い歯だ。肉食だが他の魔物が狩った獲物のお零れを食べ、死に掛けの生き物が目の前にあったとしても死ぬのを待ち死んでから食べる習性があるそうだ。

むしろ死骸しかたべないらしい。

アイアンモールは魔物が住む地には大体住んでいると聞く。そして俺はアイアンモールを誘き寄せる方法を知っている。


試してみる価値はある。

というかこれしかないと思う。


早速俺は歯のかけた斧を持ち砦をでた。

日は真上に登り強い日差しがジリジリと肌を焼く。荒野には昨日と変わらず奴隷や兵士の死体が転がりまだ息のあるものがいるのか所々から呻き声のようなものが聞こえるが助けられるわけもなく無視し荒野を少し歩くと仰向けで頭はついていたが片方の肩から腹にかけて大きく穴が開いている兵士の死体があった。その兵士の顔には覚えがあった。


「あの時、逃げ出した方の兵士か。」


様は無いな。

こいつにしよう。


斧を振りかぶり兵士の残っている方の腕に数回打ち付け切り落とした。

斧を捨て、代わりに兵士の物であろう剣と切り落とした腕を片手に持ち、もう片方の手には落ちていた鍬を拾い、砦の裏手へ向かった。


砦の裏手には舗装されているとは言えない、辛うじて馬車1台がギリギリ通れそうな幅の道が森の中を真っ直ぐに伸びていた。

その道を少し進み道の真ん中で鍬だけを置き座った。

鞘から剣を抜き剣先を未だ血の垂れる兵士の腕の切り口に浅く刺しグリグリと剣を捻り、切り口を柔らかくし、切り口を鎖に押し当て擦り両足の鎖と分厚い足枷に満遍なく血を塗りつけた。


これで、アイアンモールが現れた時に噛み付いてくれる...はずだ。


次に鍬で穴を掘った。

荒野の地面と硬さが全然違うなと思いつつ腕の長さの半分程の深さになった穴に切り取った腕を切り口を下にし、まるで地面から手が生えているみたいに見える様に腕の半分から手の先を地面から出し切り口の方に土をかぶせ埋めた。


これで、後は待つだけだな。


地面から生えた手を見ながら、幼い頃アイアンモールの駆除に父上と領地内の村へ行った時のことを思い出す。

本来わざわざ領主が出張る様な事ではなかったが父は俺に村の生活などを学ばせるために領主経営の学習の一環として俺を連れ出したようだった。

その時に出会った村人にアイアンモールの駆除の仕方を教わった。

アイアンモールは田畑を荒らす害獣らしく定期的に駆除していて、その時はもちろん人間の腕など使う訳もなく羊の足を使っていた。地面に置いておけば埋めなくても暫くすれば血の匂いに寄ってくるのだが他の魔物も寄ってくるのを避けるためと埋めた方が早く寄って来るためだそうだ。俺も手伝い、初めて駆除したアイアンモールを父上に見せると父上は優しく笑って頭を撫でてくれた。

嬉しかった。

優しも厳しく領民にも家臣達にも信頼される父上の姿に、その子である事は誇りであり自慢だった..。


地面に生える手が震えた。


きた。


ゆっくりと近づき側に立って待つ。

生える手が激しく揺れ出しどんどん地面に吸い込まれていき全てが吸い込まれたと同時にアイアンモールが姿を表した。


ネズミによく似た風貌だがネズミよりもふた回り程大きく茶色の体毛に身を包み、目が無く匂いを嗅いでるのであろうか鼻先をスンスンならし周囲を探るような仕草をしていた。手があった場所からはどんどんアイアンモールが湧き出し気持ち悪く感じたがじっと動かずにいた。するとアイアンモールは俺の足に近づき鎖や手枷に齧り付いた。

ゴリゴリと音を立て硬さなど関係ないように削っていく。

鎖は直ぐに切れ足枷もどんどん削れていく。


「ぐっ!」


足に激痛が走る。

足枷を削る勢いのままに俺の足を削ったのだろうが足枷はまだ取れない。激痛に耐え、枷が外せる頃には両足の傷は深く、足元は血だらけで流血の多さは致死量に達するほどだ。激痛に耐えきれずその場に倒れ込み、その拍子でアイアンモールは散り散りに俺から離れた。傷に手をあて唱える。


「ひ、ヒール...。」


手がぼんやりと柔らかい光を帯び傷を覆う。

出血が止まりアイアンモールに削られた傷が徐々に再生し完治したが魔法での治癒は痛みは直ぐに収まらず流れた血も元には戻らない。両足の痛みに耐え立ち上がるも血が足りず全身に寒気を感じ視界も暗く死を感じる。

散った、目の無いアイアンモール達がじっとこちらを見ていた。


ここで倒れば魔物に襲われるかもしれない。ふらつきながら砦にたどり着き、そのまま倒れ意識を失った。





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